山形駅前、香澄町の路地裏に佇む『なかの』は、手打ちそばと一品料理の店。夜は赤提灯が灯り、地元の常連さんが集う食堂兼居酒屋です。名物の芋煮をつまみに赤星を傾け、〆には絶品の鶏そばを啜る。旅先で出会った、実家のように温かい酒場の夜をご紹介します。
飾らない暖簾の先に広がる、50年続いてきた老舗

山形新幹線を降りて数分。ビジネスホテルや飲食店が建ち並ぶエリアから一本路地に入ると、どこか懐かしい昭和の風情が漂う一角があります。観光客向けに作られたお店ではなく、長くこの街の人々の日常に寄り添ってきたことがわかる佇まい。それが『なかの』です。
引き戸を開けると、「いらっしゃい!」と割烹着姿のお母さんたちが迎えてくれました。厨房に面したカウンター席と、左には靴を脱いで上がる小上がり。テレビからはローカルニュースの音が流れ、仕事帰りの人たちが思い思いの時間を過ごしています。まるで親戚の家に帰ってきたような安心感に、肩の力がふっと抜けました。

まずは瓶ビールをお願いします。出てきたのは、酒場好きには嬉しいサッポロラガー「赤星」。中瓶と昔ながらのビアタンが、この店の雰囲気にこれ以上なく馴染みます。

お通しはナスのピリ辛煮。クタクタに煮込まれたナスに醤油と唐辛子の味がしっかりと染みていて、これだけでビールが空いてしまいそうなほどの実力派。派手さはないもののしみじみ美味しい。それが山形の家庭料理なんです。
山形の夜は「芋煮」と「鶏そば」で締める

山形に来たからには、やはり「芋煮」は外せません。こちらでは内陸風の醤油味。注文が入ってから小鍋で仕上げてくれる芋煮からは、湯気とともに甘辛い醤油の良い香りが漂ってきます。

主役の里芋はねっとりと柔らかく、牛肉の脂の旨味と醤油のコクがスープに溶け出しています。こんにゃくやネギの食感も楽しく、体の中からじんわりと温まる美味しさ。ここで日本酒に切り替え、徳利を傾ける時間は至福そのものです。

木札の献立には刺身や焼き魚など、酒飲みを喜ばせるメニューがずらりと並び、どれも驚くほど良心的な価格。あれこれ頼みたくなりますが、今夜の〆はお蕎麦と決めていました。

『なかの』は居酒屋でありながら、本格的な手打ちそばが評判のお店。

そこでお願いしたのは「鶏そば」。運ばれてきた丼からは、鶏出汁の濃厚な香りが立ち上ります。

具材は一般的な柔らかい鶏肉ではなく、噛みごたえのある親鶏がたっぷりと。噛めば噛むほどに深い旨味が滲み出てくる親鶏は、まさに大人の味わいです。

色が濃く太めの田舎そばは、しっかりとしたコシがあり、甘めのつゆとの相性が抜群。飲んだ後の体に、この滋味深い味わいが染み渡っていきます。
安くて美味しい、安定の名酒場
気がつけば、心もお腹も満たされていました。これだけ食べて飲んでも、お会計は驚くほど手頃。この日は飲んで食べて3,000円以内に収まりました。
常連さんとお店の方の会話をBGMに、牧歌的でゆったりとした時間を過ごせるローカル店。洗練されたお店も良いですが、旅先でふと立ち寄りたくなるのは、こういう飾らないお店ではないでしょうか。山形駅前で、観光地化されていない「素の山形」に触れたいなら、ぜひ暖簾をくぐってみてください。実家のような温かさと、本物の郷土の味が待っています。
| 店名 | 手打蕎麦・一品料理 なかの |
| 住所 | 山形県山形市香澄町3-1-27 |
| 営業時間 | 17時00分~23時00分 ※12時過ぎから営業している日もあります 日月定休 |
| 創業 | 1970年 |
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