横浜「豚の味珍」 狸小路奥の隠れた幸せ。豚の珍味で焼酎が進みます。

横浜「豚の味珍」 狸小路奥の隠れた幸せ。豚の珍味で焼酎が進みます。

2018年10月13日

横浜で飲む。そんな話になれば「じゃあ桜木町駅前のぴおシティで待ち合わせ?」というのがよくある流れ。いやいや、横浜といったら「横浜駅」にだって横丁や角打ちだってあるんです。桜木町や野毛は、その前後に行けばいい。そしてぜひ立ち寄っていただきたいお店が「豚乃味珍」(まいちん)です。

横浜駅西口は、駅が変化を続けることで話題になりますが、駅前の変わり方も凄まじい。そんな横浜駅で、戦後の闇市の雰囲気を残した軌跡の一画があることをご存知でしょうか。今回ご紹介する「味珍」は、そんな横丁の人気店です。

 

横浜駅から徒歩1分の「狸小路」。ビルの軒先を借りて歩けば、雨天の日も駅から傘をささずにいけるような抜群の立地です。表はピカピカに作り変える日本にも、こんな時空の狭間はまだまだあります。

 

L字を書いたような小路には、小さな飲み屋やスナックがハモニカのように口を開けています。各々に灯った提灯は、それぞれ違った志向でありつつも、すべて「昭和」で統一されています。それもそう、この路地は昭和30年頃には存在しています。

この小路のちょうど折れ曲がった場所にある富翁の電照看板が「味珍」の目印です。

 

店は4つに別れています。最も古くからやっている角の店と、その二階。さらに向かい合って新店があり、こちらも一階、二階をとわかれています。どのお店も小さく、ゴールデン街のスナックのような規模。カウンターの隙間に入り込めば、店と自分が同化するようで心地いいものです。

飲み物は?と聞かれるくらいのタイミングで「瓶ビールを」と。「やかん」の愛称で呼ばれる魔法のランプ風のやかんから注がれる焼酎が店の名物ドリンク。中身は宝酒造の焼酎マイルドです。このほか、日本酒は富翁、紹興酒は永昌源、ビールはキリンクラシックラガーです。生ビールはありません。

 

豚の味珍というくらいですから、豚の珍味が勢揃い。豚の頭、耳、舌、胃、尾、足の6つの部位(各720円)を独特な醤油味で煮込んだものが名物です。馬刺し、牛モツ煮、皮蛋なども揃います。小鉢系で人気は常連さんに「らっぱ」と呼ばれる「ラッパーサイ」、つまり白菜の漬物(310円)です。

 

老舗酒場特有の睨みのある店長さんは、話すととっても気さくな方。ビール、らっぱ、そしてしっぽとあっという間に揃えてくれて、では乾杯!

 

頭や足が人気ですが、ちびりちびりと酒の肴でつまむならば「尾」が一押し。豚の各部位は、2日ほどかけてじっくりと煮込むためどれを頼んでも意外なほどすっきり。横浜といえば中華街の影響も予想されますが、味付けに八角などの中華系香辛料は使われておらず、むしろ肉じゃが的な味に仕上がっています。製法は創業以来守り続けているそうです。

 

豚のしっぽは、もちろん中心に骨が通っていますので、骨に注意して。そしてダイナミックに頬張りましょう。練からし、たっぷりの酢、ラー油を混ぜた特性タレに浸すのが美味しさのポイント。濃厚な旨味とあと引くコク。クサミはなく、余韻がビールや焼酎を強烈に引き寄せます。

 

箸休めにらっぱがぴったり。甘ずっぱく漬かっていて、にんにくの風味とともにこれまたビールのよきお供です。

 

回転のよいお店とはいえ、小さなカウンターにぎゅうぎゅうに座るのですから、最初の店の元祖のカウンターを楽しむならば一人がおすすめです。ここに座って、瓶ビールを傾けて、らっぱと尾っぽでちびちびやれば、一週間のストレスもどこかへ溶けていくようです。

 

ぼんやりしてきたら、さらにぼんやりするべく、やかんを。結構しっかり入るグラスに、高い位置から一気に注ぎ入れます。

 

好みに応じて、梅エキスを注ぎ込めば、関東の酒場でみかける例のキツイ一杯の完成です。25度の甲類がほぼ希釈せずに入っているわけで、おかわりはほどほどに。

 

横浜駅まで1分程度。心地よく酔っても駅にはなんなくたどり着けますね。豚の珍味は持ち帰りも可能なので、一人飲みでも少しお腹に余裕があれば、もう一皿頼んでみてもよいかもしれません。

あと、梅割りはきつくてちょっと、という方は「セットで」と注文すると、このたっぷり焼酎と小さなウーロン茶の缶を出してくれますので、これでウーロンハイも可能です。

ごちそうさま。

 

そうそう、狸小路という名前、札幌と同じですが、実は味珍の初代が北海道の出身で、この横丁の名付け親だそうです。

 

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

豚の味珍
045-312-4027
神奈川県横浜市西区南幸1-2-2
16:30~22:30(日祝定休)
予算2,500円