マンハッタン「Grand Central Oyster Bar & Restaurant」 最高の体験は、駅の中。素晴らしい生牡蠣を肴にマティーニを飲む。

マンハッタン「Grand Central Oyster Bar & Restaurant」 最高の体験は、駅の中。素晴らしい生牡蠣を肴にマティーニを飲む。

カウンター席におもむろに着席すると、気づいたウェイターが水を持ってくる。

軽く挨拶をして、ジンマティーニとオイスターミックスを適当に出してもらう。その場で10ドル札を2、3枚だして済ませてしまうのもよい。日本よりもワンサイズ大きいカクテルグラスに、手際よくビーフィーターベースのマティーニをいれ、私の前にさっと出す。ウェイターは次のお客さんの相手をするために、そのまま忙しくカウンターを左右に歩く…

お客さんは、よれた背広姿で顔の赤いおじさん、モデルのようなスタイルの女性、パリっとスーツを着こなした若い男性など様々。肌の色や仕事は違えど、世紀をこえて続くカウンターでは、誰しもが平等にお酒と肴を楽しんでいる。

ここは、マンハッタンの玄関口・グランドセントラルターミナルの地下にある全米でトップクラスに有名な店「グランドセントラルオイスターバー&レストラン」です。

 

なにかニューヨークらしいおつまみでお酒が飲みたい。ピザ、デリ、ポーターハウスステーキ…。いやいや、やはりオイスターでしょう。ニューヨークは街なかにオイスターバーが非常に多く、東京で例えるならばもつ焼き店くらいの多さ。どこでも飲めますが、ここは聖地を訪ねることにします。

 

タイムズスクエアからグランドセントラル駅までは、地下鉄で1駅。非常に複雑なニューヨークの地下鉄網ですが、タイムズスクエアとグランドセントラル駅の1駅をピストン輸送する「42 Street Shuttle」という路線があり、これに乗れば気づいたらクイーンズなんていう失敗を防げます。

 

グランドセントラル駅に到着。通勤時間帯のマンハッタンの地下鉄は東京のラッシュ並の混雑です。

 

1871年に完成したグランドセントラルターミナルは、マンハッタンを代表する歴史的建造物であり、かつてアメリカの交通の主役が鉄道だったことを今に伝える壮大なスケールの駅です。高さ125フィートの大屋根のドームには星座が描かれています。

 

1990年代初頭までは全米とマンハッタンを結ぶ列車の終着駅でした。その名の通りのターミナルだったのですが、現在は長距離路線のターミナルはペンシルバニア駅に集約され、グランドセントラル駅には近郊通勤路線や地下鉄が乗り入れています。旅行者の駅から、ニューヨーカーの通勤利用のための駅に役割が変わった今も、多くの人で賑わっています。

 

目指すお店は、グランドセントラルターミナルのコンコースからワンフロア地階へ降りたところにあります。一世紀のときを越え、100年前とかわらない空間がそこにはあります。

 

毎日75万人が行き来する足元にあるバー&レストランは、予想を遥かに超えてシックで庶民的な雰囲気です。チェックのテーブルクロスがかけられたダイニングゾーンへ行くならば入り口のウェイターさんに声をかける必要があります。一人、二人ならば形式ばったダイニングではなく、受付をスキップし、右側にあるカウンターで飲むのはいかがでしょう。取材時もダイニング側は順番待ちができていましたが、カウンターはすんなりと入れました。

 

この字型のカウンターが3組とバーカウンターという配置。こちらは普段着姿のニューヨーカーが一人、二人で気軽にお酒と食事を楽しんでいます。

 

そうして、やってきたマティーニ($11.25)をもって、では乾杯。

 

ターミナルのコンコースから連続的につくられたアーチ主体の内装デザインは非常に素晴らしく、きゅっと胃に染み込むマティーニのアルコールから感じるほろ酔いと相まって、空間に包まれたような錯覚をんじます。

 

一般的なオイスターバーは5種類程度のオイスターを用意しています。それでも、日本人から見たら「そんなに選べるの?」と思います。こちらはその上をいく、全米から常に20種類ほどのオイスターを取り寄せています。それを一日2000人近いお客さんが食べることで、回転がよくオイスターの鮮度は保たれています。ロングアイランド産Bluepointなどニューヨーク産のオイスターも味わえます。

 

例え日本国産の牡蠣でも好みの味をみつけるのは難しいのに、アメリカ産で20種類となると決められるものではありません。悩まずに「half dozen」とオーダーし、ウェイターさんにおまかせ。オイスターはひとつ2.5~3ドルほど。

時計回りに、Bluepoint、Cornelius Queen、Totten Virginica。Totten Virginicaは東海岸で非常に人気があるオイスターだとウエイターさん。

 

日本の生牡蠣とはそもそも味が違います。塩気が抜けたオイスターよく冷やし、ちゅるっと一口で頬張る食べ方は、これもまた非常に美味です。コクを楽しむか、のどごしと余韻の風味を楽しむか、どちらも素晴らしい牡蠣の楽しみ方です。

 

カクテルソースもありますが、「赤ワインビネガーソースがカクテルとはあうよ」と、ウエイターさん。カクテルソースのイメージでしたが、これは確かに、大人味。

 

18時までのハッピーアワーは、グラスワインが5ドルだそう。カリフォルニアのシャルドネで、色から伝わるように、ダイレクトに濃さを感じる味わい。だからといって大味ではなく、ピュアな風味が残るなかなか美味しいワインです。

 

フレッシュプレートなど、オイスター以外も含まれるクラムなどの盛り合わせにすると、とたんに3人前くらいのボリュームになるので、一人二人のお客さんは頼んでいません。ロブスターを独り占めするのも、ねぇ(笑)

人気はクラムチャウダーの様子。こちらもぜひ。

 

東海岸・ボストン発祥のクラムチャウダー。ニューヨークでは「マンハッタンクラムチャウダー」という赤いトマトベースのものが名物と言われていますが、見ていると常連さん風の多くの人が、ノーマルな白いクラムチャウダーを食べています。

お店によってそれぞれなのね。なんて思いながら食べてみると、これがかなり濃厚です。

 

オイスタークラッカーはお好みでどうぞ。そのまま食べても美味しいです。

非常に古典的なサービスで、料理の内容もオーソドックス。先進的な料理を次々生み出すマンハッタンですが、何十年もかわらないスタイルのオイスターバーが今も多くのニューヨーカーに愛され、続いています。

1970年代、モータリゼーションで鉄道が不要と言われた時代には、オイスターバーも閑古鳥が鳴いたと聞きます。いまでは6時前に来なければ、席をキープするのが難しいほどの人気店に復活しています。

ここはマンハッタンで一番古くて、一番有名なお店です。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

Grand Central Oyster Bar & Restaurant
+1 212-490-6650
89 E 42nd St, New York, NY 10017 アメリカ合衆国
11:30~21:30(日定休)
予算$35