戦後、横丁酒場の文化が花開いた地、仙台。文化横丁には仙台では珍しい豚モツ串の店があります。店の名は「焼き鳥きむら」。1本80円の串と大瓶380円を求め、今日も常連さんが集まります。
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文横の関所的存在
仙台の飲酒シーンは国分町だけにあらず。むしろ、横丁を見てこそ本当の仙台のナイトタイムエコノミーの底力を知ることができます。
いくつも小路や横丁が入り組み、そこには小さな酒場に地元の会社員や近所の人が集い、ひとつずつに小さな世界が広がっています。そこに飛び込まずして、仙台の奥深さは語れないかもしれません。
常連さんが集ういい店は数多ありますが、文化横丁の「焼き鳥きむら」は、間違いのない一軒です。
ただ、だいぶ昭和っぽく、普段明るく広くマニュアル接客の居酒屋を好む人には敷居が高いかも知れません。ですが、「郷に入りては郷に従え」の精神で、ぜひふらっと暖簾をくぐって頂きたいです。
お店は文横こと文化横丁の入り口にあり、夏場は店先にテーブルをだして、めちゃくちゃ「昭和の横丁」感を漂わせています。
創業は1970年(昭和45年)。
店の歴史は半世紀にもなりますが、文化横丁の由来の歴史はもっと長く、原点は大正時代に「文化キネマ」という映画館の脇道だったことから来ています。戦後の混乱期、ヤミ市的な役割を果たしました。ですので、きむらの店のつくりも同時期の横丁酒場の姿そのものです。
生ビールなし、瓶ビールは仙台生産!
焼き場の女将さんが中心に切り盛りしています。店は非常にコンパクトで、変形L字のカウンターは焼台との距離も近く、居合わせたお客さん同士、会話はせずとも一体感を共有する雰囲気です。二階にも席あり。
口開けと同時に常連さんが次々訪れ、あっという間に満席に。ただ、回転がよいので案外すんなり入れると思います。
ビールは「きむら」の創業とほぼ同時期に竣工した仙台・名取のサッポロビール仙台工場(固有記号N)製を長年変わらず出し続けています。最近は赤星(サッポロラガー)も加わりました。なお、樽生も扱いはありません。
そんな名取のサッポロ生ビール黒ラベル大瓶をもらって、では乾杯。
メニュー
品書きはとってもシンプルで、そして安い。普通に飲むなら2,000円でお釣りが来ます。
ビールは、サッポロの大瓶が580円。そしてこれは10年以上前からなのですが、珍しく発泡酒の取り扱いがあり、キリンビールの淡麗極上〈生〉大瓶が冷えています。大瓶1本380円と破格の安さで飲ませてもらえます。
清酒は高清水(コップ200円!)、本格焼酎はいいちこ(こちらも200円!)など。
看板料理の「やきとり(ひらがなは豚モツの意味の場合が多い)」は、シロ、レバー、タンなど80円均一。正肉では豚バラ、豚ミソ(各90円)のほか、焼鳥(鶏)で砂肝や皮、ぼんじり、肉だんご(各90円)もあります。
小鉢で、青菜漬けや冬季限定湯豆腐など、200円均一でちょっとしたものが並びます。
安い、気軽、早い!
シロ(80円)
盛業店ゆえ、常にもうもうと煙を立てて串が焼かれています。それでもあまり待つことなく、次々焼けた順に出してくれます。背伸びせず等身大で飲める街の酒場で、雑多な空間にひたり食べる焼き鳥は雰囲気によってより美味しくなるというもの。サラサラの甘タレはだいぶ深いコクがあります。
箸休め、トマトスライス(200円)
ノスタルジー酒場で食べる冷やしトマトはプライスレス。家で食べられるけれど、家では気づかない美味しさ。
豚バラ(90円)、タン(80円)
意外かもしれませんが、モツもいいのですが豚バラが素直に美味しいのです。塩分強め、クッションの玉ねぎが脂をすっていい感じ。ビールが進みます。豚タンをはじめ、モツ系はどれもジューシーでぷりっぷり。食材の回転がいいと言いますか、次々売れていくのでモツも新鮮なのだと思います。
モツ(レバー)など、どっと焼いてもらって
東京は山の手、下町、墨東に関係なく至るところにモツ焼き店があります。ですが、仙台は少なめ。だからモツが食べたい人が集まるお店は自然と限られてきます。
ただ、そうしたロケーション関係なしに、ここでモリモリとモツ焼きを食べ、ビールを飲んでいくのは幸せなのです。女将さんの距離感も心地良いです。
それにしても、淡麗の瓶は珍しい(淡麗の写真は他とは別日に撮影)。そして大瓶で400円をきる破格の安さも酒場好きに優しくて素敵です。
心の壁を取り払い、のんべんだらりと時間を忘れ、仙台の夜を過ごすのもなかなかいいものです。平和なときに、ほっとした時間を文横の「焼き鳥きむら」で過ごしませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 焼き鳥きむら |
住所 | 宮城県仙台市青葉区一番町2-4-17 文化横丁 |
営業時間 | 営業時間 17:00~23:00 定休日 日曜日・祝祭日・お盆・年末年始 |
開業年 | 1970年 |