徳島「居酒屋」 かつての割烹、いまは居酒屋。良き店で酔う。


徳島に「居酒屋」という名の居酒屋があります。ここまで直接的な店名は珍しいです。そして、この「居酒屋」がとってもいいお店だとしたら、これはもう紹介しないわけにはいかないでしょう。

創業半世紀の老舗割烹が、代替わりを機にお座敷をやめて居酒屋に変更し、店名は業態そのままに「居酒屋」としたそうです。駅からやや離れた昔の飲食店街に位置し、静かな街並みに藍色の暖簾が似合います。

紀伊水道から沖洲川をのぼる潮の香りがかすかに漂い、飲み屋めぐりにも港町の印象が添えられます。

 

徳島は人口25万人、四国第四の都市です。阿波おどりに代表される郷土文化と、江戸時代は阿波徳島藩の城下として栄えた歴史があます。さらに四国三郎こと吉野川や、紀伊水道の豊富な自然資源に囲まれ、これだけ条件が揃えば、もちろん食事や酒も期待ができるというものです。

 

徳島へは、高松からJR高徳線の特急うずしお号でおよそ70分。さらに徳島から室戸岬・高知方面へも特急列車が走る交通の要です。

 

1993年完成の駅ビル・ホテルと、1983年開業のそごう徳島店が駅前の顔です。飲み屋街はこの駅前のビル群の1本裏と、昔からの歓楽街が10分ほど歩いた栄町にあります。

 

駅と歓楽街の間に流れる沖洲川。街の中心部、飲み屋街の近くに川が流れる街は独特な風情がありますね。

 

徳島市街はかつては今以上に立派で賑やかな歓楽街でした。両国橋や銀座など、往時の賑わいを感じる地名も多く、ひたすら広いエリアに飲み屋や商店街の形跡があります。

 

「居酒屋」は、駅と栄町のちょうど中間にぽつんと佇む飲み屋。黄昏時、ぼんやり照らされた暖簾を見ると、吸い寄せられるような気がします。

 

かつてはお座敷もある割烹。現在はカウンターを中心とした十数人が定員の小さな居酒屋。カウンターには店の歴史を紡いできた重厚感があります。老舗好きの私は、着席しただけで心地よさに頭がぼんやりしました。

 

割烹を引き継いだ現在のご主人に迎えられ、まずは生ビール(490円)を注文。いつものビールでまずは喉を整えます。いつもの…のナショナルビールですが、徳島でハートランドビールに出会うとは思いませんでした。

ご自身も飲み歩き好きと話すご主人。ハートランドを用意するとはニクイね!乾杯。

 

お通しは日替わりで海産物を中心にしているそう。今日はもずく。

 

料理は壁に書かれた短冊から選びます。

 

料理の顔ぶれは大衆酒場の主役揃い。かつての割烹といえば海鮮料理かと思いきや、品書きは安心感のある焼鳥、串カツ、ロールキャベツなど。種鶏(しゅけい)を使った鶏炒めの「とっぴん焼き」など、鳥料理が充実しています。

 

よく見れば、黒板には居酒屋ではまだあまり見かけない「IPA」や「ペールエール」などの文字が。なんとクラフトビールも結構な品揃えです。

 

黒板メニューで海産物が加わります。割烹時代からの名物料理、絶品と常連さんから評判のブリ照り焼きを筆頭に並びます。漁の状況で並びも変わるそうで、記載はないものの新鮮な徳島・鳴門の鮮魚が用意されています。

日本酒は日本各地から勢揃い。地元の旭若松は東京にあまり進出していない銘柄、ぜひ飲みたいところです。日本酒1杯で630円は、並びからすればお得感。

 

ビールはドラフトハートランドのほか、瓶で一番搾り、アサヒスーパードライ、サッポロラガーの3社揃い。

 

サワー類をよく見れば、なんと焼酎ハイボールにホッピー・黒ホッピーの文字。焼酎ハイボールは台東区の天羽飲料製造の梅を使っているそうで、ここだけ見ればまるで東京の酒場です。

 

一品目。徳島に来て鯛を食べずに帰っては意味がありません。よい鯛がはいっていますよとご主人。色味よく弾力ある身質、よく成長した鯛ならではの大きく厚みをとった包丁の入れ方。徳島の(訂正)すだちを醤油に搾り、ちょいとつけて口へ。

甘さとねっとりとした脂の旨味、余韻は爽やかで、最後にすだちがすっと鼻にぬけていきます。

 

合わせるお酒は高柿木(620円)。山紫水明の山峡・井川町にある芳水酒造のお酒。吉野川水系の水でつくるムロカ中取り純米生原酒。すっきりした飲み口かつお米の旨さが広がる一杯です。

 

だし巻き玉子(360円)。老舗のだし巻きにはずれなし。ご主人の確かな腕を感じます。

 

そうして飲んでいき、続けて飲むは旭若松。純米酒の無濾過生があると出してくれました。品書きでは製法の記載がないものの、このご主人はずいぶんとっておきを振る舞ってくださる方で、頼んでみると「なんとまぁ」と驚かされるものがあります。

 

ご主人のお母さんも店に降りてきて、お二人で次々訪れるお客さんの料理を仕上げていきます。厨房はかつての割烹時代をそのまま利用されているようで、客席より広いくらい。

 

東京下町の酒場を彷彿とさせる品書きについて聞いてみると、昔はよく東京で飲み歩かれたそうです。居酒屋を始めるにあたり、地酒だけでなく幅を広げようと研究した結果だそうです。

サワーを頼むと、期待を裏切らず博水社のハイサワーが登場です。しかもなんと美尻グラス。

 

キンミヤ焼酎を注ぎ、ハイサワーで割る。徳島まで来て私の生活圏の飲み物を飲むとは思いませんでしたが、むしろご主人の酒場への想いを感じられて、これはこれで素敵な体験です。

 

場所柄、常連さんも多く、時間と共に席が埋まっていきます。女性のお一人様もいらしていたのは印象的です。

カウンターの内側に設けられた調理スペースでは、女将さんがじっくりと焼鳥に向き合っています。

徳島を訪れた際には、ぜひ足を運んでいただきたい「居酒屋」らしい「居酒屋」です。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

修正:読者の方からのご指摘でお酒の表記の誤記を訂正いたしました。ご指摘いただきありがとうございます。この場でお礼申し上げます。

 

居酒屋
088-652-6781
徳島県徳島市南内町2-10
17:30~22:00
予算3,000円



“徳島「居酒屋」 かつての割烹、いまは居酒屋。良き店で酔う。” への1件のコメント

  1. Tatsu. より:

    なゆさん、かぼすではなくすだちなんです!
    かぼすより小ぶりでシャープな酸が印象的です。
    (生まれも育ちも徳島の武蔵野市民より)

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