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まさかりの形をしていることから、「まさかり半島」の愛称で呼ばれる下北半島。中核都市である「むつ市」は、人口約5万5千人の本州最北の市です。マグロで知られる大間や、あの世に最も近いと言われる恐山の玄関口として観光の拠点となっています。
その人口データからは想像もつかないほど、ここむつ市の歓楽街は規模が大きく、店の数やその大きさは県庁所在地の青森市にも勝るとも劣りません。今回は、そんなむつ市で連日満員の酒場「串や」をご紹介します。
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むつ市は、1921年開通の大湊線が結んでいます。東北新幹線が発着する八戸駅から、直通する快速列車「しもきた」でのアクセスが便利です。2両編成の列車は、結構な乗車率で、観光客だけでなくスーツ姿のビジネスマンの姿もあります。
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大湊と下北、隣り合う2つの駅が街の玄関です。現在は市町村合併で「むつ市」となっていますが、かつては別の街でした。距離もさほど離れておらず、どちらもホテルやバスターミナルがあって栄えています。
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駅を発着する路線バスに10分ほど揺られると歓楽街・田名部(たなぶ)へ。江戸時代には代官所が置かれていた歴史ある地域。全国展開する企業の拠点も置かれ、下北地域の経済の中心ではあるのですが、ここはなんと言っても、田名部神社周辺に広がる巨大な歓楽街がすさまじい。
昭和で時間が止まったままの、木造モルタルの中小の飲食店やスナックがびっしりと並んでいます。それも、1本の道に並ぶのではなく、路地裏から隣の小路までびっしり。さらに驚かされるのは、これだけの規模の街が夜になるとほとんどのお店がネオンを灯し、しっかり活きているのです。
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「串や」は、山ほどある田名部の酒場の中でも、特に賑わう繁盛店。激渋の外観ながら創業は2002年。お客さんは若い人も多く、みんな仕事終わりの乾杯で大盛り上がり。
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カウンター、テーブル席、奥に小上がりというつくり。ネタケースには看板料理の焼鳥が出番待ち。お客さんは入れ替わりで次々来るので、厨房は閉店間際まで戦場の様子。
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生ビールはアサヒとキリンの2種類。それでは、仙台工場でつくられたキリン一番搾りで始めましょう。乾杯!
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焼鳥(やきとん)は1本152円から。テールの串は珍しいですね。テッポウ鉄板焼き、イカスミ餃子など個性的でスタミナつきそうな料理が並びます。ボリュームがあるのでシェアするのが丁度いいくらい。一人でももちろん楽しめますが、注文する品数は慎重に。
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生バチマグロ(600円)やワタリガニ唐揚げ(600円)など、食べてみたい土地の味も。
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お通しは、なんとうに豆腐。下北半島唯一の酒蔵、関乃井酒造の本醸造をもらって、ちびりと摘めばいい気分。ウニを薬味のように豪快に豆腐にのせてしまうというのは、なんとも贅沢です。
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ぷりっぷり、ヒゲもピンとしたボタン海老は、今日のイチオシ。下北半島は陸奥湾、津軽海峡、太平洋と3つの海に囲まれ、様々な魚種が集まる地です。飲み屋さんに出てくる魚も期待を裏切りません。
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ここで少し休憩。大きく水々しい冷やしトマトでクールダウン。
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みるからに新鮮なお肉が山ほど串打ちされています。フレッシュな肉のほとんどがその日のうちに売り切れると聞きます。
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正肉とつくねを焼いてもらいました。表面にはしっとりとタレが纏って実に美味しそう。そしてお肉1つで口いっぱいになるほどポーションに改めて驚かされます。身はしっかり歯ごたえがあり、それでいてジューシー。軟骨入のコリコリなつくねも、その旨味が強烈にお酒を誘います。
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キリンクラシックラガーをもらって、のんびり過ぎてゆく下北の夜に浸ります。
ここは本州最北端の歓楽街、田名部。自衛隊や原子力関係、建設や設備メーカーなどに勤める方など、転勤や出張で訪れる人々で賑わう不思議な飲み屋街。ふらっと飲みに行くには遠い場所ですが、昭和レトロな酒場好きには天国のような場所です。
ぜひ一度のみに訪れてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
やきとり串や
0175-22-1300
青森県むつ市田名部町3-26
17:00~23:00(日定休)
予算2,500円