日南・油津「くろちゃん」 飫肥杉とマグロで栄えた港街の飲み屋街、油津は元気です

日南・油津「くろちゃん」 飫肥杉とマグロで栄えた港街の飲み屋街、油津は元気です

2016年12月16日

宮崎県は日南市、油津の飲み屋街にやってきました。宮崎県の県庁所在地からJR日南線の観光特急「海幸山幸」号で80分の街です。

天然の地形を活かした良港として、油津ははるか以前から漁港・海運の拠点として人々の暮らしがありました。

戦国時代には中国との貿易拠点として、江戸時代は飫肥藩伊東家によって山林資源の飫肥杉を出荷する港として、油津の街の中に運河がつくられるほど栄えた港町だそうです。昭和のはじめにはマグロの水揚げ日本一となり、以来、漁業の街として今に続いています。

まぐろの水揚げは他の街に抜かれてしまうも、今でもカツオの遠洋漁業を行う船が多数在籍している活きた漁港です。また、木材の街として現在は王子製紙の企業城下町としての側面もあります。

そんな日南・油津の飲み屋街は、現代では珍しいほど賑わっているのです。海の男は陸に上がったら浴びるほど焼酎を飲む。この街のノンベエは南九州らしいパワフルな人が多い。なんせ、人口5万人の都市なのに13もの焼酎蔵があり、県内消費の比率が高いというのだから驚かされます。

東京のノンベエも負けてらんない!ということで飛び込んだのでありました。

くろちゃんは、地元で人気の大衆酒場。とにかくディープでコア、しびれるほど激渋の店です。地元の人以外はまず来ないのだろうと思いながら、恐る恐る暖簾をくぐってみると。

想像通りのどっしりと構えたカウンター。古ぼけた座布団がいい味出している小上がり。そして100本近くキープされている日南焼酎のボトルが棚いっぱいに並んでいます。

意外なほど笑顔で迎えてくれた大将と女将さんにほっとして、まずはビールを注文。こういうとき、もじもじすると怪しまれるから、「まずビールから」と(笑)

お通しのキャベツをもらって、ほっと一息。では乾杯。

お姉さん東京から?最初の一言がこれ。遠くからよく来たねと、心の底からもてなしてくれる会話が続いて、最近の飲み屋で忘れかけていた人情味が心にしみていきます。あぁ、こういう大将との会話こそ、一番の肴なんだよね。

メニューは10種類ほど。焼豚、焼鳥、炒め物などが僅かに書かれているだけ。軽く選んで注文するも、「鳥のたたきを食べなさい」(方言全開で)と、強制的に変更されてしまいました。イチオシ食べていってねとのことだそうです。ちなみにメニューには存在しない。

手際よく鳥のモモを炙って、軽くレアの状態で細かくしてヒョイと登場。鮮度抜群、ぷりっぷりの鳥たたきは、ポン酢もいいけど南九州特有の甘い醤油で食べるのが一番だそうです。気をつかって生姜を添えてくれましたが、地元の人はたっぷりのおろし大蒜で食べるといいます。じゃあ、私もそうしちゃおうかな。

宮崎が豚・鶏が食文化として根付いていることを、東京発の飲食チェーンが広めていますが、地元もまさしくその通り。優秀な港町であり、山の幸も豊富。ここにいたら、舌とお腹周りがこえてしかたがない(笑)

地元のお父さんたちも、焼酎片手にみんな焼鳥をはふはふと頬張っています。

ビールから焼酎へ。ここ日南市も「乾杯条例」が定められていて、焼酎で乾杯と条例で決められています。とはいっても、一杯目はビールの人が多いかな。二杯目からは焼酎。いまの季節はお湯割りですね。

南九州では徳利に焼酎をいれて出すのが標準的。東京では見かけない霧島印のポットにお湯がたっぷり。お湯が先で、焼酎は後に注ぐのが風習です。

ふんわり香りたつ芋の風味をかいで、きゅっと飲む。はぁ、心からとろけていきそうです。

立派なナスがあるから食べていきなさい。とのことで、気づいたら大将が焼き始めていた茄子。そのサイズは二合徳利以上です。ほとんど水分だからお腹にたまらないし、これで翌朝二日酔い知らずさと、笑顔で話す大将。

強面なので、酒場慣れしている私もビクビク探りつつだったのですが、すっかり打ち解けていい気分。旅情、人情、美酒美食。なんてテレ東の旅番組的な展開でしょう(笑)

ちょうどいい魚が入っているから、これも食べていきなさいと、目の前でメジナを豪快にさばき出す大将。今朝獲れの宮崎のメジナといえば、東京では高級品扱いですが、こちらはごくごく当たり前の食材なのだそう。ささっと刺身で切り出してくれて、残りのアラは味噌汁にしてくれました。※もちろん、メニューには存在しない。

作り込まれた観光施設では絶対に味わえないこの感じ。まさに旅先の赤ちょうちんならではの魅力です。

出刃包丁でばんばん捌いていくので、刺身の切り口などを語ることは出来ませんが、もちもちとした食感、地元日南の甘醤油との絡みも秀逸。まさに土地の食材に土地の味付けです。

アラの味噌汁も、宮崎らしい米味噌でつくった甘い味のもの。これまたほっこりするいい味なんです。焼酎をもう一本もらって、カウンターの丸いすに根をはりだした気分。

配達の酒販店のお兄ちゃんに、寒いから味噌汁飲んでけとおすそ分けしたり、ふらりとやってきた酔っぱらいのオジサンと同窓会のようなノリで話し始めたり。東京の飲み屋と比べ、人と人の距離が近い。なんて素敵な空間なのでしょう。

よし、もう取材はやーめた。大将、一緒に飲もうよ。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/宮崎県日南市)

黒ちゃん
0987-23-6726
宮崎県日南市岩崎3-7-6
夕方~深夜(不定休・提灯や暖簾がでていなくても営業していることがあります。電気がついていたら勇気をもって扉を開けてみましょう。)
予算1,800円