これぞ東京の味。甘く濃厚な黒いタレに浸した天ぷらを軽く蒸したようにして提供する。『いせや』の天ぷらは、知名度に負けない美味しさです。”ごはんもの”ではありますが、『千束いせや』の丼(重)は紛れもなく酒の肴でしょう。
目次
土手の伊勢屋の兄弟店は、変わらない味
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東京の食を語る上で外せないのが天ぷらです。駿河台の老舗ホテルに入る天ぷら屋がいい、いや、浅草のどこどこがいいなど、鰻や鮨の名店と並び、食いしん坊たちの議論の場にあがります。その中で、決まって名前が出てくるのが「土手の伊勢屋」です。創業は1889年と、現存する都内の天ぷら店の中で、大変古い暖簾です。
土手の伊勢屋は半世紀ほど前に3代目兄弟が独立しており、長男が土手の伊勢屋を引き継ぎ、次男が千束の「いせや」、三男が蔵前の「いせや」を始めました。
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今回は『千束いせや』をご紹介します。カウンターに小上がりという典型的なつくりで、1,000円台から天丼が食べられる良心価格の店です。知名度はあるものの平日は行列するほどではなく、近所の人が”旨い天丼を食べようじゃないか”とやってくるような店です。観光客は少なめ。
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暖簾をくぐると、ベテランの女将をはじめとしたご家族やお手伝いさんがやわらかく、それでいてしっかりとした江戸っ子気質で迎えてくれます。
入った真正面がL字のカウンター。一人飲みならばここに通されるわけですが、調理風景がみられる特等席です。左には小上がりとテーブル席。有名店ではありますが、意外なほどコンパクトです。のんびりお酒を飲んで許されるムード、飲兵衛にはたまりません。
品書き
お酒
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- 瓶ビール中瓶 アサヒスーパードライ・サッポロラガー:660円
- 瓶ビール中瓶 ヱビスビール:748円
- 瓶ビール小瓶 サッポロ黒ラベル:528円
- 日本酒:528円
- 冷酒 大関:528円
料理
- 焼鳥2本:528円
- えび酢:660円
- お新香:385円
- 海老天:440円
- 天ぷら定食:1,650円
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- えび穴子天丼:1,870円
- 天丼・かき揚げ天重:1,430円~
- 親子重:1,078円
- 天ぷら盛り合わせ:2,090円
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- しらうお天丼:1,430円
- しらうお天ぷら:935円
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- はぜ天丼:1,600円
- はぜ天ぷら:990円~
酒好きは、あえてかき揚げを選ぶのもよい
サッポロラガー(660円)
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まずはビールから。浅草に縁があるアサヒとサッポロを置いています。今回は店の雰囲気にあわせて伝統ある銘柄・サッポロラガービールをチョイス。付け合せのつけものを肴にいただきます。それでは乾杯!
かき揚げ天重(1,760円)
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天ぷら屋と天丼・天重の店は、同じ天ぷらでも揚げ方が違うし、それがよいと私は思っています。『いせや』各店の天ぷらは、炊きたてご飯の上で、お重や丼の蓋に挟まれ軽く蒸されてから提供されることが多く、衣がちょうどよい具合にクタクタです。
甘くて濃厚。まるで鰻のタレのように。そんなつゆを吸った江戸の天ぷらは黒い。これが白米は当然のこととして、お酒も進ませます。
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江戸前の天ぷらの定番である小エビ(芝海老など)と小柱(青柳などの貝柱)を使ったかき揚げが私は好きです。ブラックタイガーのような派手なエビももちろん好物ですが、少しずつごはんと一緒につまみ、これを肴にお酒を飲むならば、私は海鮮かき揚げがよいと思います。
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お燗酒(528円)
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こうなれば、当然ビールで済ませられなくなります。お燗酒を1本。天重の温度に合わせて、上燗くらいにつけてもらい、これをちびりといただきます。
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お椀とお猪口。天丼・天重がしっかり主張ある味なので、この組み合わせが落ち着きます。またすぐに天重に箸が伸び、ゆっくり飲もうと思っいたのに今回もあっという間に完食してしまいました。
えび穴子天丼(1,870円)
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しみじみ美味しいかき揚げのお重もよいけれど、せっかくならばインパクトある料理が食べたい。そんな方には、江戸前穴子がはみ出すように盛られた豪快なえび穴子天丼がおすすめ。穴子の骨の天ぷらがピンと飛び出しています。
ごちそうさま
黒くて甘くて旨味が強い、パワフルな天丼・天重。天ぷらに求める仕上がりは人それぞれだと思いますが、私はこの濃い味を肴に飲む日本酒やビールが大好きです。
蔵前いせや
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 千束いせや |
住所 | 東京都台東区千束2-23-5 第3コンパスビル 1F |
営業時間 | 営業時間 11:30~14:30 17:00~20:00 日曜営業 定休日 水曜日 |
創業 | 1889年(千束は半世紀前から) |