晩杯屋は今からおよそ10年前、武蔵小山駅前にあった武蔵小山飲食店街「りゅえる」で創業した立ち飲み居酒屋です。センベロブームの火付け役とも言われ、安くて楽しいと評判になり、都内各地から晩杯屋を目指して武蔵小山へ飲みにくる人が居たほどです。その後、大井町や板橋区大山などへ出店し店舗数を拡大していきます。
「りゅえる」は戦後のヤミ市からの延長にあり、横丁で飲むのが好きな人達が毎夜訪れるスポットでした。約160店もの飲食店が店を構えていましたが、再開発が進められることとなり閉鎖。晩杯屋の本店も2015年9月に閉店、近隣への仮店舗移転となりました。
この再開発が2019年11月、ついに完成(段階的に開業)。晩杯屋本店は営業開始から10年目にして創業の地で再び提灯が灯ることになります。
東急目黒線の武蔵小山駅前は、いつのまにか大変立派な複合施設併設の高層マンションが出来上がりました。あの焼鳥を頬張りながらプラコップで酎ハイを飲んでいた名残は全くありません。ただ、パークシティ武蔵小山 ザ・モールと呼ばれる商業施設には、いくつか懐かしい武蔵小山の飲食店を見かけます。
かつて、晩杯屋などがあった細い路地を彷彿させる通路に、晩杯屋はあります。位置的には多少ずれていますが、だいたい以前と同じ場所。
旧晩杯屋本店と比較。バラック小屋のような旧店舗で、風よけビニールシートに包まれていた頃が懐かしいです。(2014年1月撮影)
店内のつくりは各地にできた晩杯屋と同様のつくり。厨房から伸びたコの字カウンター。内装も近年開店したお店とほぼ同じ。基本に忠実に、椅子席なしで詰め合わせ、注文はおなじみの紙に利用者自身で書き込み手渡す方式が採用されています。※飲み物は口頭で。
ただ、こんな”ぺらっ”と手書きでおすすめがあるあたり、10年前の雰囲気がちょっぴり感じられるのは気にしすぎでしょうか。
ビールはキリン一番搾り(410円)。しっかり大きい500mlサイズのジョッキが使われています。それでは乾杯!
最安のチューハイは晩杯屋の原点となった赤羽いこいゆずりの低価格。いまでも250円です。お酒の種類が多く、他店ではあまり見かけない不思議な飲み物が多いです。例えば、東京パッションフルーツや、ハスカップサワーなど。定番のチューハイと併売されている、ちょっぴり風味がついた色付き甲類、宝ゴールデンチューハイも、チェーン展開をしているお店ではかなり珍しい存在です。
開店記念で、武蔵小山駅前店は2019年12月末まで馬ハイこと、キリンのホワイトホースハイボールが1杯100円の激安価格。最初の一杯などではなく、何杯だってこの価格。※期間内であっても早めに終了する可能性があるという注意書きがあります。
料理はぱっと見た感じでは他のスタンダードな晩杯屋とほぼ共通ですが、創業の地ということもあってか、煮込みだけは特別。他店と異なり牛塩煮込み(180円)が用意されています。
夏の暑さの中や冬の夜風に震えながら食べたまぐろ刺しやアジコロなど、昔からのメニューも一部健在です。
印刷された手物とメニューにはない、今日のおすすめ、すずき刺し(250円)。こういう差し込み料理が楽しいですよね。
気になる牛塩煮込み(180円)は、濃厚で旨味が強いのに、クサミがなく食べやすい味。
晩杯屋で一番人気のチュウハイは、お店でつくる濁りのある緑茶割り(290円)と聞きますが、このトマト割りもおすすめ。毎回晩杯屋に来たら飲んでいます。
もうひとつ煮込みがありまして、こちらのチゲ豆腐(180円)。寒い時期にぴったり。ほかにも、サクサクたらフライ(180円)を発見。ニューポテトフライとあわせれば晩杯屋流フィッシュアンドチップスの完成です。
沖縄は泡盛のコーヒー割りが大定番。コンビニでも沖縄限定で泡盛コーヒーのRTD(開けてすぐ飲めるお酒)が売られているくらい人気。あの味に結構リアルに楽しむことができるのが、晩杯屋の琉球コーヒー割り(370円)。那覇の泡盛蔵でオエノン傘下の泡盛・瑞穂をベースに、沖縄で高いシェアを誇るポッカ(現在のポッカサッポロ)の缶コーヒーを自分で割ってつくります。
スーパーマーケットのお惣菜と並ぶ価格で手軽につまめる料理と、ちょっとおもしろくて珍しいお酒たち。ときどき訪ねてみると、やっぱり楽しい晩杯屋でした。武蔵小山は人気の居酒屋も多数、久しぶりに飲みに行きませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
立呑み晩杯屋 武蔵小山駅前店
03-6421-5572
東京都品川区小山3-15-1
11:00~22:00(無休)
予算1,200円