昭和29年に創業した『雨風』は、都城を代表する居酒屋のひとつ。看板料理は黒い汁の塩おでんと、黒豚なんこつの味噌煮です。夏季はおでんがお休みになりますが、3代目がつくる地鶏の唐揚げなど居酒屋メニューも絶品!
目次
霧島の麓におでんの名店がある
ご存知ですか。南九州・霧島山の麓に、おでんが根付いていることを。おでんといえば、東京や関西、静岡が有名ですが、宮崎、鹿児島には「南国おでん」という食文化があります。
いつか南国おでんを食べたいと思いつつ、鹿児島空港発着の航空機で空から眺めるだけだった都城市へ、ついにやってきました。JR日豊本線に乗って、宮崎駅から約1時間で都城駅に到着です。
都城駅前には「肉と焼酎のふるさと 都城市」という看板が建っていますが、都城は宮崎牛の名産地であり、市内4つの蔵元(霧島酒造、柳田酒造、大浦酒造、都城酒造)あわせた焼酎生産量は宮崎県内最大を誇ります。
市内のどこからでも霧島山をみることができます。
都城の繁華街はJR都城駅から南へ2kmほどの場所。市役所や国の都城合同庁舎がある街の中心で、以前は百貨店もあったそうです。日中はやや寂しいですが、夜は多数の居酒屋に明かりが灯り、焼酎の街らしい賑わいが感じられます。
そんな都城の中心街で70年近く続いてきた居酒屋が『雨風』です。合同庁舎のすぐ裏にあります。
外観
創業は昭和29年。店の歴史を感じさせるいぶし銀の店構えです。店名は、創業時に知り合いの方にいくつか候補をだしてもらった中で響きの良さから「雨風」を選んだそうです。
内観
暖簾越しの優しい風が吹き込む店内。一年を通じて暖かい南国気候に似合う白い暖簾がさわやかです。
地方都市で古くから続く店特有の大きくゆとりのある造りです。奥へと伸びるL字カウンター。その中央付近にはおでん鍋が埋め込まれています。3代目大将と女将さんが優しく迎えてくれました。
品書き
お酒
- ビール アサヒスーパードライ中瓶
- 焼酎 各種
- 日本酒 高清水
- スコッチ バランタイン
- 生レモンサワー
おでん
- おかべ(豆腐)
- 大豆おやし(豆もやし)
- どんこしいたけ
- 宮崎牛すじ
- 大根
- 新じゃが芋
- 鶏モモと葱の生つくね
- 紅生姜餅のキンチャク
- 黒豚なんこつ味噌煮
料理
- おでん出汁をつかった骨付き鶏モモ塩からあげ
- おでん出汁をつかった辛子明太子チーズ出汁巻卵焼き
- にがごりと茄子練り味噌炒め
- 自家製カツオのツナとマヨネーズ使ったホワイトアスパラガスとパワーサラダ
- 釜揚しにすと青唐辛子フリッタータ
- 和牛と茄子ミートソースペンネグラタン
鍋前の特等席で楽しむ、継ぎ足し続けてきた味
アサヒスーパードライ
焼酎の街だけあって”焼酎推し”なことは間違いないのですが、それでも一杯目はやはりビールからはじめたい!アサヒスーパードライをトクトクとビアタンへ注ぎ、それでは乾杯。
継ぎ足し続けてきた真っ黒なおでん
カウンターに埋め込まれたおでん鍋からは上品な出汁の香りが漂っています。枕崎のカツオと昆布で出汁をとり、塩で味を整えたもの。関東のおでんのように黒く染まっていますが、醤油は使用していません。約70年、3代かけて守り続けてきた伝統の味です。
最盛期は25品以上入るそう。鍋にはいくつか仕切りがありますが、それぞれで濃度が違うのだと大将。大根は4日以上つけているなど、それぞれにこだわりがあります。
紅生姜餅の巾着と、おかべ。おかべは豆腐のことです。色は濃いのに飲めるほどの淡い味で、巾着を頬張れば口いっぱいに出汁が広がります。よく染みた「おかべ」もたまりません。早めに焼酎をいただきましょう。
都城の焼酎を飲み比べ
青鹿毛(あおかげ)は、『雨風』から1kmも離れていない柳田酒造がつくる麦焼酎です。季節限定の珍しい銘柄が飲めるのも、その土地々々の酒場を訪ねる楽しみの一つです。もう片方は、大手の霧島酒造の「霧島」ですが、こちらは宮崎県内限定の品。白麹仕込みの本格芋焼酎。
九州の焼酎といえば、提供時は徳利ですね!
宮崎牛のスジ肉と鶏モモと葱の生つくね、そして「おやし」
具材に加わる豆もやしは、南九州のおでんの特長のひとつ。出汁をたぷたぷに吸っているので、実にいい味です。
宮崎牛のスジはトロトロで口の中で溶けるようですし、鶏つくねも呑兵衛心をくすぐる焼酎と相性ぴったりの逸品。
3代目大将は、東京で奥様と出会って結婚し、2005年より故郷・都城の家業を継いだ方。長年続いてきた『雨風』の味をご夫婦で守っています。お二人がつくる料理は確かな美味しさです。
麦焼酎 駒
柳田酒造の「駒」。九州産二条大麦と麦麹でつくるフルーティーさが特長の焼酎。焼酎の奥深さを大将と話しながら過ごすカウンターでのひととき。とてもいい時間です。
黒豚なんこつ味噌煮
カウンターに埋め込まれたもうひとつの鍋。こちらもゆらゆらと美味しい香りの湯気を漂わせています。中身はおでんと並ぶ名物である黒豚なんこつ味噌煮。
鹿児島や宮崎ではおでんの具材として豚の軟骨を入れることが多いですが、『雨風』では特製味噌ダレをつかった別の煮物として用意されています。こちらもおでん同様に長年継ぎ足しているそうで、驚くほどコク深い味わい。
にがごりと茄子練り味噌炒め
現在、おでんは秋から春にかけての季節メニューとなっており、夏は居酒屋料理を主体とした品書きになっています。おでんのない『雨風』だって行きたい。そう思わせる腕のいい一品料理が揃っていました。
おでん出汁をつかった骨付き鶏モモ塩からあげ
おでん出汁やなんこつ煮の味噌は各種料理の下味などに使われています。柔らかくジューシーで、まるでおでんを揚げたような印象の鶏からあげは、満腹でもぺろりと食べられる美味しさでした。
魚介のフリットミスト木の芽ソースやカルボナーラなど、洋風の料理が増えたのは3代目大将になってからだそう。おでんに限らず、地元の幅広い層のお客さんに楽しんで欲しいという想いが込められています。
ごちそうさま
都城滞在時は、一軒目としてオススメしたい名居酒屋です。お酒や飲食店事情にも詳しい大将に、焼酎の街・都城の話を聞けば二軒目も候補も決まるかもしれません。
JR都城駅から路線バス(宮崎交通)でのアクセスが便利。家族経営の小さなお店なので、一人、二人などでも事前に電話で予約しておくと安心です。
南九州のおでんの記事
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 雨風 |
住所 | 宮崎県都城市上町5-14 |
営業時間 | 営業時間 [月~土] 18:00〜23:00 定休日 日曜・祝日 |
開業時期 | 1954年 |