学芸大学に久しぶりに立ち飲み酒場が復活しました。店の名は『立呑み 鉄砲玉』。大将は、かつてこの街で営業していた「立呑み 晩杯屋」で働いていた正木さん。看板料理は生にこだわった「本マグロ」。SNS映えを狙った酒場が増加中の学芸大学で、貴重な正統派の酒場の誕生です。
目次
なぜか立ち飲みが根付かない「学芸大学」
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渋谷から東急東横線で約10分。東京都目黒区鷹番にやってきました。
地名の「鷹番(たかばん)」よりも、駅名の学芸大学のほうがわかりやすいかもしれません。碑文谷公園の最寄り駅です。駅名の由来となった東京学芸大学は半世紀前に小金井市に移転しましたが、駅名はかわりませんでした。
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乗降人数は約7万人の学芸大学駅は、駅を中心に大変活気があります。祐天寺や自由が丘同様、駅前は細く入り組んだ路地が複雑に伸びていて、びっしりと商店が立ち並んでいます。歩行者の往来が多く、まさに「私鉄沿線」ならではの街並みが特徴です。
若者に人気の住宅街で、近年はネオ居酒屋やクラフトビールを看板に掲げた「今風」の店が増えていますが、なぜか立ち飲みが根付かない街でした。首都圏で展開する大手立ち飲みチェーン「立呑み 晩杯屋」も2016年の開店から3年で撤退しましたし、当初立ち飲みで営業していたお店も、いまは椅子を置くようになりました。
老若男女が気軽に飛び込みで小一時間飲んで二千円。それくらい気軽なお店はほとんどなかったと言えるでしょう。
外観
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そんな学芸大学駅前に、2022年8月5日。期待の新店舗がオープンしました。店名は『立呑み 鉄砲玉』。
大将の正木さんは高知の割烹の息子さんで、高校卒業後、高知・大川筋の料亭「花蝶庵」で“追い回し”(下積み修行の見習い)として料理人の道へと進みはじめます。その後、東京へ上京。立ち飲み業態を知るために晩杯屋にも就職し、学芸大学店に勤務した経験があるといいます。
直近では豊島区池袋でマグロ専門の立ち飲み店「おぐろのまぐろ」で店長を務めていたそうです。同店とパートナー関係にあったマグロ仲卸業の小黒食品との繋がりが、「立呑み 鉄砲玉」の看板料理である「生マグロ」を実現しています。
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開店は15時と、周辺の酒場より一足早めです。理由について尋ねると「晩杯屋も15時にあけていましたから。結構早い時間から飲む常連さんはいらっしゃいました」とのこと。
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店は10~15人でいっぱいになるコンパクトなつくりです。完全オープンキッチンスタイルで、板前修業をしてきた大将・正木さんの調理風景も楽しめます。
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壁にはられた心得に、どこか見覚えがあります。
品書き
お酒
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樽生ビール(サッポロ生ビール黒ラベル):480円、生レモンサワー:380円、ホッピー(ホッピー・黒ホッピー)セット:380円、自家製ポン酢サワー:430円、ガリ酎ハイ:380円など。
ホワイトボードメニュー
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煮貝(バイ貝):630円、活〆シマアジ(天草):780円、本マグロ中落ち:780円など。
定番メニュー
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名物はふたつ。マグロ刺し:980円と牛モツ煮込み:480円。
お手頃定番料理は、チーズそぼろ:380円、ダシ巻き玉子:480円、鯛ちくわ磯辺揚げ:380円、豚の唐揚げ(どろソース※オリバーソースを一部使用):430円など。
酒場の本筋を貫く肴に思わずうなずく
サッポロ生ビール黒ラベル(480円)
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生ビールはしっかり入る435mlジョッキで提供されます。学芸大学界隈で、この価格と量は実に嬉しいです。状態のよいサッポロ黒ラベルで乾杯!
名物その1,マグロ刺し(980円)
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大将のマグロ仲卸との付き合いは、店を開いても続いています。豊洲市場から届くマグロが同店の名物料理です。
マグロならなんでもよいのではなく、あえて「生」のマグロにこだわっています。その理由について尋ねると「マグロはスーパーの鮮魚コーナーや回転寿司などで手にとることの多い身近な魚ですが、その多くが冷凍していたものです。生マグロ、とくに生の本マグロの美味しさは、香り、舌触り、脂の旨さなどが格別なので、ぜひ食べてほしいという想いから看板料理にしました」とのこと。
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確かに立ち飲みとして980円はかなり高級です。ですが、それだけ出す価値は十分にあると思います。マグロは仕入れによって変わり、取材時は長崎産の生本マグロの中トロと赤身が用意されていました。
生マグロのキメの整った食感と味の濃さは特別です。添えられたワサビには、西洋ワサビが混ぜられているそう。シャキッとしていて爽やかな食感がマグロとよくあいます。
玄米茶割り(380円)
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ご主人のおすすめ、ティーバッグタイプの玄米茶割りをいただきます。煎茶割りもありますが、あえて玄米茶のほうを強く推しています。ティーバッグタイプなので、飲み干したらナカを追加でもらって二杯目、三杯目も楽しむことができます。
茶葉だけでなく玄米も含む豊かな風味が刺身と相性抜群です。
名物その2,牛モツ煮込み(480円)
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マルで届く牛モツを店で下ごしらえし、適度に脂を落としてから煮込んだもの。味噌ベースで、モツと一緒に入れた玉ねぎやニンニクがトロトロに溶けるまで時間をかけているそうです。
最高級梅干サワー(430円)
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ほかでは飲んだことがない、カツオ梅紫蘇(さすが高知出身)を浮かべた特製梅干しサワーです。ほんのりとした塩味と、なによりしっかりと効いた旨味が秀逸な一杯です。個性的な飲み物が多い同店ですが、筆者のイチオシはこれ。
枝豆より美味しい浸し豆(330円)
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あわせるおつまみは、長野県産の鞍掛豆を修行時代に学んだカツオと昆布でとったダシに一晩漬け込んだもの。芯まで旨味が染み込んでいて、豆そのものの濃い旨味もあわさって実に良い味です。
酒盗ポテトサラダ(380円)
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(開店リリース資料より)
マヨネーズの使用を最小限に、生クリームベースに酒盗をあえてつくるというポテトサラダ。酒場の定番つまみを程よくアレンジしたものですが、無骨な見た目と手頃な価格は「ポテサラはこれくらいがいいな」という気持ちにぴったり当てはまります。
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地酒も売り切りで入れ替わるように揃えており、今後の品揃えが楽しみです。
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15時開店、使い勝手のよい新店です。こういう落ち着く小箱の立ち飲みができる街は、いい街です。2品2杯で二千円くらい。どうですか、今度、東横線沿線に用事があるときはちょっと覗いてみたくなりませんか。
ごちそうさま
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 立呑み 鉄砲玉 |
住所 | 東京都目黒区鷹番3-3-19 |
営業時間 | 営業時間 15:00~23:00 日曜営業 定休日 水曜日 |
開業年 | 2022年8月5日 |