私がはじめて長野を訪れた頃は、まだ新幹線もなく東京からは峠越えの先にある遠い国でした。それがいまや、東京駅から90分の距離。だいぶ近づいたものです。長野駅もオリンピックや新幹線の北陸延伸などの節目で改築を続け、昔の面影はもはやどこにもありません。
駅の中心部側の出口名はその名も善光寺口。仏都長野の玄関口として長野の門を表現した大ひさしと列柱が個性的で立派な構えです。そんな長野駅前、実は飲み屋街もなかなか立派なもの。よくある地方都市のように駅と繁華街は離れていなくて、新幹線に乗る寸前まで飲み歩きが楽しめます。
駅から傘をさすことなく立ち寄れる「ちとせ」は、長野のちょい飲み・せんべろの代表格。なんと24時間365日営業です。駅前とはいえ、高原の街・長野の冬は寒いですし、人の出もさほどではないはず。それでも休みなく続けているというのは奇跡のよう。
飲食店ビルの2階にあり、知る人ぞ知るという雰囲気。店内は時が止まったままのようで、いつの時間に入ってもそこは深夜の一杯飲み屋のようなムードで満ちています。立ち呑みですが簡単なハイチェアが用意されていますので、立ち呑み的な気軽さをもったお店といいましょうか。もちろんたって飲むのも自由です。
お客様感謝デーでは黒ラベルが一杯100円だったりと、いつでも利用できてなおかつリーズナブルなのも魅力です。店内には長年サッポロビールの営業マンが通っている証の御札がいっぱい。
立ち呑みちとせ。深夜に駅前でやっている軽い飲みはほとんどないそうで、近隣の飲食店のスタッフが仕事帰りや朝酒の集い場として24時間いつでもニーズあり。
ビールはサッポロ黒ラベル中ジョッキで450円、よりリーズナブルに飲みたいときは新ジャンルの麦とホップが選べます。
チューハイは350円から、バリキングやラムハイなどサッポロビールの推しカクテルが揃います。
乾杯は毎度おなじみ、サッポロビールの一番星「サッポロ黒ラベル」。中びんで500円。
戸隠木綿豆腐をもらってゆったり飲み始め。夕方4時くらいに伺いましたが、さっきまで晴れていたのが嘘のよう。真っ黒な雲と大粒の雨。遠くの雷の音が山々に反射し街に響きます。変わりやすい天気は日本一標高が高い県庁所在地「長野」ならでは。
常連のお客さんと「なーに、すぐ止むさ」なんて話を聞きながら、ぼーっと良い時間。
いつの時間もやっている飲み屋だけあって、蕎麦から定食、一品ものまでバリエーション豊か。ゆで卵70円と酎ハイ数杯飲んでせんべろするもよし、早朝の新幹線を前にかけそばと日本酒で活力チャージもよし。
長野らしいおつまみもあり、今日の黒板メニューから「えご」を注文。えご草と呼ばれる日本海側の海藻を使った郷土料理で、とくに夏の食べ物。海産物が不足する信州にて貴重な海の食べ物として重宝されていたと聞きます。酢味噌や醤油をつけてお酒のお供に。
東京でもアンテナショップで手にはいりますが、こうして観光客向けでもないお店で普通に食べるほうがお酒が進むというものです。
信州・信濃の地酒がたっぷり。隣県・新潟のお酒も多く、何を飲もうか悩んでしまいます。280円からとお手軽なので、時間の限り飲み試したい。
水のキレイな長野のお酒は、米どころ新潟とはまた違った魅力あるお酒が多い。今井酒造店(長野市)の若緑は千曲川の清水をつかって作られる土地の酒。東京に入ってくることは少ないですが、だからこそ郷土料理と合わせて、旅情を飲み屋で感じられます。
せんべろで朝酒、昼酒いつでも飲める。創業十数年のちとせは、いまこの時間も街のノンベエがカウンターで飲んでいるに違いありません。優しいお母さんのような接客のお姉さんたちとのちょっとした会話、地元の常連さんたちとの酒場トーク、ひとつひとつが楽しいお店です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
立ち呑 ちとせ
026-225-0307
長野県長野市南千歳町1-22-10 イチカワビル2F
24時間年中無休
予算1,200円