一人酒場探索の時代、到来。
全国の名酒場へ、状況が改善したら飲みに行きませんか?旅のプランに組み込みたくなるような知られざる名店、出張先の楽しみが増えるような居酒屋を1都市1軒でご紹介します。
この内容は、動画でも配信しています。
札幌「福鳥本店」
北海道の中心地、札幌。札幌名物といえばなんといってもビール。ひとりあたりのビール消費量日本一を誇ります。
そんな北海道でおすすめの老舗酒場は、すすきのの「福鳥本店」。1946年(昭和21年)の創業です。すすきのの街で現存する最古の居酒屋と言われており、昭和で時間がとまったような空間に浸れます。
焼鳥専門と掲げている通り、うなぎの蒲焼きなどに使う金属の長い串に刺した鶏や牛が看板料理です。カウンター中央にある炭火の焼台でじっくりと焼き上げていきます。
ツミレ(1本310円)
おすすめは「ツミレ」。といっても魚肉の練り物ではなく、つくねをしいたけの傘の内側に詰めた一品。肉汁と肉厚のしいたけからでる旨味があわさり絶品。濃厚なタレが旨味をより引き立てます。
サッポロビールや、焼鳥といっしょに直火で燗をつけた高清水で乾杯!
青森「ゆうぎり」
北海道へ渡る連絡船の港で栄えた青森市。飲食店街は駅前すぐの場所に広がっています。
青森で老舗酒場を紹介するならば、「ゆうぎり」は外せません。40年以上続く郷土料理でもてなしてくれる酒場です。建物は年季がはいっていますが、店内は丁寧に手入れがされています。
ゆうぎりの料理はコースのみで、2,500円から。コースといっても宴会用というわけではなく、ひとりから利用できるのでご安心ください。生うにやホヤ、イカなど、地元の魚介類を少しずつ色々食べさせてくれるので満足度はとても高いです。
〆にでてくる海鮮粕汁まで、どれも絶品揃い。青森滞在の際はぜひお立ち寄り頂きたい一軒です。
盛岡「惣門」
わんこそば、じゃじゃ麺に冷麺と、麺類の郷土料理が多い盛岡。それでも、夜はやはり酒場に繰り出したい!盛岡は市の人口に比べ飲食店の数は非常に多く、夜は遅くまでハシゴしたくなるような街です。
大通周辺は若い人向けの賑やかな店が多く、東へ進むほど落ち着いた大人の街の雰囲気にグラデーションする盛岡の歓楽街。その東端が「八幡町」。ここで40年あまり続く老舗の大衆割烹「惣門」は実によき酒場です。
家族経営の店でとてもアットホーム。それでいて料理のレベルはとても高く、お酒の品揃えも魅力的です。
かつお刺し(820円)
きんこ(なまこ)の酢の物など珍しい料理が楽しめるほか、なんといっても楽しみなのは三陸の魚介類でしょう。おすすめは、肉厚でぷりっぷりのカツオ。仕入れにこだわりがあり、美味しいものを楽しんでもらおうという強い思いが感じられます。三陸のかつおは春から秋にかけて、暖かいころが旬です。
仙台「源氏」
牛タンやずんだ餅だけで満足していたらもったいない!派手なイメージの国分町が仙台の歓楽街のイメージ…という方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。入り組んだ小路が広がる仙台は、横丁めぐりが好きな人にはたまらない場所です。
とくに「ブンヨコ」の愛称で呼ばれている歴史がある文化横丁は、魅力的なお店ばかりです。
ここで最古参は、「源氏」というお店。木造の穀物倉庫をコの字の店に作り変えて70余年。割烹着姿が素敵な女将さんが、ほどよい距離感でそっともてなしてくれます。
お酒を頼むと地魚などをつかったおつまみが適量でてきます。単品でおつまみは用意されているものの、お酒を飲むことが中心の人には、付け合せの小皿でちょうどいいボリュームでしょう。おすすめは、ひとつずつ仕事が施されているお刺身。間違いのない美味しさです。
秋田「江戸中」
県下最大の歓楽街「川反(かわばた)」には老舗の郷土料理店が多く立ち並び、冬はハタハタのしょっつる鍋やきりんたぽ、春から夏にかけてはじゅんさいなどの料理が、地酒とともに並びます。
川端で歴史ある酒場といえば、郷土料理ではありませんが「江戸中」は酒場ファンならばぜひ訪ねてみてほしい一軒。1931年創業と、なんと90年も続く歴史ある酒場です。
店内は南部鉄器のやかんから立ち上がる湯気で、心安らぐほっこりした空気に包まれています。
料理は、秋田の食材をつかったおでんと、囲炉裏のような焼台でじっくり焼き上げる焼鳥、料理は大きくわけてこの2種類のみ。
とくに焼鳥の塩はぜひ食べてみてほしい、ここでしか食べられない一品。秋田のお酒・高清水に繰り返し浸しながら焼き上げていく、”酒浸し”ともいえる調理法。日本酒の旨味を吸った焼鳥の美味しさは想像以上です。
山形「スズラン」
いも煮、玉こんにゃく、フルーツいろいろ。それだけではない、山形の食の魅力は老舗の居酒屋にあります。
山形は駅周辺に飲食店が集中していて、飲み歩きがとてもしやすいエリア。ですが、コンパクトな街だと侮るなかれ。山形市は、居酒屋チェーン店の進出はそれほど進んでいない印象があります。それだけ強い個人店が多いということ。知れば知るほど、山形の夜は楽しくなります。
例えば、駅近くの「スズラン」は、ぱっとみた感じでは観光客や地元企業などの宴会に使われるような、よくある大箱の店に見えるのですが、実は高いポテンシャルをもっています。
お店は創業から約半世紀。現在は大都市の老舗有名料理屋で研鑽を積んだ2代目が家業を注ぎ、店の暖簾を守っています。
のどぐろ、アラなど、高級魚も揃う(写真の料理は取材用のもの)
なんと100種類をこえる膨大な料理の品揃え。酒田などの日本海側と仙台などの太平洋側、東西の海から長く取引ある鮮魚卸を通して仕入れている魚が輝いています。地元の会社帰りの一人客の常連さんが多いことからも、いいお店だということが伝わってきます。
山形置賜(おきたま)地方の郷土料理「りんごの漬物」など、大女将お手製の土地の味も楽しみの一つです。
福島「酒蔵岩滝」
福島県の県庁所在地・福島市は、人口規模で県内3位になる街。いわき市、郡山市がそれぞれ約34万人、福島市は29万人。このように福島は県庁所在地に一極集中していません。上記3都市に会津若松市を加え、それぞれが独立した個性をもっています。それは居酒屋の料理やお酒の顔ぶれにも現れています。
福島市のビールのお供といえば、円盤餃子と鉄板ホルモン焼き。…だけではありません。
この街にもいぶし銀の名酒場があります。「酒蔵岩滝」は半世紀を越えて愛される、福島の外飲みになくてはならない存在です。
「酒蔵」と冠していますが、建物もまさしく土蔵です。品書きや値段がわかるものは一切なく、ここが住宅街の中にぽつんとあるということも加えると、知らない人には非常に敷居が高く感じられるはず。でも、無骨な酒場はカッコイイ!
店内は外観から想像できないほど広く、そして意外にも女性客を含む地元の人たちで大いに賑わっているのです。
岩瀧は刺身から白もつ煮込みまでなんでもござれの大衆酒場ですが、地元ではおでんの岩瀧と言われていると聞きます。店の中央に鎮座するおでん鍋をみたら、それも納得。
だしが濃厚でお酒を誘うおでんに、末広や奥の松といった会津のお酒を合わせればとってもいい気分。こういうお店が残っていることは、いまの時代奇跡と言えるのではないでしょうか。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)