日本は世界一公共交通が発達し、駅前を中心に赤ちょうちんが広がります。世界の居酒屋にはない日本独特の文化です。飲みすぎて寝過ごしは辛いけど、お酒と鉄道は切っても切り離せない存在です。
今回より始まります飲み歩き企画「全駅酩酊はしごライン」は、そんな酒場のイメージが強い路線に注目し、毎回テーマに合わせて各駅から1店舗ずつ酒場をご紹介してまいります。
第一弾は、荻窪生まれの筆者が最も馴染み深い路線「JR中央線」です。東京を代表する通勤路線で都心から多摩へ一直線に伸びる大動脈。各駅ごとに異なる表情があり、どこで降りても楽しい路線。その街でイチオシの「老舗酒場」をご紹介します。
目次
東京 ふくべ
東京駅八重洲口すぐの立地にありながら渋くお酒を楽しみたくなる佇まい。縄のれんとキクマサの文字入り袖看板が古き良き酒場の風格を醸し出しています。
本醸造・純米を中心に全国40種類以上のお酒を取り揃え、湯煎のお燗酒をしっぽりと傾けるお店。キクマサの樽酒はふくべで飲むのが一番美味しい。おつまみはおでんが有名ですが、鮭ハラスが特に好物です。3,000円くらいでしっぽり飲めるいいお店、東京出張の帰りに酒場へ行きたい方にもおすすめです。
創業70余年の歴史が語りかけてくるような空間もまたお酒を進ませます。
神田 みますや
1905年創業、東京で最も古い居酒屋です。銅張り建築に溢れる暖色照明の光。中から笑い声が聞こえてくれば自然と吸い込まれてしまいます。店は奥に大きく座敷で宴会も可能です。東京の郷土料理が豊富で煮穴子は毎回頼む定番の肴です。お酒は白鷹、ビールはキリンをはじめアサヒとヱビス。古いお店ではありますが、敷居の高さを演出した感じはなく普段使いができるのも嬉しいポイント。
御茶ノ水 兵六
御茶ノ水から駿河台坂を降りて神保町の交差点へ。書店が並ぶ一角に出版関係者をはじめ文化人が愛する老舗酒場「兵六」はあります。コの字カウンターとちょっとしたテーブルだけのコンパクトなつくりで、ベンチシートにつめつめでお酒を楽しむところ。兵六揚げや餃子などの名物と焼酎をきゅっとあわせ、のんびりしているととってもいい気分。
飯田橋 樽八
神楽坂下近くで48年続く老舗の大衆酒場。青森出身の女将が守る大提灯です。L字カウンターには毎晩常連さんたちがふらりとやってきて今日の魚と日本酒を飲んでいきます。神楽坂のイメージはどうしても華やかなものがありますが、ここは昔から変わらないサラリーマンのオアシスです。酒燗器からのぼる湯気と女将さんの優しいトークが店を包んでいます。
四ツ谷 鈴傳
四ツ谷駅はオフィス街で平日は人で溢れていますが土日はほとんど人がいないオンとオフの激しい街。飲むならばもちろん平日で、仕事上がりに軽く、そしてなにより美味しく飲みたいときは鈴傳です。酒卸・小売の老舗で一階の酒屋スペースの他、地下にも巨大な保管庫を持つ日本酒業界では有名なお店。その脇の細い廊下を進んだ先にある立ち飲みスペースはいわゆる角打ちです。
ずらりと並ぶその日の銘柄と冷蔵ケースに並ぶおつまみをチョイスして、好きな場所に持っていって楽しむフードコート方式。大人になってもフードコートは楽しいのです。
http://syupo.com/archives/4642
新宿 ぼるが
新宿ハルク裏にある老舗の酒場「ぼるが」。ロシア文学を愛した初代が終戦4年目の混乱が収まらない新宿駅前で開業。現在の場所には昭和33年に移転。蔦が絡まる重厚感ある建物で、店内は意外なほど広い。思想、文学、芸術論、ぼるがでいろんなことを語り合った人たちもいまやおじいちゃんになりましたが、昭和の残り香とぼるがを愛した人たちの想いは店のあちこちに残っています。
中野 路傍
今年で57年目のろばた焼きの店「路傍」。千福の樽酒を飲むならばここが中野区で一番ではないでしょうか。厚揚げやエリンギを丁寧に焼いてくれたものでお酒をきゅっと。一緒にのみ行った人とも、お店のご主人とも、隣り合ったお客さんとも距離が近づく不思議な空間です。
高円寺 大将
1977年創業、高円寺を代表する大衆酒場「大将」。南口のロータリーに面して冬でも開放感いっぱいにビールと焼鳥を食べている人たちをみると、今日は立ち寄らないぞと決めていても吸い寄せられる重力の強さがあります。冬季のピリ辛の鍋は寒くなったら一度は食べておきたい名物です。高円寺で3店舗、噂ではサッポロ焼酎を杉並区で一番売っているのだとか。
阿佐ヶ谷 川名
1971年創業の阿佐ヶ谷の名焼き鳥店「川名」。鳥中おち串など珍しいものもある鳥の店。中央線沿線はやきとり屋が多いですがその多くは豚モツで、鳥メインは実は少数派です。海鮮料理も充実していて、毎日通っても空きない豊富なメニューが魅力。飲みものは赤星がおすすめですが、酎ハイはグレープフルーツの生搾り酎ハイが度数高めなのにフルーティーでくいくい飲める危なくてクセになる美味しさです。
荻窪 鳥もと本店
荻窪の鳥もとは北口のバスロータリーに面していた掘っ立て小屋風の焼き鳥屋です。現在は荻窪銀座に移転し、新築で大きくなったお店を活かして、北海道出身のご主人が昔のつてで仕入れる北海食材も加わりました。荻窪で飲んで育った人には忘れられない一軒です。強面の大将ですが実はとっても優しく人懐こい方。荻窪話に花が咲きます。
西荻窪 酒蔵千鳥
西荻窪駅から南に2分。どっしりとした店構えの大衆飲み屋「千鳥」は、半世紀続く人気店。コの字カウンターでおでん鍋を囲み、気の利いた酒の肴とおでん、そして燗どうこでつけられる白鶴の上燗がとっても美味しい。日本酒をしっぽり飲みたいときには西荻で途中下車を。
吉祥寺 いせや総本店
吉祥寺で昭和3年からご商売をされているみんな大好き「いせや」。建て替えられた今も昔の雰囲気がしっかり残る本店の立ち飲みスペースが好き。煙でもくもくになるけれど、たまに燻されたくなるから不思議。名物のシューマイや日替わりにでてくる鍋などサイドメニューも人気料理が多いですが、なんといっても1本80円をずっと維持しているやきとりが看板です。ビールは赤星・黒ラベル、色付きのシロップをいれて飲む甲類酎ハイもやきとりと好相性。
三鷹 大島酒場
84年続く名店「大島酒場」。目利きの大将が仕入れる海鮮と日本酒の組み合わせを楽しむ正統派立ち飲み。店内はぴかぴかでキリっとした雰囲気のなかにも、お客さんを想う気持ちが表情から伝わってくるほっこりとした空間です。日替わりのお刺身はどれも美味しく、単品のシャリをもらって寿司のようにして〆るの楽しい。
武蔵境 ときわ食堂
東京の下町食堂の代名詞「ときわ食堂」の最西端。半世紀近い歴史の中で、食堂からアルコールへ注力したころがあり、その名残で店はまるでスナックかバーのよう。そんな空間でいただくウィンナーエッグやさばの味噌煮は、ミスマッチに感じるのは最初だけ。なんだろう、この食堂とスナックの融合の魅力は…と混乱しつつ、最後は気持ちよく酔っ払っていけるお店です。
武蔵小金井 大黒屋
武蔵小金井を飲み歩く上で、外せない存在の大黒屋。60年以上続く酒場の風格は素晴らしくおつまみなく、店の空気だけでも大瓶があいちゃいそうなほど。それでも、ここは建て替えられてマンションの一階なんです。まるで剥製のように内装はそのままに骨格は最新の鉄筋コンクリート。名物のまぐろとくさやと、日本酒は広島の千福をお燗で飲めば幸せです。
西国分寺 鳥芳
1974年(昭和49年)創業のニシコクで一番古い酒場。ちなみに、西国分寺駅そのものが開業したのは1973年なので、駅ができてすぐに誕生した駅前酒場というわけです。チレのしそ巻きなど他の酒場にはない個性的なやきとりもあり、多摩の地酒とあわせていただきましょう。
国立 うなちゃん
一橋大学の学園町で、駅から伸びる桜並木が有名な国立。酒場文化財をあげるならば「うなちゃん」です。JRの高架化や道の拡幅にも飲み込まれず変わらず愛され続ける名酒場。鰻を大衆価格で楽しめるというだけでなく、お店の方の人情や建物の風情もすべてあわせてすばらしいお店です。東京の地酒、多満自慢で乾杯です。
立川 玉河
老いも若きも男も女も、20歳以上で諸条件をみたしていればだれでも楽しめる集合場所、立川の王道「玉河」。年中無休で午前11時から通しで営業。地階にあるので昼間でも夜のよう。刺身から中華までなんでもござれの頼れる存在です。ビールはサッポロ、お酒は白鶴。学校の教室ふたつぶんはある大箱でみんなで乾杯です。
八王子 多摩一
林業で栄えた八王子らしく木材をふんだんに使った店内は、まるで山荘のような雰囲気。1949年創業でお客さんは安心感のある年配の方が中心です。美味しい料理を適正な値段で楽しませてくれる正統派酒場。名物は瓶で熟成しているお店のオリジナル焼酎です。
八王子からもまだまだ続きます。
2017-12-15更新
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)