吉祥寺「闇太郎」 1972年創業、12席のL字で染み込むケンビシ。

吉祥寺「闇太郎」 1972年創業、12席のL字で染み込むケンビシ。

2020年4月11日

酒場の魅力は一軒として同じものはありません。名物料理だったり、お燗番がつける日本酒だったり、人そのもの、建物全体が酒の肴だったりもします。ですから、どんなに詳細なお店の情報を記事にしても、そこで感じたことを情緒的に書いたとしても、実際にカウンターでひとくち飲むことにはかないません。

吉祥寺にある闇太郎は、改めてそう感じさせてくれる独特な酒場です。波長が合えば、毎日通いたくなるようなお店。たった12席のカウンターは連日吉祥寺近辺に暮らす人々が集い、各々お酒に向き合い、酔いを楽しんでいます。

創業から48年。寡黙なご主人が一人で切り盛りされています。

L字の角におでん鍋を置き、ご主人が丁寧に鍋の面倒をみています。具ははんぺんに厚揚げ、こんにゃくなどごく平凡。だけど、だからこそ、ホッとするというもの。

おでんと並ぶ二枚看板は、鉄板をつかった炒めもの。くじら焼きにいか焼き、玉子焼き、生あげ焼き、ソーセージに焼きそばなど、だいたい500円程度。ただし混雑時は鉄板焼は対応できないこともあります。空間の舵取りをするご主人の雰囲気も闇太郎の魅力です。

酒はケンビシ、ビールはサッポロ。老舗のどっしりとした顔ぶれ。剣菱は燗酒も可能で400円、加えてご主人がすすめてくれる塩尻の酒「美寿々錦」(400円)もあります。ビールは黒ラベル大ビンで550円、樽生はありません。酎ハイは目黒の博水社がつくる「ハイサワー」(350円)です。

それでは、ビヤタンを満たして、軽くひと呼吸。乾杯。

黒板メニューをみれば、闇太郎の料理の期待はきっと高まるはず。おすすめではなく「本日の特出し」という表現がのんべえ心をくすぐります。刺身に焼き魚、野菜の小鉢など、酒場らしい品揃え。むしろ、酒場のメニューはこうであってほしいという内容にピシャリと嵌っていて、物語に出てくる酒場のセットのよう。

いんげんおひたし(400円)。

ビールのつぎは日本酒を。湯呑でだされるのですが、これがまた美味しい。灘の剣菱は昔から家庭にもあるようなお酒ではあるものの、改めてしみじみ良いお酒だと感じます。

たい粕漬け焼(550円)。グリラーでじりじりと焼いていきます。酒粕の旨味が染み込みコクを増したあぶらが、とろりと口の中に広がります。

もう少しこのカウンターの景色の一部でありたいと思い、時刻23時を過ぎたものの、もう一杯。割るならハイサワーのキャッチフレーズで有名な、昔からのサワーを。しっかり濃い目、帰りの終電で眠らないようしなくては。

おつまみに、おでんを。時間がすすみきつね色に染まったくらいのはんぺんが好きです。つゆをすってコクが増し、その余韻はお酒を引き立てます。

深夜1時までやっている闇太郎。開店時間は夜7時からと遅めで、少し時間をずらしているのも、闇太郎にお酒飲みが集まる理由かもしれません。ここ数年で次々景色がかわった吉祥寺にあって、闇太郎はタイムカプセルのように、いまも昭和の時間が流れています。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材時期/2020年2月以前)

闇太郎
0422-21-1797
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-18-18
19:00~25:00(日定休)
予算2,500円