真鶴「富士食堂」 東京から一本、気軽に行ける港町の酒場で相模湾三昧。

真鶴「富士食堂」 東京から一本、気軽に行ける港町の酒場で相模湾三昧。

2018年6月27日

相模湾に突き出した半島が鶴の頭に似ていることから「真鶴」と名付けられた、ここは神奈川県真鶴町。東海道本線で東京駅へ一本という便利な場所ながら、昭和の港町の風情をそのまま残す貴重な街並みが広がります。

景観を保護する条例まで制定し、バブル期の観光開発の波にのまれず、他の沿線開発地とはまた違った、のんびりゆったりした時間が流れています。

そんな真鶴の素敵な飲み屋「富士」を目指してやってきました。真鶴駅前で半世紀近く、地元の人々に愛されるお店です。

17時のオープンですが、少し早めに列車を降りました。入り組んだ海岸線を自然の港として、この界隈は大小様々な漁港があり、「富士」はそんな地場の魚を食べさせてくれる酒場です。飲む前に、まずは港をのんびり見学します。

東京への通勤圏とはいえ、駅前は旅愁をかきたてる雰囲気です。

駅から海まで、緩やかな傾斜が続きます。道沿いには鮮魚店や寿司屋が点在。定番の鯵の干物からキンメまで、相模湾の幸が並びます。

町のどこからでも海がみえます。段々に建てられた家々の隙間を「港の猫」のごとく、左へ右へ降りていくと真鶴港に着きます。

最近は漁師の数も減ってしまったそうですが、それでも漁船の姿は多いです。近隣の家族連れや釣り愛好家が昼下がりの港釣りを楽しんでいます。「釣れますか?おお、シロギスですね」

さて、いい時間。飲みにいきましょう。正式には「富士食堂」ですが、営業は夕方から。駅前広場に面しているので、飲んですぐに列車も乗れる便利な場所。縄のれんと縁なし電照看板、老舗ならではの渋い佇まいがたまりません。

長く続く酒場ですが、ご主人は世代交代していて、若く料理熱心な大将が包丁を握ります。家族経営の優しい空気が店を包み、さらに訪れるお客さんも真鶴の人ばかりで、まるで真鶴の集会場のよう。

古くても隅々手入れされた店内。冷蔵ケースに向いたピシっとしたカウンターに腰を下ろし、まずは生ビールから。樽生のキリンラガーが店の風情にぴったり。

老若男女が幅広く愛用する酒場で、料理のバラエティも全世代対応。しらすオムレツ(450円)や…

刺身に焼きもの、揚げものと揃います。刺身は500円から、どの料理も500円前後とリーズナブルです。港町らしい顔ぶれに、どれを頼むか目移りしてしまいます。相模湾のアジが品書きの左上、先頭です。

近海ものがあがるんです、と生ばちマグロ(900円)がご主人のおすすめ。

美しいピンク色。とれたての近海ものならではのしっかりと風味があり、ねっとりとした旨味が口に解け広がります。

ショーケースにはその日の海産物が並んでいます。市場を経由していないものが多く、「そのへんでとれたもの」という地元ではありふれたものが、都会の酒場にない魅力を感じます。小魚は「じんだ」と呼ばれています。都会では「豆アジ」で知られていますね。

肉厚でひだが詰まった「めかぶ」。あまりに美味しそうでしたので、これを枝豆感覚でつままみたく注文。とれたては工夫せずに塩ゆでするのが一番だそう。

続いて瓶ビール。生はキリンで、瓶はサッポロ。昔からずっと変わらず。

めかぶは、さっと湯がくように茹でて、鰹節をふってできあがり。”ブリブリ”の食感にどこまでも伸びるぬめり。甘さと優しい海の旨さがビールを進ませます。

500円玉サイズの小さな「じんだ」は、唐揚げで。小さくても丁寧にワタが取られています。たっぷり揚げてもらって500円。夕暮れの港町、地元のお父さんたちと一緒に、じんだ揚げを肴にビールを傾ける…こういう幸せが好きだから、酒場巡りはやめられません。

お酒は曽我の誉。神奈川県・松田の地酒です。1合350円で、ちろりで燗つけて、コップに勢いよく注ぎます。上品に飲む日本酒はもちろん好きですが、酒場の大衆的な飲み方でいただく地酒もいいものです。

お隣は地元で生まれ育った女性お二人連れ。街の話に花がさき、おつまみをつまみ飲んでいたらあっという間に列車の時刻です。ゆったりとした時間を楽しみに来た真鶴ですが、富士食堂の中では目ばたきの間に時が進みました。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

富士食堂
0465-68-1063
神奈川県足柄下郡真鶴町真鶴400-1
17:00〜23:00(水定休)
予算2,000円