大衆中華の有名店「水新菜館」。創業は1897年と大変長い歴史があるお店です。町中華ファンの間ではあんかけ焼きそばが人気ですが、お酒好きならばここの紹興酒をぜひ注目して頂きたい!元気なマスターの快活中華をご紹介します。
浅草橋が生活圏の人ならば、知らない人はいない水新菜館(みずしんさいかん)。100年以上も昔に果物店として創業し、戦後はフルーツやあんみつを提供するパーラーへと変化し、さらに大衆中華へと姿を変えてきたお店です。
都営地下鉄浅草線の浅草橋駅すぐの交差点に、相当年季の入った建物に赤い看板がみえてきます。地元の人や事前に情報を知った人でなければ、とても人気店とは思えないかもしれませんが、これがお昼時は行列ができるほど賑わいます。夜は予約が取れないくらいの人気で、ふらっと飲みに行くときはタイミングを狙う必要です。
問屋街と人形の町、浅草橋
ひな人形や五月人形の名店・久月の総本店。ハンドメイド天国と言われる問屋街。神田川に接する屋形船の船宿。浅草橋はおとなり秋葉原や両国とはまた違った個性があります。
お酒を飲むシーンとしても魅力的で、秋葉原が今ほど飲食店が増える以前は、電気街で働く人々が飲みにくるような街でした。水新菜館もそうしたお店の一つ。
街にある普通の中華とひと味違います。例えば、石畳風の床と天井の青空。店内は明るく賑わっているのですが、座ってみると不思議なほどに落ち着きます。
「いやっしゃいませ」と背筋を伸ばしホテルマンのような接客でにっこりと出迎えてくれるのは、マスターの寺田さん。大変チャーミングな方で、どこか海外のコメディ・ドラマにでてくるウェイターのような接客です。
ベテランの男性は社長と呼び、女性にはレディと呼びかけ、絶妙な距離で心を寄せたトークを弾ませるマスターの人柄に惚れてしまいます。
店は一般的な町の中華同様に、厨房とそこに向いた直線のカウンター、壁側には4人がけのテーブル席が列ぶつくり。
チャーミングなマスターのアサシビール
ここへ来たら、飲まずに帰るのは実にもったいない。マスターがおしぼりと、「水分補給をまずはしてください」とお水を用意してくれるときにあわせて、瓶ビール(550円)と餃子(520円)を挨拶兼ねてオーダー。
「はい、かしこまりました。中瓶ですがよろしいですか?」
生まれも育ちも台東区浅草橋のご主人。江戸っ子言葉で、アサヒビールはアサシビールと呼びます。
「アサシスーパードゥゥラァイ!!と、餃子です」アサヒのCMの口調を真似てニコニコとサーブしてくれました。
トクトクとビアタンを満たしたら、それでは乾杯。
餃子(520円)。
餃子は一口サイズが一皿で6個。焼きの面はきれいなきつね色。全体的にはふっくら仕上がっていますが、焼き目は揚げたようなパリパリとした食感。野菜比率が高く、ニンニクと生姜、胡椒を利かせた餡が詰まっています。
「最初は何もつけずにお試しください」とご主人。確かに餡だけでもしっかりと味が整えられています。そしてビールを誘う味。
600円から5000円まである品書き
ラーメンの600円からはじまり、豊富な中華のラインナップ。
基本的には日本式中華ですが、夜のグランドメニューには上海蟹をつかった本格的な中華も加わります。もちろん、夜もチャーハンと餃子とビールなんていう利用も可能。
飲み物はアサシビールの中瓶や清酒に加え、ファンの多い水新菜館ならではの紹興酒や、デイリーワインから秘蔵のビンテージワインまで揃っています。中華とワインのマリアージュを楽しむ常連さんも夜は多いです。
マスターのおすすめ、あんかけ焼ソバ
あんかけ焼ソバ(900円)。
「ぼくのおすすめはあんかけ焼きそば」とマスター。具だくさんでおつまみにもなります。一度食べたら心を奪われる 美味しさ。完食間違いないものですが、カロリーが気になるという方向けに「小サイズもあります。半分より少しだけ多いくらい」とマスター。
もちもちと、パリパリがまだらになった麺を、濃厚な旨味の餡がたっぷりと覆っています。
それでいて、しつこさや重い印象はなく、すっきりと食べられてしまうのです。
甕貯蔵の生紹興酒の上澄みを味わう
エビ、うずらの卵、豚肉、白菜、人参、空芯菜、たけのこ、きくらげ、袋茸など。麺と同じくらいに具も多く、アタマをつまみにお酒が飲める、水新菜館のあんかけ焼ソバ。
ここで、いよいよ本日の目的、紹興酒の出番です。
甕出し紹興酒(老酒)はマスターのこだわり。デカンタ(1,890円)かグラス(500円)で提供されます。
カメにはいった火入れをしていない生の紹興酒を用意しているとマスター。上澄みをそっと掬いだして保存しているそうです。
「透き通り方が違いますでしょう?」
ワイングラスの入っていることもあって、シェリーのオロロソに近い印象です。濃い口だけど爽快感もある紹興酒に、コクと旨味を楽しむあんかけ焼ソバ。町中華のこだわりマリアージュは非常に愉快です。
水新菜館へ、お酒を飲みにいってみませんか。お昼営業のラストオーダーは15時とやや遅いので、昼食時の混雑時を抜けた午後2時前後に飲みに行くのがおすすめ。もちろん、夜に予約していくのも良いと思います。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 水新菜館 |
住所 | 東京都台東区浅草橋2-1-1 |
営業時間 | 営業時間 11:30~14:30(L.O.) 17:30~20:45(L.O.) 定休日 日曜日、第2・4土曜日 |
開業年 | 1897年(1972年から現在のスタイルへ変化する) |