なんとなく明石駅に降り立った筆者。うろ覚えの記憶で、確か、駅前の賑わう歴史ある商店街「魚の棚商店街」を抜け、山陽道を渡った先にお昼から飲めるいい場所があったなーと考えつつも、途中でいいお店があったら入ってみようと歩いていました。
たこ焼きのルーツになったと言われる明石焼きを看板商品にした飲食店が、店先で呼び込みをしています。地元では「たまご焼き」と呼ばれていますが、駅前の人気店に入ったらいかにも観光客みたいだしなー、旅ライターではないからとそっと明石焼きのお店たちを通過。
商店街を抜け、磯の香りがする方へととぼとぼと歩いて、結局たどり着いたのは最初のうろ覚えの場所。明石港までやってきました。明石港は明石大橋の完成後、唯一残った本土と淡路島を結ぶ客船航路「淡路島ジェノバライン」が発着するほか、明石の鯛や蛸で全国的に知名度の高い漁港でもあります。
お昼ともなれば明石海峡から戻ってきた漁船で港の中はいっぱいになります。
港そのものはさほど大きすものではなく、明石市場海産物分場や客船乗り場などが小さなところに密集していて、ちょうどいい具合の人間味を感じる港です。駅から徒歩10分ほどの場所にこんな素敵な港があるのはうらやましい。
その明石港に一番近く、海で働く人たちが主なお客さんの食堂が今回目指していた「みなと食堂」です。淡路島ジェノバライン乗り場の真ん前にあります。
潮風をあびてやや朽ちた感じのテントと色あせた暖簾が情緒を感じます。この雰囲気は、アタリとハズレの幅が大きいのですが、ここは確実に「アタリ」です。
店先の焼き穴子どんぶり(680円)の看板だけが新しく目立ちますが、ごはん処ではなく午後は早朝仕事の海の人たちの、一足早い居酒屋のようになっています。
1940年に創業した歴史ある食堂。昔ながらの自分で選ぶ方式のおかずや肴がいい味だしています。ここから好きなものを勝手にとって食べる方式。お刺身ならば持っていく様子をみた女将さんが追いかけるように醤油皿をもってきてくれます。
メインになる皿が500円前後、小鉢は200円前後、ちらし寿司が250円とめちゃくちゃリーズナブル。
ビールは大樽も瓶もキリンラガー(RL)です。ひょひょっと冷蔵庫から取り出してきた刺身の盛り合わせ(550円くらい)と小鉢をつまみにして、キリンラガーで乾杯!
お店から20歩ほどの漁港で水揚げされる魚介類は鮮度がよくおおぶりで安い。まさに漁師の食堂という感じの盛り付けではありますが、海のプロはごまかせないと言わんばかりに、無骨ながら実に美味。瀬戸内のたこはもちろん、鯛やはまちなど日によって刺身は変わります。
明石だこをたっぷりと使っただし巻き卵がここの人気メニュー。出汁がしっかり効いた甘めの汁のなかに、ふわふわの玉子がはいっています。明石焼きもいいけれど、地元の人達が食べる手軽な大衆食を肴に飲むのもいい感じです。
場所柄、お店まで生きた状態で仕入れてきて、それを店内で茹でて当日の料理に使っているというのだから素晴らしい。やわらかくて海の旨味がかむごとに広がるタコ入りだし巻きは、明石まで来てよかったと思えるほどの逸品です。
味付けはあっさりしているのですが、出汁とたこからでる旨味がもう大変。これの液体おつまみを肴に、灘の大手銘柄「白鹿」の冷酒(380円)をきゅっと飲む。地元のお父さんたちの憩いの場はやっぱり素敵です。
通しで営業している食堂なので、みんなぼーっとお昼の情報番組を眺めながら飲んでいます。このゆるい雰囲気に浸る楽しさを知ってしまうとなかなか抜け出せません。西日本限定のキリンレモンサワー(350円)をもらって緩いひとときを過ごします。
氷がほとんど入っていなくて、飲みごたえたっぷりのレモンサワー。ちょっぴり甘くて酸味がしっかり効いている、美味しい樽詰チューハイです。
穏やかな日差しが差し込む店内で、地元の美味しいものと地元のお父さんたちに混ざって飲む。食堂飲みはやめられません。
明石にきたら明石焼きもいいけれど、ぜひ地場の日常風景の中に飛び込んでみてください。きっといい時間が過ごせます。19時でしめちゃうという営業時間もまたイイ!
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
みなと食堂
078-911-2681
兵庫県明石市本町1丁目19-7
7:00~19:30(火定休・第1第3月休)
予算1,800円