四方を山々に囲まれた松本は、日本では珍しい山岳都市です。東に美ヶ原高原、そして西には3000m峰の北アルプス、その玄関口として栄えてきました。登山家にとって松本は山の入り口ですが、お酒好きにとっても山の存在は大きいです。雄大な山々に抱かれた自然の中にある湧水は、米作り、そして銘酒づくりになくてはならないもの。大雪渓や笹の誉、大信州にアルプス正宗、深志鶴などぱっと浮かぶ銘柄が多数。
そんな地酒と地のものが楽しめる大衆居酒屋は、松本駅周辺に多数。今回は個人経営の大箱老舗のお店「しんざん」を覗いてみましょう。
地元の木材を多用した内装で、大きな厨房を見渡せる”すなかぶり”なカウンター席が特等席。
地元で生まれ育ったベテラン店主の小笠原さんはじめ、板前さんや給仕さんが忙しくされています。
まずはビール…と思ったのですが、「大雪渓の濁りはどう?」とおすすめされて、もちろんそちらを。お通しは野沢菜としめじの和え物。郷土色あるお酒とおつまみが並び、しみじみいい気分。では乾杯。
樽生ビールはアサヒスーパードライ(大きな中ジョッキ750円)。エクストラコールドもあります。瓶ビールでは大瓶のスーパードライ(750円)と、中瓶でキリン一番搾り(600円)。
通常の日本酒のほか、にごり酒・どぶろくが揃えられていて、この日は大雪渓、夜明け前、仙醸の3種類。
日本酒は真澄純米、山清名水仕込み、高波本醸造、大雪渓吟燗、岩波辛口などが小徳利440円、夜明け前は季節銘柄が様々揃い560円~。
さて、ここは料理の種類がとにかく豊富で目移りしちゃいます。二軒目で軽く…のつもりが、みんな食べてみたくなる見えてきます。郷土料理の馬刺し、岩魚や信州サーモンなど。
岩魚の刺身(780円)は珍しい。鹿肉料理に挑戦してみたいけれど、それはまた今度に。
松本・塩尻・安曇野の大衆飲み屋の定番となった山賊焼き(ハーフ500円)。ニンニク生姜と醤油に漬け置きしてから揚げるのがレシピですが、説明を見るとちょっと個性を加えているみたい。
さらに差し込みメニューがまた素敵。年間を通じてニシン刺身を出している珍しいお店として、お昼ごろ知り合った地元のノンベエさんも「しんざんに行ってみたら?」と話されていました。
さぁ、まずは馬刺しでしょう。つける醤油は馬刺し用で置いている、富士甚醤油のおさしみ醤油・霧島。大分・臼杵の醤油メーカーですが、昔からずっとこれを使っているのだそう。
もちもち食感、きれいな赤身肉です。生姜とニンニクをたっぷり載せて…
甘くねっとりした醤油を軽くつけ、一口。爽やかな馬肉特有の余韻と醤油・にんにくの個性が絶妙です。
常連さんが美味しそうに頬張っていた肉じゃが(600円)の香りに負けて、私も同じものを。松本の酒場の肉じゃがって牛肉を使っていることが多いですが、こちらもそう。東京を含む東日本は豚肉、西日本は牛肉を使うと言われていますが、松本は境界線上のようで。
あわせるお酒は、吟燗大雪渓。お燗で楽しむ純米吟醸としてつくられた旨味広がり余韻はすっきりしたお酒。温度で味の広がりに変化があるので、ゆっくり飲んで燗冷ましを楽しむのもいいですね。
松本は中心街に飲み屋街、お城や駅が徒歩圏でまとまっている小さく濃厚な街。酔い覚ましにふらふらホテルまで歩いて帰りましょうか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
居酒屋 しんざん
0263-36-3670
長野県松本市中央1-2-11
17:00~22:00(日定休)
予算2,700円