秋田で飲み歩く人なら、みんな一度は立ち寄るであろう川反『紀文』。ローカルに大人気の深夜営業蕎麦店です。蕎麦店ながら名物はラーメン「千秋麺」なのですが、夜中までやっていることから居酒屋利用する人も大勢います。蕎麦前で高清水をちびりと飲んで、〆の麺類を食べるまでが、秋田の夜の”おきまり”でしうか。
目次
飲んだあとはラーメン。でも、〆の店でも飲みたい秋田の夜
遡れば、明治時代に花街として誕生した秋田・川反(かわばた)。隣接して旭川が流れており、川の反対側だから「川反」という地名になったという話し。駅からタクシーでワンメーターの距離にありますが、ここが秋田市を代表する”夜の街”です。どんなに降雪があっても、川反の道を歩けばいたるところから昭和歌謡の歌声が漏れ聞こえてきます。
由緒ある料理屋や居酒屋、歴史あるオーセンティックバーなどが立ち並び、お酒好きにとって秋田観光といえば千秋公園(秋田藩主佐竹氏居城・久保田城址)よりも、川反散策かもしれません。
そんな川反で半世紀以上続いてきた人気の蕎麦店があります。老舗の蕎麦店は数多くありますが、ここ『紀文』は特筆すべき特徴がふたつあります。
ひとつは、名物が蕎麦ではなく『千秋麺』という和風ラーメンであるということ。どれだけ名物かというと、秋田県では、スーパーマーケットで紀文の家庭用袋生麺が発売されるくらい。場所柄、接待帰りや夜のお仕事上がり、そして飲み会の締めなど、飲酒後の利用が圧倒的に多いのですが、意外にもエッセンシャルワーカーなど、夜勤職場の人が深夜食堂的に利用する光景も見られました。
特徴その二。先述の通りここは蕎麦屋としては珍しい、深夜1時まで営業しています。東京・六本木ならまだしもここは秋田。たとえ厳冬期の雪の中でも原則深夜1時までやっているのです。
外観
二重ドアに冬の厳しさを感じます。
深夜までやっていると聞けば、チェーン系や若い人がやっている今風の店舗を想像するかもしれません。ですが、どうですか、この店構え。しっかり名店オーラをだしているように思えませんか。
ショーケースには、食品見本がおすまししていました。
内観
外観から感じるオーラは、店内に入ってますます強くなります。畳敷きの小上がりとテーブル席を配した、奥に長く広い店舗です。働いている皆さんも、普通の蕎麦屋にいるような人情感じるベテランさんばかり。街と店のギャップに驚くばかり。
品書き
お酒
樽生ビールはありませんが、瓶ビールは5銘柄という充実ぶり。中瓶でアサヒスーパードライ、キリンラガー、キリン一番搾り、サッポロ黒ラベル:550円、ヱビスビール中瓶:605円。
サワー・ハイボール類は、チューハイ各種:440円、ブラックニッカハイボール:407円など。
多くのテーブルで頼まれているのはやはり日本酒のようで、秋田酒類製造(秋田市)の高清水1合:330円、高清水辛口生貯:825円、飛良泉本舗(にかほ)の飛良泉山廃純米:935円、刈穂酒造(大仙)の刈穂吟醸酒六舟:990円と、県下の銘柄が揃います。
さらに、グラス売りの地酒あり。取材時は鳥海山 純米吟醸生酒、龍蟠(りゅうばん)純米吟醸原酒と、かなりハイクラスなお酒もありました。さすが、日本酒消費が多い秋田県。締めの蕎麦屋もぬかりありませんね。
おつまみ
板わさ:330円、漬け物:550円、メンマ・辛口メンマ:550円、チャーシュー5枚:495円、ネギチャーシュー:550円、親子とじ:550円、カツとじ:660円、天ぷら盛り合わせ:770円など。
麺類
参考までに、麺類は千秋麺(半):495円、ざる中華:770円、カレーそば:770円、一口ざるそば:440円など。
だし割りもおしんこも超濃厚
焼酎だし割り(495円)
今宵もしっかり飲んだ。飲んだあとですから、お腹をほっこりと温めてくれるお酒が飲みたい!
そう考える人は私だけではないようで、飲み慣れた感じの皆さんもこぞって注文していたのがこちら「だし割り」です。蕎麦屋ですから出汁をとっているのは当然ですが、まさか鰹節と昆布がそのまま入ってくるとは思いませんよね。
うーん、日本人ならみんな好きなこの香り。乾杯。
漬け物小(275円)
しみじみと美味しいだし割りに、あわせるのは秋田らしい塩味がしっかりときいたお漬物。季節によって内容は変わるようです。クタっと浸かっており、これにだし割りを合わた途端、旨味成分で深夜の眠気が吹き飛びそうになりました。
高清水(330円)
こうなるとお酒が欲しくなる。だし割りを液体おつまみのように口に含みつつ、その余韻に秋田が誇る全国区銘柄・高清水のお燗酒をきゅっとひとくち。外は寒そうですが、これで宿まで帰れそうです。
一口ざるそば(440円)
千秋麺は気になりますが、筆者は普段からラーメンよりも断然蕎麦派でして、取材そっちのけで一口ざるそばを注文。角を立てた蕎麦屋らしい実にいい蕎麦が登場しました。飲兵衛に優しい少量サイズが有るのは嬉しいですね。鶉の卵がついてきます。
スルスルと手繰れば、軽快な喉越しとともにお腹がちょうどよく満たされました。つゆの辛さはおとなしめですが、美味しいお蕎麦でした。
いつかは千秋麺も食べてみたいなと思いつつ、またきっと蕎麦を頼んでしまいそうです。
秋田・川反を飲み歩くとき、〆の麺類とお酒が楽しめる店がどこかないかなと思ったら、ここ『紀文』で間違いありません。秋田の飲兵衛さんの世界に近づけたように思えるはずです。
時計を見れば、時刻は深夜0時。ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | そば処 紀文 |
住所 | 秋田県秋田市大町6-2-4 |
営業時間 | 11:00~14:00・18:00~25:00(日定休※月が祝日なら月休) |
開業年 | 1966年 |