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住宅街にぽつりと灯る赤ちょうちん。縄暖簾が炭火焼きの香りを添えて静かに揺れています。ここは木場の名酒場「夢乃家」。常連さんで賑わう地元の愛され酒場です。
東京の下町は、駅から離れた場所にも関わらず、毎夜賑わう老舗が多く、知れば知るほど飲み歩きが楽しくなります。少し歩けば、一杯目が一層美味しくなりますから、ぶらりと散歩がてら飲みに行きませんか。
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東京メトロ東西線の木場駅。江戸時代初期の頃から、隅田川沿いの貯木場として機能していたことが木場の由来です。都心からアクセスもよくマンションの建設が進む一方、古くからの町工場が残り下町風情が漂います。
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駅から歩くこと5分。「八重垣夢乃家」の袖看板が目印です。八重垣は、江戸の頃より「下り酒」として慕われてきた兵庫の酒蔵の名です。漂うやきとりの香りに誘われて、無意識で縄暖簾をくぐりました。
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分厚い一枚板のカウンターやテーブルに目が行きます。木場の老舗の風格を感じつつも重たい雰囲気はなく、むしろ明るい女将さんや大将の人柄によって軽快な印象です。
飲み物は、ビールを先頭に下町っ子好みの濃いめ酎ハイ、そして日本酒に角ハイボールという顔ぶれです。5分とはいえ、少し歩いたあとはビールが欲しくなるもの。生はサッポロ黒ラベル、瓶はキリンラガー大びん(650円)。
今宵はガツンとキリンラガーでスタート。乾杯!
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お通しは酒が進む小皿で、内容はその日ごとに変わります。今日は塩気たっぷり焼きカツオ。ちびりと摘んで、すかさずビアタンを口へ。
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やき鳥、炭火焼きを看板に掲げていますが、料理の種類は豊富で、海鮮系の充実ぶりは大衆酒場というよりは大衆割烹と呼ぶべき並びです。300円前後と料理も総じて安いです。カンパチやカツオの刺身なども300円台。しかもモノがよいと評判です。
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串は1本80円から。焼き鳥、レバ、タン・ハツ、ナン骨、カシラ、シロとあり、大将がお客さんとの会話の中でも、炭火へ常に向き合い、丁寧に焼いています。
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ながらみのうま煮(280円)。江東区のやき鳥屋さんで、まさかながらみを食べられるとは。一人でちびちび飲むのに丁度いい量。甘めに仕上げてあります。
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串は1本から注文可能です。焼き方は丁寧。甘めのタレは、誰もが幼少の頃から好きなあの味です。
いまどき100円以下の値段でこうしてちゃんとしたものが食べられるお店は貴重です。箸休めには、定番の冷やしトマト(240円)を。
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ぷりぷりでジューシーなシロは、クセがなく口でとろけます。表面のカリカリ具合もポイントです。
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品書きでみんなが気になる「品川とうふ」と、お酒は酎ハイ(380円)。500ジョッキに氷屋さんの氷。そして星の肩を上回るほど注がれた甲類焼酎。割材と焼酎の比率は、氷を計算しなければ逆転しています。これぞ下町の大衆酒場。
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さて、この品川とうふ。品川巻きに似ていることからついた名前です。豆腐にのりを巻き軽く片栗粉をまぶし、中華鍋で揚げるように焼いたもので、その味は甘酸っぱく酎ハイと抜群のコンビネーション。手間が多少かかっているのに250円。食べごたえもあり人気です。まさに繁盛店の逸品。
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色の濃いお茶で割っているにもかかわらず、半分白い玉露割り。3杯飲めばよく飲んだね、と言われ、しっかり飲めば(適正飲酒の範囲内で)今夜は出来上がりといったところ。
テーブル2卓とカウンター、馴染みの常連さんも一見さんも、みんな一緒に夢見心地の大衆酒場です。ぜひ一度、暖簾をくぐってみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
夢乃家
03-3644-2402
東京都江東区東陽5-16-2
17:30~22:30(月定休)
予算2,000円