溝の口『いろは』創業50余年。今も残るバラック街でモツ焼を浴びる

溝の口『いろは』創業50余年。今も残るバラック街でモツ焼を浴びる

2022年3月25日

戦後のヤミ市の名残は今もターミナル駅周辺でみることができます。細い路地にトタンを組み合わせたようなバラック建物で、焼鳥屋などが立ち並ぶ。煙を浴びてお酒を飲めば昭和にタイムスリップ。溝の口西口商店街もそういうスポットです。ここで、50年以上続く焼鳥の店『いろは』をご紹介します。

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溝の口西口商店街に残るバラックアーケード

新宿の思い出横丁をはじめ、ターミナル駅周辺に今も残る戦後混乱期にできた町並み。横丁ブームの昨今ですが、これに関係なく昔から賑わっている場所が多いです。JR南武線と東急田園都市線が交差する溝の口にも取り残されたよな一画かあり、「溝の口西口商店街」と呼ばれています。

溝の口駅は一般的には南東側のイメージがあります。東急らしい清潔感ある駅舎やファッションビルのマルイを、2009年に完成したペデストリアンデッキがつなぐ姿は洗練されたターミナル駅の姿そのもの。対して西側は、バラックアーケードの西口商店街をはじめ、いくつかの飲み屋が集まる小路がある昭和な町が残っています。

全国のヤミ市由来の場所が次々と再開発されて消えていく中、溝の口はまだまだ昔の姿と賑わいを維持しています。横丁の真横を通る南武線は、いつのまにか最新鋭の車両になりましたが、踏切警報機の音とともに大きなジョイント音を響かせ列車が行き交う姿は、昔とかわりません。

列車が真横を通ると振動が伝わってきます。瓶ビールの水面にわずかに波紋ができました。

冬は北風が吹き抜けて寒く、夏はトタン屋根と西日で暑い。いまの生活水準で言えばとても居心地がいいとは言えないのですが、私はこの雰囲気が大好きです。「今日は冷えますね」なんて言いながら、小さなテレビをお客さんみんなで共有しながらビール片手に焼鳥を頬張りたいのです。

『いろは』は商店街の北の端にあります。お隣は八百屋さんですが、八百屋と『いろは』の立ち飲みスペースに壁などはなく、トタン屋根の下に広い空間ができています。

ジャンパー姿のベテラン勢が17時前から集まり相撲中継やニュースをみながら飲んでいます。18時頃になるとスーツ姿の会社員や、仕事終わりの女性グループ、カップルなどがやってきて、店はだんだん縁日の屋台飲み屋のように。オシャレをした若い人の姿もあって、幅広い層に親しまれていることがわかります。

北側に数席の椅子がある店内カウンターがあり、あとはすべて立ち飲みコーナーです。基本的に立ち飲みを楽しむお店なので、座りたい方は別のお店も検討されることをおすすめします。

はじめての人も、店員さんに声をかければどこか適当な立ち飲みスペースを教えてくれます。勇気を出してこのコテコテな空間に飛び込んでみませんか。

私はこじんまりとした北端のテレビ前が好みです。目の前が焼台ですぐに注文を受けてくれるほか、春は風が気持ちいいです。

乾杯は大瓶「キリンラガー」で

生ビールだとピッチよく飲んでしまいますし、一杯目に酎ハイはなんだか違う気がして、大瓶をチョイス。それでは乾杯。

マイペースでビアタンを満たして飲んで…。テレビのニュースをみたり、お客さんたちの賑わいの中でぼーっとしてみたり。そしてまたビール。

品書き

お酒

大樽(生ビール)はキリン一番搾り:480円、キリン一番搾り〈黒生〉:480円。立ち飲みでは珍しくハーフ&ハーフ:480円も選べます。

瓶ビールは大瓶のキリンラガー:600円。

ここでは焼酎と割材が別売になっており、焼酎(甲類):250円は1~2杯とれる「燃える男の酒」と書かれた栄養ドリンクサイズの小瓶に入っています。これに、ホッピー(ホッピーまたは黒ホッピー):250円やホッピー レモンサワー 210ml瓶(リターナブル):250円などをお好みで合わせて楽しみます。日本酒はほまれ酒造(喜多方市)の会津ほまれで大徳利:650円、冷酒生酒(夏季限定):700円。

ホワイトボードメニュー

取材時の料理は、小鉢(しおからポテトスパサラダ五目煮コーンバターなど):250円。揚げ物(ちくわの磯辺揚げもろこし天ぷらイカ唐揚げ豚たま串カツまぐろカツささみチーズフライなど):350円。

大鍋の煮物は日替わりで、毎週金曜日は煮込みの日。ほかには湯どうふとん汁キムチ鍋おでんなどがレパートリーです。

ホワイトボードメニューは直接書かず紙を貼っていますが、このマスキングテープがいぶし銀の店の中なのにとってもキュート。

串焼きメニュー

串焼き(ねぎまかしらタンハツつくねなんこつレバーしろなど):100円。

焼鳥の串を持ちながら、雑多な空間に身を置く楽しみ

湯豆腐(350円)

こういう雰囲気ですからお通しなどはありません。だからこそ、焼き上がるまでのつなぎ役を注文しておきたいところ。日替わりの煮物系は串と並ぶ『いろは』の人気料理ですし、なにより温かいので注文しました。この日は湯豆腐。出汁がしっかり効いたスープタイプなので、汁一滴まで楽しめます。

串焼き(100円)

では、さっそく焼いてもらいましょう。焼台は2箇所あり、次々と入る注文にあわせて時間差で焼台が埋まっていきます。お会計や飲み物のおかわりなど接客しながら、串焼きを焦がさず管理できるのはさすがプロです。

ほとんど屋外のような場所ですが、串焼きはなかなかいい味です。”長く続いてきた店には理由あり”、ということでしょうね。味噌が添えられるのがこちらのスタイルです。

厚揚げ(200円)

気候がよいとときは、会津ほまれの冷酒をきゅっと飲みながら、パリっと焼けた厚揚げをつまむのはいかがでしょう。

電車の振動、駅への抜け道として行き交う地元の人々、何年も通う飲み慣れた常連さんたちの笑い声。ここは街の息吹を感じる酒場です。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名いろは
住所神奈川県川崎市高津区溝口2-4-3
営業時間16:00~23:00(日祝定休)
開業年1967年頃