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札幌から函館本線で旭川方向へ進むこと40キロ。道央の比較的人口の多いエリアをつないでいる路線なので、特急列車の「スーパーカムイ」や普通列車の本数も多く、時刻表を見なくても移動できる区間で、特急ならばおよそ30分で岩見沢駅につきます。
ここはかつて、朝日炭鉱、万字炭鉱、美流渡炭鉱など大規模炭鉱があり、また、道内各地の石炭貨物列車が集約される国鉄の大規模な操車場があったことなど、過去は石炭で栄えた街でした。
そんな岩見沢の駅前に素敵な焼き鳥屋がありますのでご紹介いたします。元祖美唄焼き鳥のお店「三船」。全国のご当地焼鳥でもいつも紹介される炭鉱の焼鳥「美唄焼き鳥」の原点となる名店で、今年で創業51年を迎えます。
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周囲に飲食店はぽつぽつとありますが繁華街ではありません。そんな立地で平日の15時からオープンしているというのは驚きです。開店にあわせてご近所さんがテイクアウトで次々と購入していき、夜は予約しないと入れないほどの地元で支持されている人気店でもあります。
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素晴らしい佇まい。高倉健さんが一人焼鳥を片手に飲んでいる光景が似合う、北海道の老舗らしいムードたっぷりのお店。二重玄関の中はぬくもりあふれる空間です。
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カウンターとテーブル、奥は団体さんで利用できるお座敷もあります。この日も、地元の方で10名の予約が入っているようで、夜は満席になるみたい。
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それでは始めましょうか。最初はもちろん生ビール。北海道のビールといえばサッポロ!キンキンに冷えたジョッキにすーっと注がれる黒ラベル。昔ながらの500mlジョッキがとっても似合う。思わず笑みがこぼれます。
では乾杯!
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品書きはかなり絞られていて、やきとり以外はお漬物など、箸休め程度のものが僅かに用意されています。昆布の旨味がしっかり広がっている浅漬けがいい。
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名物の焼鳥はなんと一日2,000本も仕込んでいます。朝8時に仕込みを開始し、9時から開店の15時近くまで延々と串打ちをされているのだそう。モツは一度煮たててから串に指していくというこだわりで、あっさりと仕上がっています。かなり幅のある焼鳥台に炭をこめてどんどんと焼いていきます。次々と焼き上げていく姿は圧巻ですが、焦げははさみで切り落とす丁寧さです。
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串は「正肉」と「もつ」の二種類のみで、一人1本(1本100円)からの注文できます。※掲載当初は10本と記載していましたが、正しくは1本からになります。
美唄焼鳥は名前通りの鶏肉で、味付けは塩だけ。
もつはハツやレバ、ちょうちんなど色々なものが混ざっています。どれも旨味が強く鮮度の良さが感じられ、その余韻に合わせてビールをぐいぐいと飲みたくなる素晴らしいもの。都市部で食べる焼鳥は別物、こんなにパワフルな食べ物だったのかと感動します。
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ビールが進みます。泡の比率、泡の状態、ビールの冷え具合、すべて完璧な黒ラベルです。焼鳥だけを食べにバイクや車で来る方もいらっしゃるそうですが、ここは鉄道で来てビールを飲んでこそ最大値の楽しさがあると思います。
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玉ねぎは甘みがしっかり、鶏はしっかり焼いていてもジューシーさは失われておらず、口の中でこれらが混ざることで美味しさが増します。
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そして、焼鳥の〆として用意されているのがかけそば(300円)。出汁はまるでラーメンのような鶏出汁の醤油味。大量の鶏もつを茹で上げるときにでる出汁をつかったもので、大量に焼鳥が売れていくお店ならではの個性的な蕎麦。これがもう逸品!
ねっとりした鶏の旨味は想像以上に力強く、食べていると体の中からぽかぽかと熱くなっていきます。ここに残しておいた焼鳥を載せると、これがまたたまらなくいい。半世紀以上愛され続ける理由がわかります。
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なぜこのお店が駅前でぽつりとお昼から営業しているのか。それはやはり岩見沢という街の成り立ちが関係します。最盛期は500人以上の鉄道マンが働いていた国鉄岩見沢操車場や様々な鉄道施設があり、夜勤明けの集う場所として鉄道とともに栄えたお店だったのだそう。だから早い時間からやっていても、時間に関係なく賑わっていた、その名残で今も開店が早い。
街の人や道内各地からこの味を求めて、たんさんの人が集まってくるので、鉄道の規模が縮小された今でも人気の酒場として続いています。
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街の歴史、産業の変化の残り香を感じながら、経済成長を支えた焼鳥をおつまみにビールを飲む。まさに北海道らしい酒場ではないでしょうか。
駅は最近建て替えられて立派になりましたが、その周辺は昭和のままです。きらびやかな札幌市街で飲むだけでなく、ぜひお越しの際は岩見沢まで足を伸ばしてみてはいかがでしょう。きっと、酒場好きの方は涙がでるような感動があるはずです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/サッポロビール株式会社)
やきとり 三船
0126-24-1788
北海道岩見沢市一条西7-1
15:00~21:00(日祝定休)
予算1,800円