昭和48年創業、旗の台駅前の焼鳥店「鳥樹」の鶏料理は一度食べたら忘れられません。名物は鶏のたたきと唐揚げ。どちらも平凡な鳥料理と侮るなかれ!大将の人柄も店の魅力です。
東急池上線と大井町線が交差する旗の台駅。駅周辺には昭和大学病院があることで有名です。一時期、旗の台に家を借りたことがありましたが、東京下町的な小さくまとまった町並みが好きな私にはとても住みやすい地域でした。
何軒か名店と言われる酒場があるほか、角打ちや大衆中華もあるこの街ですが、焼鳥の「鳥樹」はひとつ飛び抜けた特別なお店でした。20代そこそこの私にはやや割高だったこともありますが、なにせ人気店で入れればラッキーという印象だったものです。
目次
駅から徒歩でわずか30秒
いつのまにかきれいに整備された旗の台駅。以前は池上線開業の頃から使っているようなレトロで塗料も剥げてしまっている木造構造物でしたが、リニューアル後もやはり木造で「木になるリニューアル」として多摩産の木材を多用したようです。
東急池上線が山手線と接続する五反田駅からわずか6分。非常に利便性のいい街で、今もとても好きです。
鳥樹は旗の台に2店舗ありますが、本店は池上線改札から徒歩30秒ほど。横丁を彷彿とさせる細い路地の先にあります。駅前とはいえややわかりにくいこの場所で盛業であり続けてきたことに、店の底力を感じます。
田園調布出身の大将が開いた鳥樹
約50年前にご夫婦で創業し、いまも先頭で鶏を捌き調理をしている大将の相原さん。18歳から飲食の道に入り、20代でこの店を開業されました。二人の息子さんは、それぞれ鳥樹の支店を開き、蒲田と旗の台東口で商売をされています。
大将は腕がいい。それだけでなく、板場正面のカウンター席に座るお客さんや奥のテーブルに座る人に、程よい距離を持って会話でもてなしてくれます。ベテランの料理人の色気がある大将に、世代を超えて通う家族ぐるみのファンも多いです。
決して大きなお店ではなく、メディアに取り上げられるとしばらく予約が続くのですが、安定して店に通い続ける常連さんが支えているように思います。それでいて、常連さんを特別扱いせず、一見さんにも丁寧に接しています。老舗のピンとした姿は実に良いものです。
鳥樹本店の樽生ビール(サッポロ黒ラベル)は極上品質。一般的なホシザキ製のセパレ瞬冷サーバーですが樽や回路の管理が完璧で、メーカーのカタログのように美しい一杯をだしてくれます。
どーんと大きい大ジョッキで610円。
それでは乾杯。
品書き
飲み物
サッポロのほかに瓶でアサヒスーパードライとキリン一番搾り(550円)もあります。サワー類は390円。日本酒は菊正宗で440円から。ボトルキープはないものの常連さんにはボトル焼酎も人気です。
料理の品書き
特大手羽先からはじまる品書き。豆腐など一部を除き、すべてが鳥料理です。最近は特化した専門店がブームですが、老舗でこれだけ鳥料理を徹底しているのは珍しいです。大将によると、まだ店を始めた頃は鳥料理に苦手意識がある人が多く、そんな人に鳥の良さを伝えたいという気持ちもあったのだそう。
特大もも焼(920円)、特大手羽タタキ(860円)、煮込み(470円)ももちろん鳥です。お店のイチオシは、焼き鳥店ながら実は数少ない串打ちしているやきとり(580円)やささみおろし(520円)など。
鳥づくし、いただきます
お通しは納豆と鳥スープ
お通しに納豆というのは昔からの鳥樹のお決まりのようなもの。息子さんのお店もお通しは納豆がでてきます。
焼き上がりまでをつなぐ小鉢を、豆腐(350円)
多くの料理が提供まで少し時間がかかるので、すぐにでるおつまみでビールにあわせます。このタイミングに煮込みを食べることも多いです。
包丁を入れるのは注文を受けてから
大将のこだわりのひとつに、鶏をひらくタイミングがあります。極力注文を受けてから、まるの大雛をまな板の上でさばき始めるのです。
鶏は焼くものであっても鮮度の違いはよくわかるもの。仕込んで冷やしていたものより、開きたてが美味しい。そう話しながら、手際よく様々な部位に切り分けていきます。
注文した鶏ももタタキは、あれよあれよと用意され、電気式のグリラーに載せられました。炭火を使わないのもこだわりで、温度が安定していることが必要なのだそう。真剣な視線で熱の入り具合を見極め、そしてさっと銀皿に移されます。
ももタタキ(780円)
骨付きでも出してくれますか、お酒をメインに摘むならば、切り分けてもらったほうがいいです。焦げる直前まで熱を加えパリっとさせたた皮と、弾力はありつつも加熱によるものではなく、噛むほどに肉汁が溢れ出します。普通のももタタキのイメージとは一線を画す逸品です。
ニクニクとネギがたっぷりはいった特製醤油タレも、鶏の旨味をよく引き出しています。
シークァーサーサワー(430円)
サワー系ではダントツ人気のシークァーサーサワー。甘さ控えめで酸味がしっかりあり、鶏の脂の余韻を程よくリセットしてくれます。
唐揚げ(740円)
鳥樹はタタキが紹介されることが多く、もちろん正統派ながら印象的な味なのですが、私の楽しみは唐揚げでもあります。店で開くからこその独特なフォルムです。
大ぶりのものが4個もあり一人では食べきれないかも…、それが美味しくてスイスイ食べてしまいます。残したら持ち帰りも可能です。
酒、しょうゆ、生姜で下味をつけたむね肉。本当にむね!?と疑うほどにジューシーなのです。パリパリの衣と濃厚な鶏の甘さと旨さがよくマッチしています。
緑茶ハイ(410円)
シメはお茶ハイで。ポッカサッポロの玉露茶をつかっています。
鳥樹は数人でわいわいとボリュームある鳥料理を囲むのが楽しいですが、砂かぶり席的なカウンターでご主人の仕事を眺めながら飲むのも楽しいです。
あぁ、今日も持ち帰るつもりが完食。食べすぎてしまいました。
ごちそうさま。
系列店(息子さんのお店)
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 鳥樹 旗の台本店 |
住所 | 東京都品川区旗の台3-11-13 |
営業時間 | 営業時間 17:00~24:00 定休日 月曜日、日曜日、祝日 |
開業年 | 1973年 |