約半世紀続く老舗の焼鳥店「鳥一」は、昭和のパリッとした焼鳥店の雰囲気をそのまま残す貴重な一軒。腕のいいご主人の鶏づくしの料理と、調理着姿の女性店員さんのピンとした接客が特長です。
昭和にタイムスリップ
創業は昭和48年。派手なネオンがギラギラと灯る船橋の歓楽街の中心にありながら、ここだけは時間が止まっています。
なかなか熟成された店構えに、今風の大衆酒場を主に利用している人は敷居の高さを感じるかもしれませんが、ここが酒場好きにとって良いお店だということは保証します。必要な予算は2000円ちょっと。しっかりとした料理で酔いを進められる店です。
昭和の酒場はいまより余裕があった
坪売上をエクセルで計算する時代、居心地よりも帳尻を合わせるための内装になりがちな昨今。そういう空間に疲れたら、レトロな酒場の暖簾をくぐるのが良いかもしれません。
今の時代だから嬉しい、ゆったりとした造り。その広い空間を吹き抜けるは船橋の海風。相撲中継などのテレビの音声と備長炭が弾ける音がBGMで、時折、黒電話がジリジリと鳴ります。
カウンターは一人飲みの特等席です。ベテラン大将の仕事やショーケースに追加されていく串を見ていると自然とビールが進むものです。
意外かもしれませんが、若いお客さんが多く、それも常連風の感じで店員さんたちと話しています。
よくある月見おろしに背景あり
ビールは樽生(550円)、瓶(600円)ともにキリンラガーです。いぶし銀の酒場にはラガーの大瓶がよく似合うということで、今回は大瓶を。それでは乾杯。
お通し(110円)はうずらの卵をおとした月見おろし。正統派の焼鳥店を感じさせるお通しですが、月見おろしを最初に始めたのは、ここの大将のお師匠さんだったとか。意外な場所で、本流に出会えた気分です。
品書き
10数年値段を変えず掲げられ続けた品書きはすっかり飴色にそまっています。そこにはおなじみの焼鳥の部位がずらっと。ここは豚モツを置かない鶏料理の専門店です。
ナンコツを串に巻きつけたたたき(180円)、ピーマンの肉詰め(230円)などがあるなか、気になるのは「どんどり」(230円)とペコロス(180円)。ペコロスは玉ねぎですが、どんどりとは。
鳥ぬた(550円)、鳥皮みそ和え(450円)、鳥サラダ(450円)など、冷菜も鶏料理が豊富。そしてココの名物が「鳥わさ」です。
味ヨシ、新鮮!
名物・鳥わさ(550円)
湯がいた鶏肉に、特製のわさびを溶かした醤油をかけた鳥わさ。ささみではなく、もも肉が使われています。
一口で食べると口いっぱいになるほど大きく切られているのが嬉しい。とにかく鮮度がいいことは、鶏肉のプロでなくともわかるくらい。さっぱりとした後味と程よい甘味が余韻として残ります。
どんどりとつくね
どんどりとは、大きくカットし開きにした「ぼんじり」のこと。ナンコツを含んだまま調理しているため大きく頬張ることはできませんが、骨の周囲についた身をしゃぶるように食べれば、きっと頷くはずです。
つくねは一般的なお団子型。もちろんお店の手作りです。同じくつくね風の「たたき」との違いですが、こちらは正肉で団子になっています。
手羽先(300円)
串のひとつひとつが大きい。この手羽も、もともと大きな鶏をつかっているのでしょう。
それぞれ焼台の位置と時間で火加減を調整し、できた順から出してくれる方式です。パリッとした表面と肉汁滴る中心部のコントラストが心地いい。
お店のタレはお店を船橋に広く前から受け継ぎ、継ぎ足し続けてきたものだそう。甘さ強めでコク深い味わい。
煮込みも鶏です
(写真はお試しサイズ)鳥皮やももなどがたっぷり入る煮込み。こちらも甘めで懐かしい味。
剣菱(400円)
居酒屋で剣菱をだすお店は特別なイメージがあります。ぱりっとした雰囲気の店にぴったり。ぬる燗でもらって、飲み方もお猪口ではなくビアタンでぐいっと。
ベテランの大将を中心にスタッフのお姉様方もテキパキ動かれていて、過ごしていてとても気持ちがいいお店です。
老舗の年輪とベテランの技に浸る心地よいひととき。みなさんもいかがですか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 鳥一 |
住所 | 千葉県船橋市本町1-32-2 |
営業時間 | 営業時間 16:30〜22:15 定休日 日祝 |
開業年 | 1973年 |