キリンビール好きなら絶対行きたいビアガーデンが大牟田にあります。創業は1947年と70年以上の歴史がある『ビヤガーデン博多屋』です。ノスタルジーあふれる唯一無二の雰囲気の中で、豪快に樽生キリンラガーを頂きましょう!
目次
三井の企業城下町にあるキリンのビアガーデンというナゾ
博多駅からJR鹿児島本線で80分ほど。福岡南端の街・大牟田にやってきました。目指すビアガーデンは店名こそ『博多屋』ですが、福岡市の博多駅からは直線距離で60kmも離れています。
さて、『博多屋』を紹介する前に、街の概要から順に話を進めましょう。
山間部の鉱山で石炭や鉄鉱石を産出し、臨海部の製鉄所で鉄に加工することで、近代日本の成長を支えた九州北部。九州各地に炭鉱がつくられましたが、その代表的な存在が、1721年より採炭が開始された、日本初の炭鉱・大牟田の「三池炭鉱」です。
三池炭鉱を運営する三井グループは、炭鉱だけでなく工場群をつぎつぎと建設。これにより、大牟田は福岡南部有数の炭鉱・工業都市として繁栄を極め、市内には路面電車が走り、国鉄だけでなく天神から久留米を結ぶ西鉄も大牟田まで路線を延ばしました。
三井の企業城下町として発展を遂げた大牟田ですが、エネルギー革命などもあり1997年に炭鉱を閉鎖。閉山後は2015年には世界遺産に登録されました。
炭鉱町特有の栄枯盛衰が色濃く感じられる大牟田には、そうした街特有の賑やかだった時代の残り香を漂わす奇跡の酒場が存在します。それが、今回目指す『博多屋ビアホール』です。
大牟田駅の繁華街は、大牟田駅周辺ではありません。線路沿いを北へ7分ほど歩いた場所にある大牟田銀座・旭町・大正町が商業の中心です。大牟田川を渡ると西鉄の新栄町駅もすぐ。
かつては20万人が暮らす賑やかな大牟田市でしたが、現在は約11万人と半減しています。そのため大牟田銀座はやや寂しさを感じることもありますが、夜になると飲食店の明かりが灯り、飲み客でにぎわいを見せます。
外観
大牟田の夏の風物詩といえば、大蛇山祭と『博多屋』のビアガーデンと言われるくらい、『博多屋』は街に根付いています。
それもそのはず、店の歴史は70年以上にもなります。「家族3世代で通ってくれる常連さんも多い」と語るのは博多屋の三代目、福田るいさん。
創業は終戦後すぐの1947年頃。街は国土復興のため、石炭産出量向上に沿うように人口増加を続けてきた頃。炭鉱労働は賃金の高い仕事ですから、重労働のあとはさぞたくさんのビールを飲んだことでしょう。
内観
目的はお庭のビアガーデンですが、ホールの建物も見応えがあります。重厚なつくりで床も石造り。天井は高く、昭和の曇りガラスをつかったレトロな窓すら、懐かしくてたまりません。
店の角に置かれたドラゴンか、はたまた聖獣麒麟のような頭は、大牟田の伝統行事『大蛇山』まつり(毎年7月下旬開催)の山車につく「大蛇」。店の雰囲気も相まってかなりの迫力です。
もうひとつの気になる点は、随所に飾れた麒麟麦酒の関連アイテム。ポスターからジョッキ、ノベルティまでかなりの点数が飾られており、まるで麒麟麦酒の小さなミュージアムです。
さて、三井の企業城下町で、70年以上前からキリンビールのビアガーデンがあることに違和感はありませんか。店ができた頃は今よりもずっと財閥系の結束が強かった時代です。三井系のビール会社はサッポロビールですが、『博多屋』のビールは、キリンビールなのです。キリンといえば三井のライバルである三菱系ですね。
なぜキリンだったのかという質問に「初代がビアガーデンを始めたいから、生ビールを売って欲しいとサッポロビールにお願いしました。当時は今のように樽生が一般的ではなく、サッポロビールには断られてしまいました。そこで、キリンビールに相談したところ理解してもらえて、以来70年以上、キリンの樽生ビール一筋です」と福田さん。
それでは、庭へでてみましょう。
メインになる庭は異国情緒あり?
ちょっとした神社の境内のような広場がビアガーデンとして使われています。母屋から飛び出した売店風の建物がビール提供場所。
中国庭園風の東屋があったり、塘路があったりと不思議な空間。そこに集い、ビールを飲みながら楽しそうに笑う大牟田の皆さん。
東屋の主は一匹の猫。飲み客をあくびしながら見守っています。
ここに来ないと感じられない大牟田の魅力があります。
椅子やテーブルも不揃いで、「お好きな場所でどうぞ」というスタンス。仕事柄いろいろなビアホールを巡ってきましたが、これほど自由な空間は滅多にありません。
品書き
お酒
- キリン生ビール(キリンラガービール):小500円・中700円・大1,100円
- 一番搾り<黒生>:小500円・中700円・大1,100円
- ハーフ&ハーフ:小500円・中700円・大1,100円
- チューハイ:750円
- 焼酎(麦・芋・米・ソバ):500円
- 冷酒(生):1,100円
- 酒(熱燗・冷や):550円
- 泡盛:600円
おつまみ
- オールインワン:750円
- 地鶏の炭火焼き:1,300円
- ミックスピザ・バジルピザ:800円
- クアトロピザ:1,100円
- 焼肉:800円
- 夏海ソーメン:750円
- かしら唐揚げ:700円
- ホルモン揚げ:550円
- ツクネのあんかけ:550円
裏メニュー(土日限定)
- ピクルス:300円
- ビーフシチュー:600円
- 山本さんのカレールー:600円
- 泡盛コーヒー:750円
ビールが美味しい!ムードに酔う
注文はすべて店員さんに行いますので、ビールを取りに行く必要はありません。甘木にあるキリンビール福岡工場で醸造された新鮮なキリンラガーが20Lの大樽で運び込まれ、これを次々に空にしていく小さなビール小屋。私の分をお願いします!
ちなみに、看板に書かれている「キリン生ビール」はれっきとした商品名です。一番搾り発売以前にキリンビールが製造していた生ビールで、青ラベルとも呼ばれていました。一番搾り登場後、キリン生ビールは終売。同時期にキリンラガーの製法が生(非熱処理)に変更され、実質キリンラガービールがキリン生ビールの後継となったため、現在、『博多屋』はキリンラガービールをキリン生ビールとして提供しています。
キリン生ビール大ジョッキ:1,100円
ドーンと1Lジョッキで提供されたキリン生ビール(液種はキリンラガー)。
どっしりと重たいジョッキを持ち上げて、乾杯!
やっぱりこの”ずんぐり”としたキリン青ジョッキはテンション上がります。
ガスがほどよく落ち着いていて、なおかつキンキンに冷えている。キリンラガー特有の苦味が心地よいアクセント。蒸し暑い九州の夜も、この一杯で乗り切れる!一杯と言わず、二杯目も飲みたい!
オールインワン(750円)
福岡市内と比べればだいぶ涼しいのでしょう。デパートの屋上ビアガーデンのような風は感じられませんが、砂を敷いた地面の冷たさが脚に心地よく伝わってきます。
塩豆やサラミなど、昭和のビアガーデンで楽しまれるようなおつまみをつまみながら、情緒に浸りながら楽しい時間です。
一番搾り<黒生>とキリンラガーのハーフ&ハーフジョッキ(700円)
ハーフ&ハーフが黄昏時のテーブルを赤く染めています。
お客さんは入れ替わることなく、皆さんゆったりと仲間同士語らいつつ時間をかけて飲んでいます。こちらもそんなペースに合わせて、のんびりと甘いビールを楽しみました。
ごちそうさま
まるで昭和のキリン直営ビアガーデンにタイムスリップして迷い込んだような不思議な空間の『ビヤガーデン博多屋』。キリン好きの方はもちんろ、レトロな居酒屋がお好きな方は、足を運ぶ価値は十分にあると思います。
気になる営業期間ですが、5月から8月までの3ヶ月しかありません。期間が短いのは、店主の福田るいさんの本業は、ビヤガーデン経営だけでなく、小代焼瑞穂窯の二代目になるプロの陶芸家でもあるからです。陶芸に興味がある方は、福田さんとのお話も楽しめると思います。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | ビヤガーデン 博多屋 |
住所 | 福岡県大牟田市橋口町3-9 |
営業時間 | 2023年の開催期間 5月19日(金)〜8月27日(日) 営業時間 17:00~21:00(日祝は20:00まで) 日曜営業 定休日 シーズン中原則無休 |
開業時期 | 1947年 |