1999年、立ち飲み営業をはじめた平澤かまぼこは、いまや王子の朝酒・昼酒、そしてせんべろを語る上で外すことの出来ない一軒です。もともとは1962年創業のかまぼこ店で、おでん屋になったいまも自家製のかまぼこを肴として提供しています。
女将の平澤京子さんが守る店として、女将に会いたくてやってくるご近所のご隠居さんたちも多い。女将さんはご高齢なので早い時間に店をあとにしてしまうので、平澤かまぼこのほっこりした時間を楽しみたい方は昼頃がおすすめです。
朝10時オープン、JR王子駅から徒歩30秒ほどと駅近ながら、線路脇の昔ながらの路地にあり、なかなかの昭和ムードです。店先のおでん鍋でテイクアウトの購入も可能で、ご近所にお住まいの方がおかず用に買っていかれることも多く、街の風景のひとつになっています。
店内は奥に伸びるカウンターで10人ほどが入れる立ち飲みです。カウンター奥の厨房では、自家製の鶏皮や牛すじ、チャーシューに角煮などが鍋でコトコトとしながら出番をまっています。ドラマのワンシーンのような、昭和の一杯飲み屋という雰囲気で、飲みに来ている常連さんたちも渋い方ばかり。
おでは少々値上げがあったもののこんぶ50円をはじめ100円から250円と大衆価格です。お通しはサービスでだしてくれるのでチャージはありません。女将さんがご機嫌のときは、ちょっと突き出しのお漬物をおまけしてくれたり、そんな人と人の付き合いを感じられるのも魅力です。
ビールは瓶でサッポロのヱビス赤星と黒ラベルそしてヱビス、アサヒスーパードライ、生ではキリン一番搾りが入っています。コンパクトなお店ながら、早い時間から満員になっていることもある人気店で、夏場のビールが飲みたくなる気候のときは、昼間から瓶ビールがカウンターに高層ビル群のように並ぶ光景がみられ、なかなか壮観です。
400円と小銭で飲みたいときに嬉しい価格の一番搾りで、まずは乾杯。
東京のおでんはやっぱり練り物は欠かせません。はんぺんとちくわぶ、そしてあっさりおだしが美味しい平澤ではがんもは必須。おぎのやの峠の釜めしの釜を再利用したからし入れから、ねりがらしをぺっとおでん皿に垂らして準備完了。
これあげる、おいしいよと女将さん。かぶのお漬物をおまけでいただき、あとはぼーっと飲んで摘んでを繰り返すだけ。行き交う京浜東北線のつなぎ目の音をBGMに、常連さんと女将さんの井戸端会議をながら見ならぬ、ながら聞き。
お客さんや店員さんの下町らしいゆるやかな交流から醸し出される家庭的な雰囲気は、おでん以上に温かい気分にしてくれます。
日本酒は赤羽の地酒、23区唯一の酒蔵で100年以上の歴史を持つ小山酒造の丸眞正宗が定番酒です。酒燗器にはいっていて、注文すればするするとグラスに流し込んで提供されます。昔ながらの味で、精米歩合70%の普通酒ですが、こういう場所で飲むには、やっぱりアル添で整えた普通酒が一番しっくり来るように思います。
いまでも造り続けている蒲鉾は甘い。なかなか自家製のかまぼこを、小田原にあるような専門店ではなく、普通の街場の飲み屋で食べる機会って滅多にありません。手作り感あふれるふわっとした食感で、これが優しい味なんです。特製の源氏巻という平澤オリジナルかまぼこは、シャウエッセンとチーズをかまぼこで覆ったもの。独特な食感と風味で、変わり種系のかまぼこ好きの私はこれが大好物。
早い時間から飲める、千円札一枚で飲める、昼も夜も通しでやっている。
いいことずくめじゃないですか。駅からも近いので、いつも赤羽ばかり行ってないで、たまには途中下車しなさいよという声がどこからか聞こえてきて、ふらりと立ち寄っちゃう、そんなお店です。
一見さんの若い人も大歓迎と話す女将ですので、なかなかディープな空間ですが、ひょいと覗いてみてはいかがでしょう。酒場慣れしている方ならば、きっとハイサワーで喉を潤した後に、丸眞正宗おでん出汁割りなんかで自分流を楽しめるかも?
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
平澤かまぼこ 王子駅前店
03-5924-3773
東京都北区岸町1-1-10
10:00~22:00(祝定休・だいたいやっている)
予算1,200円