小田原『大学酒蔵』刺身が絶品!老舗のコの字で、土地の人、土地の味。

小田原『大学酒蔵』刺身が絶品!老舗のコの字で、土地の人、土地の味。

2019年8月17日

一日時間があると、ふらりと日帰りの旅に出掛けたくなります。そうして、旅先で出会う酒場で、素敵なひとときを過ごすことが何よりの楽しみです。

今回はそんな日帰り酒場旅におすすめしたい、歴史ある街・小田原の老舗酒場「大学酒蔵」をご紹介します。

東京から東海道線で70分ほど。新宿から小田急線のロマンスカーで訪ねるのも旅情があっていいものです。橋上駅舎になった現在も、改札口では巨大な小田原提灯が迎えてくれます。

ここより西は、天下の険・箱根が待っています。

小田原は箱根の江戸寄りの玄関口。宿場町として栄えたほか、城下町や漁師町の表情も持つ歴史と文化が豊かな地。相模湾から水揚げされた魚は、ひものやかまぼこに加工され、全国的に知られた小田原の名物です。

また、小田原駅前からは桃源台や箱根町ゆきの路線バスが発着し、にぎやかな駅前の散策も楽しめます。

市内中心部を貫ぬく国道一号線は、箱根駅伝(SAPPORO新春スポーツスペシャル 東京箱根間往復大学駅伝競走)でもお馴染みです。長く続いた湘南海岸が終わり、向こうに険しい山々をみるこの眺めは、はるか昔の人々も見ていたに違いありません。

小田原の中心街・本町に近い浜辺は、「御幸の浜」と呼ばれています。明治天皇が地引網漁の様子を覧になったことが由来です。

御幸の浜での水揚げ量は相当のものだったそうです。水揚げされた大量の鰺やブリは、集積されることもなく、浜や周辺で売られていました。浜辺近くにあった旧小田原魚市場や漁港はその後整備された「早川漁港」へ移され、現在も豊富な水揚げを誇っています。

たいそう儲けた漁師たちが遊ぶ場所として、浜辺にも近い松原神社周辺に「宮小路」と呼ばれる歓楽街がつくられていきます。財を成した地元の網元が建てた食堂は、現在、国指定重要文化財となっているほど。歓楽街の中心に神社がある、日本各地で見られる光景です。

今宵目指す「大学酒蔵」は、宮小路の入り口に佇む老舗暖簾です。かつては歓楽街へ繰り出す前に、ここで腹ごしらえをしていくような、そんな時代もあったそうです。

暖簾の向こう側は、外観以上にいぶし銀の世界。十数席の丸椅子を置いたコの字のカウンターで、年季が入っていても、手入れが行き届き心地のいい雰囲気です。

口開けから地元のご隠居さんや漁師さん、みかん農家さんなど、小田原にお住まいの常連さんが次々やってきて、概ね満席となります。小田原駅から徒歩15分ほど離れていてもこの賑わいは、土地に愛されている証拠です。

品書きはそのほとんどが海産物。おしつけ辛子味噌(アブラボウズ)など、小田原らしい料理がずらり。価格は500円前後と手ごろで、あれもこれも食べたくなります。

代替わりされて店を切り盛りする若き大将と厨房にたつ女将さんの人柄も大学酒蔵の魅力です。お客さんとの適度な会話のなかで、居合わせたお客さん立ち同士の会話もはじまり、和気あいあいとしたムードをつくられています。

居合わせた人達の顔を見て話せることは、小箱のコの字の醍醐味です。

乾杯はやっぱりビールで。むかしからずっとキリンラガーだそう。樽生はありません。静かによく冷やした瓶ビールを傾けて、ビアタンを満たしたらその勢いで口に運んで、思わず幸せのため息。

小田原といえばあじ。あじといえば小田原!というくらい、小田原のあじが好物でして、まずはお刺身(530円)を。なにせ常連さんに現役の漁師さんもいるので魚に間違いはありません。脂がのったあじは、日本酒を誘います。

定番のお酒は灘の大手3蔵。日本盛(400円)、菊正宗(400円)、剣菱(450円)。灘で500年続く剣菱は、辛さと旨さのバランスが整った、これぞお酒という味わい。

太刀魚の塩焼き(550円)は、ぷっくり太く、身はぷりぷり。それでいて、箸を入れると身はほろほろと離れ、そこから脂がじんわり染み出してきます。東京の酒場で太刀魚を品書きにみることは多くはありませんが、小田原で太刀魚は定番のごちそうです。

ハイサワーでつくる酎ハイ(400円ほど)。品書きに酎ハイはありませんが、取り扱いはあります。飾り気のない、懐かしの「純ハイ」グラスが素敵です。※甲類は宝の純ではありません。

地元の人が太鼓判を押す土地の美味しい魚「ムツ」。刺身と天ぷらがあり、天ぷら・フライ(530円)は小ムツを開いたものを1尾すべてを盛ってくれます。

ふわふわで、口に入れると溶けていくような食感。甘くまろやかな旨味がじんわり広がります。そこにすかさずお酒を合わせれば、もう小田原に来た時間や苦労はすっかり満たされます。あぁ、記事を書いていたらまた小田原に行きたくなってきました。

さてさて、そんな素敵な大学酒蔵。店名の由来は、「飲み屋で社会を勉強する。酒場は大学のような存在だ。」ということから来ていると聞きました。

また講義を受けにいきます。ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名大学酒蔵
住所神奈川県小田原市本町2-14-3
営業時間営業時間
[月~土]
17:00~21:00
定休日
日曜、祝日
予算2,800円