小倉「赤壁酒店」 硬派な角打ち。慣れている人なら至福の空間。

小倉「赤壁酒店」 硬派な角打ち。慣れている人なら至福の空間。

九州北部の方言が発祥と言われている「角打ち(かくうち)」という言葉。最近では広辞苑にも掲載されています。マスの角できゅっとお酒を飲むことから「角打ち」と言う説がありますが、諸説あります。

北九州市はそんな角打ちの軒数が人口あたり最も多い街(2018年Syupo調べ)。街のいたる所にあり、早い時間から営業しているお店も多いです。旅行者にとって時間を気にせずお昼から飲めることは嬉しいですが、日中からやっているお店は、かつては製鉄をはじめとした重工業労働者の夜勤明けの”飲み場”だった背景があります。

日中から酒屋の隅で思い思いにビールや日本酒を楽しむ角打ち。いまでは北九州市公認の観光コンテンツのひとつとなっています。

今回ご紹介するお店は、そんな北九州の角打ちで朝から飲める店、魚町の「赤壁酒店」です。

 

関門海峡に接する小倉は古くから交通の要衝。戦国時代末期に中国地方の毛利氏によって小倉城が築城され、以来、九州の各方面へ伸びる街道の起点として監視をする役割を持つとともに、多くの文化が街に集積していきました。

 

 

小倉城に接する紫川の対岸に商人の町が形成され、町内を流れる支流・神獄川沿いに船で荷が運び込まれました。大正時代頃より商店が集まり、戦中・戦後の混乱期を乗り越えた市場「旦過市場」は、そんな歴史を感じることができる商店街です。

 

長屋のように屋根を共有した商店が数珠つなぎで連なっており、軒数は約200。神獄川寄りの建物は水面にせり出した構造になっていて、その雰囲気は独特なものがあります。

市場という名前の通り、生鮮食料品が多く、買い物バッグを持った地元の人や長靴・白衣姿の料理人が集まりにぎやかです。

 

一世紀近く使われている木材を組み合わせた複雑な構造の長屋。そのなかに赤壁酒店もあります。店先には肥前の日本酒が並び通常の小売酒屋に見えますが、店内には長い合板のカウンターがあり先輩方がグラスを傾けています。

 

2002年に役所広司さん主演でキリンビール「キリン一番搾り秋冬コマーシャル」の撮影に使われた場所ということで、店内にはレトロなキリンのポスターがずらり。老舗角打ちの建物が醸す雰囲気はお酒を誘います。

よく見ればサッポロも。北九州市・門司には、九州初の近代的なビール工場・サクラビール(現在のサッポロビール)があった歴史があり、サクラからのサッポロを置く老舗は多いです。

 

さてさて、硬派な角打ちですので丁寧なレクチャーはありません。自分で冷蔵庫から好きなビールやRTDを取ってきて、カウンターの好きな場所で”カシュッ”っとやればよいだけ。瓶ビールならばコップをだしてくれます。支払いは、都度払いでも後払いでも可。

升で売るもっきりの種類が豊富で、八海山、出羽桜、鳳龍、越乃寒梅、久保田、手取川、酔鯨、五橋などなど、5勺で300円前後。新潟のお酒が多いですが、九州の銘柄は大分の西の関、熊本の瑞鷹、福岡県は八女市の寒山水、古賀市の稲田重造などを置いています。

 

まぁ、まずは呼吸を整えるために、宝のチビ缶で。乾杯!

 

角打ちですが、乾き物に加えて箸で食べるおつまみがいくつかあり、簡単な小皿系や牛すじ煮に、鯖ぬかだきなどもあり、軽く小腹を満たすこともできます。

 

北九州の絶景スポット、八幡を一望できる山「皿倉山」の名を関したお酒、 溝上酒造(北九州市八幡東区)のお酒「皿倉 純米吟醸」を出してもらいました。地元のお酒ならばこれはどうですか、とご主人。素直な吟醸香とふくよかな米の旨味、余韻はさらっとしています。

 

特製のぬか漬けをもらってちびりとひとくち。午後3時頃の旦過市場で心地よい昼酒時間です。

飲み慣れたお父さんたちが集まる旦過市場の角打ち「赤壁酒店」。角打ちですから長居は無用、ちゃちゃっと飲んで軽くほろ酔いになれば、本格的に飲めるお店を目指しましょうか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材時期/2020年2月以前)

 

赤壁酒店
093-521-3646
福岡県北九州市小倉北区魚町4-5-4
9:15~19:00(日定休)
予算1,000円