浦和駅前にありながら昔ながらの風情を残す東仲町商店街。細い通りは、一日を終え、リラックスした表情で家路につく人達でいっぱいです。精肉店の店先で売られる焼鳥をちょいと摘んでいきたい、そんなゆったりとした時間が流れるこの通りに、働くひとを癒やす老舗酒場があります。
家族経営で昭和から続くやきとんの店「桜扇」です。
立体化工事も終えて、すっかり近代的になった駅やその周辺。浦和の表情は大きく変わりました。
それでも、やっぱり人々は人情味を感じる古き良き商店街を必要としているのでしょう。浦和は味わいある通りが賑やかです。
桜扇はそんな路地を赤く照らす一軒。現在は一店舗ですが、かつてはもう一軒お店を開いていました。
焼き場に向いたL字カウンターに10席ほどと奥に小上がりという、典型的な酒場の配置。まだ18時前だというのに、地元の会社員やご隠居さんたちで満席の賑わいです。
詰め合わせて頂きつくられて一席の丸椅子に腰掛けて、まずは一杯目。ここの常連さんはほとんどがコレを飲む、昭和生まれのハイボールエキス「ホイス」を使ったホイスハイボール(400円)です。では乾杯!
東京・白金の酒販店、後藤商店によって生み出されたホイスは、当時高価だったウイスキーの代用として、甲類焼酎をウイスキー風味にするためにつくられました。小売はされておらず取扱店も限られているため、幻の酒と言われています。
桜扇のホイスは、ニットク社製のマルチサーバーから注がれる強炭酸が特長。黄金比率かつガス圧ばっちりの一杯は、二杯目、三杯目と進ませます。
やきとん、煮込みのお店ですが、炒めものから刺身までメニューの幅は広い。これはもともともう一店舗大箱の酒場をやっていたときからの名残だと常連さん。それぞれの料理にファンがいるからと続いているそうです。
炒めものは500円前後ですが、ボリュームはかなりしっかり。働く人の明日の活力は、現代以上に酒場でチャージされていたのでしょう。
大鍋で大量に作る煮込みは一品目として定番。クタクタに煮込まれた白味噌ベースの豚モツに半丁サイズの豆腐が浮かびます。ただ、今日の私は冷やしトマト(400円)で。
ホイスは女将さんの担当。そしてご主人は焼台に向き合います。黙々と串の面倒をみて、タレを重ねて焼き上げたやきとん(110円)は絶品。色は黒く、見た目同様に濃厚な味付けなのですが、これが厚切りの肉にまといちょうどいい塩梅なんです。シロやカシラを頬張れば、ホイスもあっという間に乾いていきます。
塩、タレのほかに味噌味もあって、こちらはどて焼きのようにトロトロの味噌タレが串を包んでいます。
かつての人気メニューだったという牛肉シメジ玉子とじ(580円)。大皿にたっぷり盛られています。おつゆを吸った飴色玉ねぎが味の決め手。
大きく頬張ってはふはふ食べて、その余韻が消えないうちにホイスを追いかける。すき焼き風玉子とじなのですが、その予想を裏切らない美味しさはやっぱり嬉しいものです。
〆の一杯。ここにきてついに生ビール。お店独自の酎ハイがあると、もうそればかり飲んでしまいますが、やっぱり生ビールは美味しい!アサヒスーパードライの中生(530円)で改めて乾杯。
ご夫婦・ご家族で切り盛りする駅前の人情酒場「桜扇」。常連さんで賑わっていますが、はじめての人も暖かく迎えてくれます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
桜扇
048-881-3522
埼玉県さいたま市浦和区東仲町11-3
17:00~24:00(日祝定休)
予算2,500円