私のお酒好きの原点は老舗の大衆酒場にあります。料理、人、店の造り…要素は色々あるものの、なにより「酒場の空気感」が好きでたまりません。
背筋を伸ばしキレイな姿勢でお酒を楽しむかっこいい大人の世界。古くからの酒場には、どこか茶道に近いものがあるように思います。幼少の頃から酒場に連れられていた私は、パブリックな場で粋に飲む人々に憧れたものです。
都内ならば、大塚の江戸一、根岸の鍵屋、神楽坂の伊勢藤、全国では、仙台の源氏、名古屋は大尽、大阪の明治屋などがそれに当てはまるのですが、店の空気を楽しみにいきます。それは、くつろぎ団らんを楽しむ居酒屋とはまた違った、ぴしっと飲まなくてはならない緊張感がある場所です。
横須賀の銀次もそういうぴしっと飲むことが求められる一軒です。
ビールは樽生でアサヒ、瓶はキリンラガー。酒は伏見の招德、白ホッピーやmissionで割って飲む甲類焼酎。甲類はかつて源氏だったと記憶していますが、最近は宝焼酎のよう。たっぷり濃い目に注がれます。お酒は定番の顔ぶれで、そうとう暑いときでなければ、年季の入った銅壺でお燗番のお姉さんがつけた燗酒が最高です。
昭和の木造建築で、扉も窓も時代を感じる木製のものが現役ですが、随所まで手入れがされていて清潔感があります。数多のノンベエが擦ってきたことで角を丸くし鈍く光るカウンターは、これこそいぶし銀です。
ベテランのお姉さんが鰹節をけずり、明るいお姉さんがお客さんのお酒の注文を聞いてまわる…。エプロン姿のお姉さま方のまるくふわっとした接遇も癒やされます。
BGMなどはなく、ゆっくりとお酒を口に運んで、しみじみと味わい、じんわり体内に広がる酔いに向き合うひとときがここにあります。
一昔前の価格帯から変わらず、いまで言えば千円で飲める店となるのでしょうれど、値段で選ぶようなお店ではありません。横須賀の酒場なので、湯豆腐(半丁250円)には辛子が塗られていて、ここに削りたての細かな鰹節が載せられています。刺身や和え物、小鉢が揃い、そのすべてが素晴らしき酒の肴です。意外にも串カツなどの揚げ物もあります。
飴色の空間で、ぴしっと背筋を伸ばして徳利を傾けお猪口を持ち上げれば、少し大人に近づいた気がしたものです。銀次で一人飲みをする、20代の頃はそんな自分を夢見ていしまた。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
大衆酒場ぎんじ
046-825-9111
神奈川県横須賀市若松町1-12
16:00~23:00(土日祝定休)
予算1,500円