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盛岡は中心街から離れた場所にぽつぽつと老舗居酒屋が点在しています。周囲に駅はなく、路線バスに乗るか、夜道をとぼとぼあるいて向かうことになります。それでもあえて大通や肴町から離れ訪ねたい酒場はあります。
ここは岩手医科大学の北側に灯るぽつんと一軒の赤ちょうちん「さい川」。半世紀に渡り地元の人々や大学・病院関係者に親しまれてきた焼鳥店です。
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北国らしい二重扉の入り口。その先にはノスタルジーいっぱいのカウンターと小上がりがあり、ベテランの店員さんが優しく迎えてくれます。
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大都市の老舗とはまた違った、地方都市の飲み屋の味わいに浸ります。思わずふーっと息をはき、ゆっくとり深呼吸。いいやね。
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料理は焼鳥7種類とおしんこのみ。飲み物はサッポロ黒ラベルの樽生、サッポロラガー大瓶、地元のお酒・菊の司、そして角瓶などシンプル。
ビールは長年サッポロとのこと。昭和から続くカウンターには昭和のラベルが似合います。ビヤタンにトトトと満たして、では乾杯!
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焼鳥はタン、ハツ、ホホ、ヒナ、レバ、シロ、カワ。すべて白ネギを挟んだ葱間になっているのが特長です。
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さらっとしていても濃厚。甘辛のバランスがちようどいいタレがフレッシュな身の表面にほどよく纏います。なにせ、ほぼ焼鳥数種類だけのメニューで半世紀なのですから、数多の人々に愛されてきた味付けに間違いはありません。塩も選択可能で、そちらは意外と薄味です。
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ぼんやりと過ぎゆく盛岡の夜。赤星を傾けつつ、旨味たっぷりな焼鳥でのんびり良い時間。北東北随一の歓楽街、盛岡でもこの落ち着いた空気感にひたれるお店はなかなか見つからなさそうです。
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ここで日本酒を。お店から数百メートルしか離れていない中津川沿いの老舗酒蔵、菊の司です。普通酒ながら純粋な米の旨味があるバランス型で、このセピアな空間に溶け込みます。
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これぞ土地の味。地元野菜をつけた、濃い味のおしんこをばりばり。そして菊の司をきゅっと飲む。こういう体験はやっぱりその地の老舗酒場で味わうのがいいものです。
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年配のお客さんだけでなく、近隣で修行中の若いお兄さん、そして酒場好きのカップルなど、老若男女で賑わう店内。南部杜氏のお弟子さんも通う酒場だけに、店を見守るのは杉玉です。
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ずっと続いてほしい盛岡を代表する老舗酒場の一軒、さい川。中心街から幾分離れている分、酒と飲み屋を愛する人ばかりが集まり、静かに酒場に浸れるよき空間です。
盛岡に訪れた際はぜひ訪ねてみてください。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
さい川
019-651-9175
岩手県盛岡市本町通2-2-11
17:00~23:00(日月定休)
予算2,000円