飯能「おらく」 三代目夫婦が守る老舗暖簾。飯能駅前で80年。

飯能「おらく」 三代目夫婦が守る老舗暖簾。飯能駅前で80年。

地方都市の駅を降りて、駅前を見渡すのが好きです。JRの駅はたいてい開業から一世紀以上が経過しているので、特急列車が停車するような駅ならば一軒や二軒、老舗の食堂や居酒屋があるものです。

事前に調べず、ぶらりと降りてなんとなく立ち寄ったお店が、地元に愛されていたり郷土料理を手頃な値段で食べさせてくれたなら、それはもう、この旅に出てよかったと思うのです。

このような体験を、東京近郊の町・飯能で思いも寄らず味わうことができました。今日は飯能駅前の酒場「おらく」をご紹介します。

 

西武池袋線の飯能駅。東京メトロから直通する列車の終点で、ここから先、西武秩父までは通勤利用というよりは、秩父や長瀞観光へのアクセスの色合いが強い山岳路線に池袋線は姿を変えます。

 

そういえば飯能駅はもう10年以上降りたことがないなと、目的があるわけでもなく、なんとなく駅を降りました。

いま、飯能はフィンランド生まれの童話「ムーミン」のテーマパークを中心にノルディックが観光のキーワードになっています。ムーミンが好きなのでお昼ならば立ち寄ってみたかったですが、結局は酒場の暖簾が掲げられるような時間。

 

北欧もいいけど、昭和の飯能もすごくイイ!

そう強く感じさせてくれる店構え。飯能駅北口すぐ。路線バスが発着するロータリーに面した激渋の酒場に、「北欧もいいけど、私はやっぱりこっち」と改めて思うのでした。

寿司とやきとり、ありそうでなかったお酒のおともの組み合わせが掲げられていますが、どんなお店でしょう。

 

開店は16時。祝日は15時から。登山や日帰り旅行の帰りに立ち寄るのに嬉しい、少し早めのスタート。

 

店内は左に焼鳥台に向いたカウンター、右に寿司屋”だった”ネタケースなどが置かれたカウンター。創業80年になる老舗で、現在は仕事人のご主人で愛嬌のある女将さんの三代目ご夫婦がのれんを守り、親切な学生アルバイトの方が手伝っています。

寿司屋は先代の頃までの営業で、現在は寿司はありません。それでも、店内左右の両側に別々のカウンターがあるという配置は非常に珍しく、そんなカウンターの角席に腰掛けていると心が弾みます。

 

店の奥は小上がり、二階には座敷もりあますが、この日も地元のお父さんたちで多数の予約が入っている様子。口開けに飲み始めましたが、次々にお客さんが来店しました。

あぁ、いいものです。キリンビール(定番はクラシックラガー・季節限定銘柄あり)をもらい、ビアタンを満たして、はい乾杯。

 

樽生ビールは昔からアサヒ(スーパードライ530円)とのこと。日本酒は澤乃井や一の蔵、久保田などの全国区銘柄が並びますが、ここに来たならば飯能の地酒、五十嵐酒造の「天覧山」が普通酒、本生冷酒と用意されています。銘柄の由来は飯能のシンボル的存在「天覧山(標高197m)」からきています。

 

看板料理はやきとり。1本100円からで、鶏と豚もつの両方を置いています。開店直後ということもあり、女将さんが串打ちをされていましたが、非常にものが良さそうな豚モツで期待が高まります。

 

手の込んだお通しがでてくるとやっぱり嬉しいもの。白菜とつくね団子の煮もので、一人酒にはちょうどよいチビ鍋気分。寒い季節、老舗酒場のぬくもり感じて食べるあたたかい一品目がいいものです。暖かい季節はマカロニサラダなどが出るとのこと。

 

もと寿司店らしい、仕入れ力を感じるお刺身。生ばちまぐろ中トロ(900円)も天然真鯛(700円)など魅力的です。ホワイトボードの日替わりメニューを眺めているだけでビアタンが空になりそう。

 

日光たまり漬けらっきょう(400円)。甘口でコクがつよく、日本酒を強烈に誘う一品。

 

老舗酒場で品書きの目立つ場所に「春巻き」「しゅうまい」なんて中華の料理を書いてあるお店は、かなりの確率で美味しいものがでてきます。揚げたてサクサク、筍の食感と肉汁たっぷりの豚ひき肉のあんがたまりません。

 

串焼きのイチオシは「シロ」。あちこちでもつ焼きを食べてきていますが、ここのシロは他店にはない味。例えるならばうなぎの蒲焼のよう。わずかに歯ごたえがあるところがありますが、全体的にはフワフワで口の中で溶けていきます。クサミはなく、脂の旨味とタレの甘さが優しく残ります。

さっき女将さんが串打ちしていたのがまさにこれ。昔からの人気メニューで唯一1本100円の串焼きです。

 

あわせるお酒は天覧山。寿司店らしさといいましょうか、定番酒(400円)のお燗でもわざわざ徳利を湯煎にかけています。まろやかさと余韻のキレがもつ焼きにあいます。

 

こちらのかわ(130円)もただの鶏皮焼きではありません。一度軽く素揚げをしてから焼いたもの。先代女将から受け継いだ濃厚なコクのタレをまとっています。

 

手羽先(200円)。皮目がぱりぱり、甘辛い特製味噌を軽くつけるとより美味しいです。

 

女性客に評判で復活したという「生しぼりグレープフルーツハイ」。ほかの酎ハイが400円なのに対し、550円と少し高級品ですが、搾ったばかりのグレープフルーツが相当な量入っていて、納得。ベースの甲類焼酎はサッポロのトライアングルです。

 

レバーも名物とのことですが、そろそろ店内も賑わってきましたので、つぎの機会に。都心から1時間でいける、地方の県庁所在地にあるような昔ながらの地元に愛される老舗大衆酒場。

さいたまの北欧を楽しんだあとは、どっぷり酒場にひたり昭和の飯能を満喫しませんか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

おらく
042-972-2484
埼玉県飯能市柳町23-10
16:00~24:00(祝日は15:00開店・日定休)
予算2,000円