水沢駅前の中心街にあるいぶし銀の酒場です。料理はもつ焼きのみで、モツ(シロ)、タン、レバーの3種類。お酒もキリンラガーと地酒「岩手誉」、本格麦焼酎「玄海」だけ。それでも毎晩地元の黒帯飲兵衛さんたちで賑わっています。
奥州街道宿場町にある「道場」
奥州街道86番目の宿場町として栄え、日本橋から数えて遠かった水沢。現代では東北新幹線により東京駅から2時間10分とアクセスが改善されましたが、それでもなお遠方の地に来たような感覚を覚えます。まさに「陸奥」という言葉がふさわしいでしょう。しかし、この遠隔地ゆえに、北東北には他の地域にはない独特の風情が残り、多くの旅人を魅了しています。
水沢の中心街は新幹線の水沢江刺駅周辺ではなく、旧街道をなぞって敷設された東北本線の水沢駅周辺です。駅前食堂に商人宿と昭和の駅前らしさが残り、そこからアーケードがしばらく伸びています。全国チェーンのホテルは、駅から離れた場所に1軒のみ。
シャッターが目立つ街ではありますが、夕暮れ時になると、どこかからか酒場へと足を運ぶ人々が現れ、街は静かに活気を取り戻します。一ノ関や北上のように多くの店があるわけではありませんが、歴史ある店が点在しており旅情をかきたてられます。
今回目指したお店は『みちのく道場』。創業は1961年頃。その頃からの建物ということでだいぶ年季が入っていますし、道場という店名もありハードルが高いと感じる人も多そうです。
職人気質の大将が温かく出迎えてくれます。寡黙な印象を受けますが、話してみるととても気さくで、この街や店、そして地元の人々について丁寧に教えてくださいました。20代の若さで店を構え、それから60年。80代になられた今も、毎日欠かさず仕込みを行い、午後5時になると必ず店を開けていらっしゃいます。
無数の蜂の巣が天井からぶら下がり、酒樽や民芸品がごちゃつく空間。このような酒場を求めて、私は旅をしているのだという実感に包まれたひとときでした。
水沢はモツの街
大将と打ち解けたところで、まずはビールをいただくことに。店内のメニュー表はなく、お酒はキリンビール、地酒、焼酎の3種類のみとのこと。こうした雰囲気の酒場には、キリンラガーが良く合いますね。大将の話では、キリンビールの社員の方もよく訪れていたそうです。店内にキリングッズが多いのも納得です。
それでは乾杯。
料理の品揃えもとってもシンプルで、モツ(シロ)、タン、レバーの3種類のみ。10本1セットで、皆さんまずは一通り食べていくとのこと。
北東北でも内陸に位置する水沢の食は、魚介類よりも肉類が主役のようで、市内にはホルモン店などいくつものモツ系の酒場があります。
丁寧に焼き上げタレにくぐらせ出来上がり。まずはモツから。ネギ多めは昔から変わらないスタイルだそう。
こちらはタン。カウンター目の前に焼台があり、調理の様子を眺めているだけでもビールが進みます。
日本酒は、水沢からほど近い前沢の酒蔵、岩手銘醸の「岩手誉」をいただきました。華やかな特定名称酒ではなく、地元で愛される普通酒です。店の雰囲気やもつ焼きによく合います。
大将の話では、水沢がもっと賑やかだった頃は、お客さんが絶えず、明け方まで営業していたそうです。しかし、今は街も静かになり、近隣の店も減ってしまったとのこと。それでも、取材中にも常連客が次々と訪れ、軽く一杯飲んでから次の酒場へと繰り出していきました。
このような酒場があるかないかで、街の印象は大きく変わるのではないでしょうか。水沢を訪れる際は、ぜひ立ち寄ってみてください。値段は不明ですが、千円台で十分楽しめます。
店名 | みちのく道場 |
住所 | 岩手県奥州市水沢東町17-2 |
営業時間 | 17:00~ |
創業 | 1961年 |