地吹雪の秋田。秋田新幹線の開通で東京から乗換なしで来られるようになったとはいえ、はるばる来たなと旅情を感じます。
最強の寒波で氷点下の-6℃。秋田駅が凍ってます。 pic.twitter.com/MlriTPBQ5g
— 塩見なゆ (@KanpaiNayu) 2018年1月24日
高清水で知られる秋田酒類製造を取材のあと、向かうは駅前の「永楽」。地場の飲み屋を知り尽くした秋田酒類の人たちも普段から利用するという酒場です。
御食事処であり、「食堂」ではあるものの営業は夜からで完全に酒場化しています。そういえば、秋田は昼酒処はかなり少なく、明るいうちから飲む習慣はなさそう。律儀で勤勉で知られる美の国らしい。
とはいえ、食材は海に里に山にごちそういっぱい。そんな秋田の食材を地元の人が日常的に楽しむ酒場が「永楽」です。お客さんのほぼ100%が駅周辺や官庁街で働くサラリーマン。会社帰り、何人かで連れだって飲みに来る様子は日本どこでもかわりません。
カウンターに並ぶ大皿料理は巨大なアジフライに十和田豚、比内地鶏と食欲そそるものばかり。
日替わり料理が圧倒的に多く、黒板に隙間なくびっしりと書かれています。左の黒板にある「ダダミ」は鱈のこと。寒ダラの刺身は淡白ながら甘く優しい旨味がお酒と好相性。
活ホタテに活タコ、活真ツブに活ホッキ、港も近い秋田ならではの鮮度抜群な海の幸がずらりと出番待ち。
煮炊きの部、キンキン煮付けに惹かれ、比内鶏の手羽にも魅力を感じます。
定番料理には御食事処の看板のとおり、オムライスや中華が並び、専門店にも負けないと常連さん太鼓判のきりたんぽ鍋も600円と手頃に楽しめます。
米と鳥海山の伏流水、山内杜氏の職人技が磨き上げた銘酒が揃う美酒王国の秋田。酒といえば日本酒であり、酒場に集う人たちは各々にお気に入りの蔵があります。
そんな酒好きをとりこにする酒メニューが壁一面に貼られています。
壁の上部中央に「←あだえ おらえ→」と書かれていまして、秋田弁で”あだえ”は外のこと、”おらえ”は私たち(の家)という意味。左側に上喜元や東洋美人、竹鶴などが並び、右側は高清水、太平山、雪の茅舎など魅惑の地酒で埋められています。
焼酎も種類そこそこあるも、九州の酒場とボリュームが逆転しているのが酒場文化の違いとして興味深い。ビールは生がキリン一番搾り、瓶でサッポロラガーです。
予約なしだと、早い時間に一人ならばなんとかなりますが、2人以上は予約したほうが安心なほどの人気店。飛び込みではいった私は地元出身の会社員お二人と同じテーブルで相席。
いやいや、どうも。遠方から来た人をもてなす習慣が強いと話すお二人の常連さんは、最初から「乾杯しましょう!」と言ってくれました。一期一会の酒の仲間というのはいいものです。
秋田でも乾杯はビールが定番。ここでは一番搾り生でスタート。お通し2皿でてきます。3月末までは湯豆腐。吹雪の梯子酒で湯豆腐はしみるのです。
白魚が2品目のお通し。ぷりっぷりで鮮度抜群。こんなに噛みごたえと甘みがあるのかと、改めて感じさせてくれる上ものです。夏季はホタルイカなどに変わるそう。
常連さんは酒に切り替え。私もお酒に。「ここは飲み比べを飲まなきゃいけないよ」(方言で)と常連さん。3種類選べて800円なのですが、銘柄は何を選んでも良いのです。
一杯売り500円の純米でもよし、純米大吟醸だけを3種類選んでも良いという大盤振る舞い。
選んだお酒は天の戸純米大吟醸など地元の磨いたお酒3種類。これほど秋田のお酒が並ぶ飲み屋は珍しいでしょうし、県内各地の蔵がまんべんなく揃っているので、まさに地酒天国。
土地の酒には土地の魚。「適当に盛り合わせて」というお願いで寄せてもらったお刺身。ツブの大きいこと、コリコリとして噛むほどに磯の美味しいところがじゅっと広がります。そこへきゅっと新屋の酒「酔楽天」を。酒場では「秋田晴」でおなじみの蔵の大吟醸酒。
寒ダラの白子も本マグロ、活だこ、活ホタテ、寒ブリにしめ鯖。もうたまりません。
キンキは北海道の呼び方。青森や秋田ではキンキンだよと教えてくれたのは近くの市場の鮮魚店の大将。宮城ではキチジと呼ぶそうな。旬はまさに海底が冷える今。脂がぷりぷりに載っていて、煮付けにしても身が崩れないほど、モチモチとしています。
秋田らしいたっぷり醤油の味付けにも負けない濃厚な旨味。ビールチェイサーに高清水、両関、太平山の定番トリオをくいくい飲めば、ああいい気分。
このままのペースで飲むと出来上がってしまいそう。ホテルまでに遭難するのも避けるためにチューハイを。生ビールはキリンですが、樽詰チューハイはサッポロの氷彩サワーが用意されています。
防寒・防雪装備の強面ななまはげ似のお父さんたちも、店に入ったらみんな飲んで楽しく笑っています。東北の酒場は外が寒いほど、中は人もお酒もあったかいです。
美味しいものいっぱいの秋田へ、飲みに行きませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
永楽
018-833-1473
秋田県秋田市中通4-11-10
17:00~24:00(日祝定休)
予算3,300円