戦後すぐに創業し、3代目が暖簾を受け継ぐ「やまちゃん」。近隣に飲食店は多くない住宅街で、ここだけ別世界のムードが漂っています。味わい深いお店の様子をご覧ください。
JR京葉線の終着駅・蘇我。
駅の海側は京葉工業地帯。766万㎡もの規模を誇るJFE東日本製鉄所では、2000度を越える熱が溶鉱炉で煌めいています。駅を挟んだ内陸側は、一転して穏やかな東京圏のベッドタウンが広がります。
同じようなロケーションは、製鉄の街、室蘭や北九州にも見られます。そして、どの街にも素晴らしい老舗酒場があるものです。
鉄の街・蘇我を代表する老舗酒場は「やまちゃん」。製鉄所が起工する1951年よりも古く、1948年に創業しています。
ここだけ昭和のまま
17時ごろ、暖簾が掲げられ提灯に明かりが灯ります。それにあわせて、続々とベテラン紳士の常連さんが集まってきます。皆さん、幾十年と通い続けてきた黒帯の先輩ばかり。
工業地帯とは反対側、野球ができる大きな公園や小学校、集合住宅などが立ち並ぶ住宅街の中に「やまちゃん」はあります。ここだけ時間の流れが止まってしまったような、木造平屋の建物が店舗です。
入ると意外にも大きく、正面にご主人が立つコの字カウンターの席があり、右側は板張りの小上がりというつくり。左の2階建ての建物も店舗の一部で、倉庫のようになっています。
いぶし銀の酒場は敷居の高さを感じるものですが、やまちゃんはご主人も常連さんも実にフレンドリーです。お手伝いの店員さんにビールをお願いし、まずは一杯目。
それでは乾杯!
品書き
お酒のメニュー・日本酒は菊水です
ビールは樽生がサッポロ黒ラベル(中500円)、瓶ビールはアサヒスーパードライとキリンラガーを揃え、ともに大びん(600円)です。加えて、小瓶のヱビス黒(ヱビス プレミアムブラック)を置いています。
チューハイ(400円)、ホッピー(セット400円)あり。日本酒は新潟・新発田の「菊水」が3種類用意されています。
料理は看板料理の「重ネ」(600円)のほかは、ホワイトボードに今日の内容が掲示されています。
コの字の入口側にある炭火の焼鳥台をつかって焼き上げるもつ焼きは、タン、カシラ、ハツなど。同じく炭火で焼く焼き魚もあり、意外にも魚介料理が充実しています。
千葉の地ダコをはじめ、魚介類はその日仕入れたものを揃えることがこだわりとのこと。在庫はそれほど多くないので早いものがち。常連さんのお目当ても刺身や焼き魚のようです。
重ネとは
2つの鍋に重ネの料理が入っています。大きい鍋は、煮込み豆腐が汁に浮かんで出番待ち。小鍋のほうでは、豚モツがトロトロになっています。時折、火を入れて温度を調整しなくてはならず、手間がかかっています。
このふたつを重ねるから「重ネ」。言うならば、「豆腐モツ煮込み」です。シチュー皿にたっぷり盛られ、さらにスプーンがつくので、見た目はカレーライスのよう。
ざく切りの玉ねぎがたっぷり。これが食感にも味覚的にも良いメリハリになっています。
きつね色に染まった絹豆腐。長く煮込んでいても崩れないだけあって、しっかり硬く味の濃いお豆腐。これが1丁ごろっと入っているので、食べごたえがあります。
トロトロで濃厚、コクがある煮込みはお腹をすかせてくればもりもりと食べられそう。そうしてビールや酎ハイをすっと飲めば、一日の疲れも吹き飛ぶというもの。(ハーフサイズもあります)
コの字で好きな料理と、静かな交流
ふなぐち菊水一番しぼり(500円)
常連さんはボトルの焼酎をお湯割りで飲み、テーブル席の会社員風のグループは瓶ビールを傾けています。私は飲食店での提供が珍しい「ふなぐち菊水一番しぼり」を。20度近い日本酒なので、それをみて「美味しいけどキツイお酒だよー」と常連さん。
鯖塩焼き
焼台ではカマスやサバが、じっくり時間を掛けて焼かれています。それを眺めて、注文主のお父さんは仲のいいとなりの常連さんと談笑中です。ここのコの字は、地域の大切なコミュニケーションの場になっているようで、眺めていてほっこりとします。
ほうれん草のおひたし
重ネの濃厚な味の合間、箸休めとして。
もつ焼きメインのお店の慌ただしい感じとはまた違った魅力がある、こうしてじっくりと遠火であてていく串。炭と脂の香りと風情もお酒の肴です。
チューハイ玉露(400円)
ポッカサッポロの業務用玉露茶をつかったお茶割りです。甘く旨味が強い味が、豚モツの脂を流してくれる、リフレッシュ系の味。
常連さんとの一期一会の会話も魅力のひとつ。じっくりと時間を掛けてこの空間に染まる感覚が非常に心地よいです。
静かに、それでいて活気もある「やまちゃん」です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 山ちゃん(やまちゃん) |
住所 | 千葉県千葉市中央区南町2-13-6 |
営業時間 | 営業時間 17:00~23:00(L.O.22:40) 定休日 日・祝 |
開業年 | 1948年 |