『ワイングラスでおいしい日本酒アワード2023』が発表されました。
ワイングラスでおいしい日本酒アワードは、2011年にスタートした日本酒の品評会です。審査員は、ソムリエ、料理人、酒類ジャーナリストなど酒類の専門家たちで構成されており、ワイングラスで日本酒を飲んだ際の香り、味、バランスなどを総合的に評価しています。
2023年のワイングラスでおいしい日本酒アワードでは、全国から276社1,054点の日本酒が出品され、その中から最高金賞55点、金賞264点が選出されました。
入賞酒試飲商談会が開催されましたので、その様子をお伝えしつつ、ワイングラスで飲む日本酒の魅力や、酒蔵や卸、酒類関係者がワイングラスでの提案に力を注ぐ理由についてご紹介します。
目次
入賞した酒蔵をみていきましょう!
2023年4月28日、千代田区の学士会館で開催された「入賞酒試飲商談会」へ取材に行きました。酒卸や酒販店、酒類に関わる皆さんで賑わっています。
入賞した酒蔵全社が出展しているわけではありませんが、上場する大手酒類メーカーからローカルな酒蔵まで様々な蔵がブースを構えています。
「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」は試飲銘柄一覧も手渡されない完全なブラインドテイスティングなので、マーケティング力や、ブランドのイメージに左右されない、本質的な美味しさで選ばれています。その中で、大量製造の大手蔵が受賞することは開発力の底力を感じますし、地方の酒蔵が脚光を浴びる機会となることもお酒好きとしては非常に嬉しいです。
2020年から3年間、外食・酒類業界は猛烈な逆風が吹き荒れました。そうでなくても日本酒の消費量は1973年の最盛期から1/3まで落ち込み、大手はテレビCMも打たなくなり、地方の蔵は倒産や合併、買収など、不安定な状況となっていました。
2023年は復活の年。事業存続をかけて、蔵の営業さんも試飲に集まる酒販店さんも非常に熱心に商談をしています。
宝酒造
それでは、いくつか入賞企業のお酒をご紹介しましょう。まずは宝酒造です。
宝酒造の清酒といえば、外食では「松竹梅豪快」のイメージが強いですが、京都伏見の歴史ある酒蔵ですし、開発力の高さはトップクラス。そんな宝酒造がつくる純米大吟醸は、正統派の美味しさ。華やかな吟醸香は、ワイングラスで飲むことでより引き立ちます。
宝酒造の発泡日本酒「澪(みお)」も受賞しました。
近年、大手を中心に日本酒を酎ハイ(RTD)のように軽い感覚で味わう商品が続々と登場しています。
合同酒精(オエノン)
宝酒造と並ぶ上場する酒類企業の1社、合同酒精も受賞しています。北海道旭川に源流を持つ合同酒精。旭川の蔵「大雪乃蔵」が、ワイングラス向けに開発した純米大吟醸酒は北海道産酒造好適米「吟風」や「彗星」を100%使用したもの。
日本盛
中央区の入船、新川あたりでは「サカリさん」と呼ばれ親しまれている灘の酒蔵「日本盛」。大手の酒蔵ながら、同社は純米大吟醸 生酒が受賞しました。ワイングラスとは関係がありませんが、日本盛がつくるお酒の中で、筆者が特別な存在と思っているお酒「惣花」もあります。ぬる燗で最も美味しいお酒のひとつだと思います。
大関
大関もまた、居酒屋では定番酒として最も手頃なお酒のイメージが定着していますが、手頃な価格でも美味しいお酒をつくると定評のある酒蔵です。極上の甘口は、食前酒向けのスイーツ系日本酒。梅酒やクリーム(シェリー酒)のようなポジション。
大関のかつての屋号「大坂屋」を冠した純米大吟醸もなかなかの美味しさ。濃厚でコクがあるのに、余韻は軽め。
櫻正宗
日本盛や大関と灘の酒蔵が続きましたが、灘の銘酒と名高い櫻正宗も受賞しています。
櫻正宗には、いくつもの日本酒業界へ与えた逸話があります。灘五郷の仕込み水「宮水」を発見した蔵であり、日本酒にはじめて「正宗」をつけた蔵でもあります。日本醸造協会の協会1号酵母は、櫻正宗の酵母が指定され、全国に広まりまったのも有名な話。
そんな櫻正宗の2023年受賞酒は金稀 純米吟醸。精米歩合60%の山田錦で、昨今の華やかな方向性の酒とは一線を画す正統派の味。王道を貫くあたり、さすがは櫻正宗。
玉乃光
京都の酒処・伏見の酒蔵。酒蔵は350年の歴史を持ちます。玉乃光は、昭和の頃の一級酒・二級酒などの今で言う普通酒を製造することを昭和39年に取りやめ、以来、純米酒(純米吟醸含む)のみを作る蔵として続いてきました。筆者の好きな蔵の一つ。玉乃光の純米大吟醸 酒鵬が受賞しています。純米大吟醸は主張が強いイメージがありますが、これは食中酒向きの絶妙なバランス。直販で4合瓶1,400円ほどとお手頃なのも嬉しいです。
盛田
大手から、灘、伏見ときて、つぎは愛知の銘酒「ねのひ」でおなじみの盛田です。食中酒向けな「大吟醸 鸞」が受賞しました。50%精米、米の旨味と吟醸香が際立つ「知多ねのひ蔵 男山純米大吟醸」も特筆したい美味しさ。活性炭濾過をしていないため色がついていますが、蔵出しすぐのお酒のようなフレッシュな美味しさが印象的でした。
盛田家は、ソニーの創業者・盛田昭夫氏の実家で、現在もソニーのお祝いごとでは「ねのひ」の菰樽が鏡開きに使われています。
秋田銘醸
美酒爛漫でおなじみ秋田県湯沢市を代表する全国区銘柄をつくる蔵「秋田銘醸」も「かおりらんまん」などで受賞しました。原料米は秋田県限定の酒造好適米「秋田酒こまち」。昔からの普通酒の美酒爛漫とはイメージを大きく変えて、非常に華やかなお酒です。純米吟醸でも一升瓶2,600円程度。
白牡丹酒造
広島最古の酒蔵・白牡丹酒造も受賞。日本三大酒処のひとつ、西条の酒蔵です。なんと4銘柄も受賞しています。白牡丹純米吟醸はしみじみ美味しいタイプのお酒。海外向けを考えたスタイリッシュなラベルではなく、昔ながらのどっしりとした日本酒らしいラベルのお酒が受賞するのはなんだか嬉しいです。深みのある米の美味しさが印象的。
奥の松酒造
福島は二本松の酒蔵「奥の松」は、醸侍 純米大吟醸などが受賞。蔵元は奥州二本松氏に仕える侍だったことが「醸侍」の由来。フリッシュな香りと、ワインのようなフルーティー感。サムライイメージで海外を意識したお酒ではないでしょうか。
菊池酒造
岡山・倉敷の酒蔵菊池酒造がつくる燦然(さんぜん)も受賞しました。岡山県産雄町でつくる雄町米を65%磨きでつくる純米酒。雄町米らしい旨味をしっかりと引き出した食中酒向きの1杯。常温で美味しいお酒です。
菊の司
盛岡市内の中津川沿いから雫石に工場を移転した菊の司。経営もかわり心機一転。2023年は菊の司 心星が受賞しました。フルーティーで上品な果実酒を思わせる美味しさ。
鶴見酒造
このコンテストで新たに知ることができたお酒もたくさんありました。たとえば、鶴見酒造の「我山」と「山荘」。マスカットのような果実感ある大吟醸酒。
石川酒造
東京の酒蔵は、石川酒造などが受賞しています。受賞酒はなんと熟成原酒。雄町米特有の米の苦味とメロンのようなフルーティーさが絶妙なバランスで、しっかりとした肉料理と合わせたくなるお酒です。度数12%の純米酒「SPARKLING PONSHU ふわしゅわスパークリング」も受賞。爽やかで夏場に飲みたくなるお酒です。
ほかにも多くの酒蔵のお酒が入賞しています。百貨店や高級な飲食店で飲まれるハイクラスなお酒よりは、どちからといえば酒販店、量販店、大衆居酒屋に並ぶ一般的な銘柄が多く、日常的に出会うことが多いお酒が受賞しています。
どのようにして選ばれるのか
冒頭で、評価はブラインドテイスティングで行われると紹介しましたが、実際に審査の様子をご紹介します。
国税庁、県の技術研究所、酒造組合、酒卸、量販店、ホテル、飲食店、グラスメーカーなど、酒類に関わる官民が審査員。「ワイングラスでおいしい」という視点の通り、外国向けも意識したアワードで、外国からも審査員が参加しています。今回は、筆者も審査員に指名されました。
審査の流れ
約90秒間隔で順番にお酒が注がれていきます。メイン部門とプレミアム純米部門があり、グラスを変えるのか特長。お酒は度数が低いものから順にはじまり、高いものへと進んでいきます。また、生酒、無濾過など特性があるものはまとまって審査をします。
ボトルは完全に隠されており、ラベルからの情報やデザイン性からくる印象は考慮せず、お酒そのものの味で審査します。
まずは、色、透明度、粘土といった外観を確認。続いて香りをチェック。ワイングラスで飲むことの理由の一つでもある香りは重要で、花のような香りもあれば、例えようのない苦手な香りもあり様々。
つぎに味覚です。舌全体で味を確かめ、口の中で感じる香りや鼻からぬける息の香りもチェックポイント。やわらか、なめらか、軽快な印象を良いと評価し、刺激、不調和は悪いと評価するとのことですが、確かに何十杯と審査していくと、この違いについて非常にシビアに感じるようになります。
評価は7段階で、1が最高点で7が最低点。審査シートに点数とその理由を記入していきます。
プレミアム純米部門は純米グラスで
こちらは純米グラスにそそがれるプレミアム純米部門のお酒。純米グラスは卵型のグラスとは異なり、純米酒にあわせることに特化したもの。(テイスティングで使われたものはリーデル社製)。形状の理由は、「径が広く、グラスをあまり傾けることなく口へ運ぶことができ、じっくりと舌で味わうことができる」ということから来ているそうです。
グラスに注いだときの見た目の美しさを重要視し、光沢や透明感があるものが評価されます。香りと並ぶワイングラスならではのチェック項目です。
外国向けに限らないワイングラスの日本酒
日本酒の国内市場は縮小していますが、外国向けの出荷量は年々増加しています。輸出専用銘柄だけではなく、国内向けにもその流れは続いており、ワイングラスで評価するというのは重要な項目の一つになってきました。
お酒は伝統的でとっつきにくそうに見える。そんなイメージを変える可能性があるワイングラスでの飲み方。気になる方は公式サイトの入賞酒一覧や各メーカーがつくる新商品を試してみてはいかがでしょう。円安のいまだかこそ、日本のお酒を楽しみませんか。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)