門前仲町の『大坂屋』は、大正13年に創業し、まもなく100周年を迎えます。看板料理は牛もつを味噌味で煮た「にこみ」。東京では珍しい串打ちしたタイプです。4代目になる女将さんが鍋の番をしながら、優しくお客さんたちをもてなしてくれます。
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門前の屋台からはじまった大坂屋
ここは東京都江東区、門前仲町。1703年に創建された深川不動尊を中心に広がる歴史あるエリア。東京メトロ東西線、都営大江戸線が乗り入れるほか、東京駅、錦糸町駅、東京テレポート駅など、多方面から都営バスが集結する交通の結節点となっており、駅周辺は乗り換え客でいつも賑やかです。
人が集まれば自然と飲み屋がうまれるもの。門前仲町には老舗を含め約200軒の居酒屋がのれんを掲げています。
その中でも、とくに歴史がある酒場が『大坂屋』です。店名は出身地からと聞きます。
1924年(大正13年)、初代が門前仲町でもつ煮込みの屋台をはじめたことが発祥。戦後、深川公園近くに店舗を構えるようになり、現在に至ります。
東京の酒場好きの間ではとても有名な店です。店構えはとてもかわいらしく、長年続けてきたスタイルを守り続けていることがわかります。
暖簾が掲げられるのは16時。営業は20時までなので、『大坂屋』を狙って門前仲町へ飲みに来る方は、仕事を早めに切り上げて夕方には店に集まってきます。
この日も、地元の常連さんや遠方から通っているお客さんで、17時前から6席あるカウンターは空席わずかでした。
品書き
お酒
ビール(キリンラガー・サッポロラガー)大瓶:700円、御酒:450円、冷酒:1,100円、焼酎(宝焼酎):450円、ワインハーフボトル:1,200円。このほか、タカラcanチューハイ(450円)、サントリー角ハイボールもあります。
料理
牛にこみ1串:150円、玉子入りスープ:350円、オニオンスライス:300円。
大瓶とにこみ1人前からはじめる
サッポロラガー大瓶(700円)
暖簾をくぐれば、すぐにカウンター席があります。店の造りは独特で、カウンターは中央に煮込みの鍋を埋め込んだ、全国的にも珍しい三日月型をしています。しかも素材はヒノキだから驚きます。その向こう側には女将さん。さらにその先に、常連さんの小上がりという構造です。
店の雰囲気は変わっていませんが、大型の液晶テレビが設置され、時代の変化は着実に進んでいます。BGMなどは当然なく、テレビに映る相撲中継から聞こえる”呼出”さんの声が静かに響きます。
さて、内観を楽しんでおらずに、一杯目をいただきましょう。店先の電照看板にあるとおり、『大坂屋』のビールは赤星ことサッポロラガーがメインで、ビール大瓶と注文すれば、赤星が提供されます。
女将さんから赤星を受け取って、ビヤタンをトクトクと満たしたら、さぁ、幸せな煮込み時間のスタートです。それでは乾杯。
にこみ串一人前5本(750円)
お通しは自家製のぬか漬けです。しんなりと浸かっていていい塩梅です。
ビール、お通しと揃ったところで、それでは牛にこみを頂きましょう。常連さんはお好みで選びますが、一般のお客さんは1人前5本をまず頂くのが”おきまり”です。
大坂屋の煮込みは、戦後に開いた店に多い豚モツではなく、牛モツをつかっています。部位はシロ、ナンコツ、フワの3種類。甘く深いコクのタレが、濃厚な旨味の牛モツと調和しており、意外なほどぺろりと食べてしまいます。
脂をそれほど落としていないシロですが、クサミを感じず、ただただ旨味成分の固まりといった味なのです。そんな余韻にぐっと冷えたサッポロラガービールをあわせれば、今日も一日幸せに過ごせたと感じるものです。
新玉ねぎオニオンスライス(300円)
春なのでちょうど新玉ねぎの季節です。旬のオニオンスライスは箸休めにぴったり。おかかとポン酢で味付けしたシンプルな一皿ですが、口に残るにこみの余韻とあわさると、これが不思議ともりもり食べたくなります。
焼酎(450円)
さて、ビールや日本酒もよいですが、大坂屋にきたら、やっぱり焼酎を飲んでおきたいところ。宝酒造の甲類焼酎、大坂屋と同じ100年続く「宝焼酎」です。ここにエキスを垂らして甘く飲み心地を良くしたものが、大坂屋流の飲み方。
そのまま、いわゆる「梅割り」で飲んでも良いのですが、大坂屋では氷入りのグラスをだしてくれます。
アルコール度数20度越えの梅割りでは強すぎるという方や、夏場に冷たいお酒を求めている人に嬉しい、オンザロックスタイルの完成です。とはいえ、結構な量の甲類焼酎ですから飲み過ぎにはくれぐれもご用心。
ちなみに、チューハイが飲みたい方向けに、宝酒造が1984年からつくるロングセラー「タカラcanチューハイ」も置いています。こちらも牛にこみとあうこと間違いありません。
100年続く味、これからも
〆には玉子入りスープを頼む常連さんもいらっしゃいます。これは生の卵をにこみ鍋で茹で、殻をむいて鍋のつゆをかける大坂屋独特の一品です。黄身に味がしみて、継ぎ足してきた大坂屋のにこみの味をしっかり楽しめるはず。
営業できない期間も鍋の味を守り続けてきた女将さん。再開した今、常連さんたちと笑顔でお話されていました。下町の酒場のほっこりとした雰囲気に癒やされ、心も体もほろ酔いになりました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 大坂屋 |
住所 | 東京都江東区門前仲町2-9-12 |
営業時間 | 16:00~20:00(月木日定休) |
開業年 | 1924年 |