伊勢市「千成」酒場好きの4代目が守る80年の暖簾。地元向けのいい酒場

伊勢市「千成」酒場好きの4代目が守る80年の暖簾。地元向けのいい酒場

2021年7月30日

1940年頃に創業した「千成」は地元で親しまれている居酒屋です。リーズナブルな価格や、カウンターに集う老若男女の常連さんたちから、ここが観光地にあって観光用ではないことがわかります。地物の肴を楽しみながら、老舗酒場に浸りませんか。

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アーケード商店街を抜けた先、伊勢詣の宿屋街の名残の中で

伊勢市は不思議な街です。伊勢神宮の門前町であることは言うまでもありませんが、街の歴史からか名酒場が非常に多いです。県庁所在地の都市以外でこれだけ飲み屋が充実しているのは珍しいことです。

といっても密集しているわけではなく市内に広く点在しています。今回ご紹介する千成は、JR・近鉄伊勢市駅から徒歩20分ほど離れた場所にあります。周囲は住宅街というほどでもなく、寿司店や居酒屋もあり、そのロケーションは独特です。これもまた、江戸の頃から伊勢詣の宿が建ち並んでいた名残なのだと思います。

堂々とした店構え

店の歴史にふさわしい風格ある店構え。昔は宴会も盛んだったのでしょう。昔ながらの家族経営で、現在は居酒屋業態となってから数えて4代目となるご主人が中心に切り盛りしています。

典型的な古い居酒屋のつくりです。調理場に向いたカウター席と、対面には畳敷きの小上がり。一人飲みはカウンターが連帯感があって楽しいですが、こういう畳の上で飲むのも良いものです。

カウンターは特等席

魚介類や焼鳥がメインで、これらを調理するグリラーや天ぷら鍋が揃います。その前をまだまだ現役の3代目が忙しく行き来し、お客さんの注文に次々と応えていきます。

4代目はおもに接客を担当。休日は酒場を訪ねるのも趣味のひとつなのだと話します。老舗が継ぎ手に困ることが多い昨今、ここは安泰です。

乾杯はビールで

樽生(500円)はアサヒスーパードライ、瓶(中びん550円)でキリンサッポロを置いています。今日の気分はサッポロ黒ラベルでしたので、これをトトトとレトロなビヤタンに注ぎまして。それでは乾杯。

品書き

生レモンチューハイなど酎ハイ類は350円。ベースは同じ三重県の酒蔵がつくるキッコー宮甲類焼酎です。日本酒は三重県多気の酒蔵・河武醸造がつくる鉾杉(400円)や、同じく多気の元坂酒造がつくる八兵衛 八十八夜(600円)など4種類。

料理は調理場に多数掲げられた半紙をチェック。よくみると、まんぼうの腸味噌炒め(400円)やバイ貝(300円)や紀伊半島でとれるアカイカの姿焼き(500円)など面白い料理が揃っています。

気取らない料理がひとつずつ美味しい

かつお刺し(400円)

かつおは高知や茨城、三陸のイメージがありますが、三重も有数のカツオの漁獲量をほります。とくに伊勢志摩では最もポピュラーな魚だと聞きます。しっとりとしていて濃厚、甘味がつよいかつお刺しでした。

くび焼き(400円)

くび焼き(せせり)は、しっかりと飴色になるまでタレを繰り返し浸して焼いています。焼鳥以外も揃える総合居酒屋のような品揃えですが、串がしっかりと美味しいのはとても嬉しいことです。

鉾杉上燗(400円)

酒タンポでやってきました。お猪口に注ぐと広がるお米の香り。かいだ瞬間、なにかしょっぱい魚料理が食べたくなるのはお酒飲みの習性というもの。これは、もしや名物のあれの出番では?

サメのたれ(400円)

伊勢地方の郷土料理「サメのたれ」をご存じの方は相当な通ではないでしょうか。タレというから、蒲焼きのようにタレがついているかと想像してしまいますが、語源は鮫を干しているときに垂れ下がった様子から来ていると言われています。

全国ではあまり食べられていない鮫の正肉の天日干しではあるものの、伊勢神宮へのお供え物(神饌)にも選ばれています。

クサミや違和感はなく、淡白で塩がしっかり。日本酒を猛烈に誘う美味しい珍味です。

常連さんが多いのも納得の安くて美味しい王道の老舗居酒屋です。駅から少し歩きますが、古い街を歩くのはそれだけでも有意義に思います。神都の夜をゆっくりと楽しみませんか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名千成
住所三重県伊勢市曽祢2丁目3-14
営業時間営業時間
17:00~23:00
[土・日]
14:00~
日曜営業
定休日
無休
開業年1940年頃