野田「お多福」 小さなコの字で酒場に浸る。60年続くそこはタイムカプセルです。

野田「お多福」 小さなコの字で酒場に浸る。60年続くそこはタイムカプセルです。

2018年10月15日

酒場は、ある瞬間を記録し続けた「タイムカプセル」のような魅力を持っていると日頃から感じています。戦前に誕生したビアホール、戦後の闇市で強く育ったもつ焼き屋、酒屋の一角でお酒を飲んでいた角打ち。その時代や土地の色を持った老舗は、街が変化しても変わることなくそこにあり続けています。

例えば、野田阪神近くの「お多福」も、この地の60年前を封じ込めたような酒場です。

阪神電車の野田阪神駅とJR大阪環状線・野田駅をつなぐ全長350mの新橋筋。近くには大阪中央卸売市場もあり、賑やかな商店街です。自転車に乗ったパワフルなマダムや、お昼間からご隠居さんが飲んでいるような、そのな場所。

小売店も元気です。懐かしい雰囲気の酒販店さんがありましたので、缶ビールを衝動買い。

新橋筋から横へ折れるとそこは懐かしい雰囲気漂う新橋横丁です。ここで60余年続く家族経営の店が、今回ご紹介する「お多福」です。

色あせているけど清潔なの暖簾。すきだなー、この雰囲気。ちょうど”おっちゃん”と入れ替わりで、店内へ。

営業はお昼から。たまに夕方からオープンで振らたこともありますが、それもまたご愛嬌。冷蔵ケースから食べたい”アテ”を選びましょう。小皿200円、中皿300円、煮魚からシュウマイまで何でもござれです。順次、新しいお皿が追加されていきますので、それをみて「それ美味しそう、タコ刺しください」なんて頼むのも楽しいです。お通しはありません。

コンロでは豚骨とおでん(300円)がクタクタと煮込まれています。プルンプルンの茹でたて豚足は美味ですが、スジの旨味が染み出したおでんも外せません。瓶ビールでキリンラガーのダイビン(440円)をもらって、昼酒の用意は揃いました。

では乾杯!

風で揺れる暖簾の隙間から午後の穏やかな日差しが差し込みます。息子さんが仕切るコの字に座って瓶ビールを傾ける時間、お多福の魅力ここにありです。

発泡スチロールいっぱいに食材を詰めて運んできたものが、その場で開封されて次々調理されていく。手際よくサクサクと切り分けたお造りが次々盛られていく中、「それちょうだい」って言うのは楽しいのです。

天ぷらや炒めものもおいていて、日中は食堂のような感覚で利用していくセンパイもいます。

とんこつおでん、とでもいいましょうか、東京にはないこの味。大阪ではメジャーですが、こういう一皿一皿に地域の違いを感じるのも酒場の魅力でしょう。

燗酒は260円、チューハイ270円、大阪の大衆酒場は安いところが多いですが、お多福もたいへん懐に優しいです。あれこれ飲んでつまんでも二千円は越えません。樽詰めのチューハイをもらって、もう少しこの空間に浸ります。

息子さんが店番をしていたら、女将さんが戻ってこられました。店番、交代かな?

家族経営のほっこりとした酒場「お多福」。昭和の香りを求めてその暖簾を潜ってみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

お多福
大阪府大阪市福島区吉野2-13-14
12:00~22:00(土日祝は10:00~22:00・ただし午前や日中時間帯一時閉めていることもあり・水定休)
予算1,800円