寛政年間(1789~1801年)創業の『細重酒店』は、盛岡では貴重なもっきり(角打ち)が楽しめる酒販店です。「月の輪」の蔵元の親戚で、蔵だしの月の輪を200円台で楽しめます。地元のご隠居さんが集まるこの店は、盛岡のどんな観光地よりも盛岡の魅力を感じることができるに違いありません。
路線バスで訪ねる価値ある名角打ち
かつて、盛岡市内の多くの酒屋さんが「もっきり(盛り切り)」をやっていたそうです。近年まで、市内には「あさ開」、「菊の司」、「桜顔」、「岩手川」と4つの酒蔵があり、製造と消費地が近かったことも、酒屋の「もっきり(以下、全国的な表現に合わせて角打ちと表記)」が親しまれてきた理由のひとつではないでしょうか。
近年は酒蔵の廃業、移転などもあり、市内の酒造りは減少傾向ですが、いまも老舗の酒販店へ行くと日本酒が酒の王様として君臨していた往時の雰囲気を感じることができます。
今回ご紹介する『細重酒店(ほそじゅうさけてん)』は、もはや文化財級の角打ちです。盛岡駅からは路線バス(岩手県交通)で10分ほど乗った先にありますが、角打ち好きでなくても訪ねる価値は十分にあります。
外観
創業から220年以上になる『細重酒店』は歴史の長さに驚きますが、築130年を迎えたという建物にも驚かされます。北東北で現存する角打ちとしては恐らく最古の建物ではないでしょうか。
内観
数多の角打ちを訪ね歩いてきた筆者も、やや緊張しながら店内へ。入ってすぐは冷蔵ケースやお酒を並べた棚が並ぶ一般的な小売スペースですが、店の奥から女将さんがにこやかに「どうぞ」と声をかけてくれました。どうやら角打ちスペースは店の奥にあるようです。
古くからある酒屋さんに多い、三和土でつくられた土間が角打ちスペースとなっています。
生ビールサーバー(樽はアサヒスーパードライ)も置かれたカウンター席には女将さんがちょこんと座り、年配の常連さんたちと岩手弁でお話されていました。なんでも、県庁の裏に獣がでたとか。
もともと料理屋を営んでいたという常連さんは、自分の店をたたんだあとも、店に酒を卸していた細重酒店へ角打ちの常連として今も毎日のように通い続けているそうです。
角打ちであり、麹の製造販売店でもある
店は朝から晩まで営業していますが、女将さんがお一人で切り盛りされており、配達で店をあけることもあります。角打ち、配達だけでなく、実は細重酒店では昔から麹づくりをされており、今もお子さんたちの協力もあって麹造りと販売を続けているそうです。
角打ちを楽しんだ帰りにお土産として購入されてみてはいかがでしょうか。
缶ビールのあとは、蔵出し「月の輪」のもっきりを
角打ちの楽しみ方は簡単です。
小売スペースにあるビール類(アサヒスーパードライ・キリン一番搾り・サッポロ黒ラベル・クリアアサヒ・本麒麟・サッポロ麦とホップ・サントリー金麦など)やチューハイ、コップ酒(浜千鳥・わしの尾など)を角打ちスペースへ持ち込み、女将さんに支払ったらあとは飲むだけ。値段は小売価格とほとんどかわりません。
それでは、サッポロ黒ラベルで乾杯!
「ちゃんとサッポロのグラスでしょう?これは、あちらの常連さんが提供してくれたの」と女将さん。常連さんは50年間サッポロファンだそう。細重酒店はまるでタイムカプセルです。
乾き物をつまみながら、常連さんから岩手の魅力をいろいろ教わりました。
岩手は日本有数のホップ生産地ですし、南部杜氏が有名なように酒処でもあります。ワイナリーだってある。お酒好きなら、岩手・盛岡にもっと通わないといけませんね。そんな話題で皆さんと盛り上がりました。
細重酒店さんは造り酒屋「月の輪酒造店」と親戚関係があるそうで、店自慢のお酒は同蔵の月の輪金印です。これを「盛り切り」で注いで250円ほど。
しかもわざわざ手元で注いでくれます。じっくり味わいたい良いお酒です。こんな情緒たっぷりな空間で、地元の皆さんと一緒に飲めば、もう夢のような気分。すっかりほろ酔いになりました。
ごちそうさま
店内は、どこをみても郷土資料館のような雰囲気です。見上げれば吹き抜けの天井があり、土間を上がった畳敷きの部屋には番台や神棚が置かれています。こうした場所が変わることなく今の時代も残っているのは、女将さんの努力や通い続けた常連たちのおかげです。
奇跡のような空間にそっと浸りませんか。
近くの角打ち
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 細重酒店 (ホソジュウサケテン) |
住所 | 岩手県盛岡市鉈屋町3-4 |
営業時間 | 営業時間 9:00~20:00 定休日(配達等で一時休みあり。原則角打ちは午後から) 日曜日 |
開業時期 | 寛政年間 |