茅場町『京八』酒の街・新川の歴史を味わう老舗で燗酒とおでん

茅場町『京八』酒の街・新川の歴史を味わう老舗で燗酒とおでん

2019年9月29日

中央区・新川。ここはかつて、各地から船で運ばれてきた日本酒が集まる酒の集積地でした。江戸・東京における酒の窓口だったこの街には、現在も酒類企業の本社や東京支店が立ち並びます。

そんな酒の街の歴史を肴に飲めるお店が「京八」です。京都出身の先代がここに店を開いたのは半世紀以上昔のこと。カウンターの内側で穏やかに微笑む大女将に新川の歴史を伺いながら、じっくり楽しむ燗酒とおでんは格別です。

現在の店舗は33年前に建てられたもの。交通量の多い永代通りに面していながら、店内は不思議なほど静けさに包まれています。テレビやBGMはなし、聞こえるのは調理の音と、飲み慣れたお客さんたちの静かな笑い声。

カウンターはヒノキの一枚板。分厚く大変立派です。

こちらの醤油は先代からのこだわりで、香川県小豆島のマルキン醤油。現在は酒類大手のモリタが手掛けています。ヒカピカに磨かれた醤油瓶から、ご主人の性格が伝わってきます。

おでんをメインに500円前後の小鉢や焼きもの、刺身など。種類は多くないものの、黒帯飲兵衛好みの渋い料理が並びます。

樽生は銀座創業、東京うまれで現存する最古のビールブランド「ヱビス」。現在飲食店で使用されているものとは形状が異る、老舗のみに残る貴重なグラスに注がれます。金口グラスで飲むヱビスは、親の世代が飲んでいたあの一杯。

状態抜群の生ビール(520円)です。乾杯!

京都出身の先代の味が守られている、京風おでん。とはいっても、やはり東京では”ちくわぶ”は外せませんね。

おでんダネそれぞれに適した時間で浸しているので、厚揚げは一際琥珀色。ジューシーな大根は、わずかに大根本来の水分のみの部分があり、出汁と大根のみずみずしさの調和が心地いいです。

おでん番として向かいに座る大女将と酒と街の話をしつつ、キリンクラシックラガーを。酒類商社やビール会社と地域の催しを通じてご縁が深かったそう。

昔からのお客さんの要望もあって、瓶ビールはあえて加熱処理ビールのキリンクラシックラガーとのこと。クラシックラガーとあわせるおつまみは、これまたファンの多い京風玉子焼き(460円)を。しっとりしてプリンのよう。だしの風味と、わずかに垂らす醤油がよくあいます。

お酒は誠鏡と賀茂鶴、広島の2銘柄のみ。年季の入った通い函が保管棚代わり。

古い炊飯器にお湯を張った独自の酒燗器に、お酒を注いだちろりをつけて少し待ちます。

温度を測ったり、持ち上げて確かめることもなく、ぴしゃっと狙ってぬる燗がつきます。老舗のこういう瞬間が好きな人、きっとたくさんいらっしゃいますよね。

竹原の誠鏡は、明治4年の創業。「酒の水面が鏡のように反射する様子に、酒造りの誠の心を写す」というのが由来だと、新川の酒販店で聞いたことがあります。賀茂鶴も誠鏡も、ともに広島らしい美味しいお酒です。

実はもうひとつ不動の人気メニューがあります。それがこちらの牛皿(460円)。

旨味のある少し厚めにスライスされた牛肉と、きつね色になるまで出汁が染みた玉ねぎ、焼き豆腐、しらたき。タレは甘めで余韻は不思議とあっさりしています。一人で食べる量としては少し多いかも、と思いつつ、いざ食べてみればクセになある味にきっと完食です。

運河と酒と食の新川。その世界に少しだけ触れられたような気がします。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

京八
03-3551-8617
東京都中央区新川1丁目16-5 京八ビル
17:00~20:30(土日祝定休)
予算2,500円