関西の人に東京の酒場を案内すると「東京はいいな」と言っていただけますが、東京出身の筆者は酒場巡りは関西にずっと憧れています。何度通っても尽きることない渋くて懐に優しい店たち。人情たっぷり、気づけば隣のお父さんと友だちになるような人懐こさも、関東以上に魅力に感じます。
東西の話で言うと、関西でいう「関東煮」(かんとだき)と東京のおでんの話は知られています。東京のおでん、イコール関西の関東煮と思いきや、これが結構違うのです。
大阪環状線の沿線は昼酒天国。各駅個性があるなか、今日は関東煮を求めて玉造駅の「きくや」へやってきました。
創業60年を迎えた大阪の関東煮を代表する一軒で、営業は11:30から夜まで通しでやっています。
厨房を囲むように大きなL字カウンターを配し、目の前には巨大な長方形の鍋がぐつぐつと煮えて出番待ち。昼の早いうちから近隣のお父さんたちの憩いの場として賑わい、関東煮が次々と売れていきます。
関西におけるおでんは串カツと同等、さくっと飲んでつまむもの。ジャンパー姿の常連さんも酒好きカップルもささっと飲んで店をあとにします。
これが夜になれば行列もあたりまえ。大阪のノンヘエが「かんとだきを食べたいね」と集まってきます。狙いはお昼間です。
ビールは生がキリン一番搾り、瓶ではキリンクラシックラガーとアサヒスーパードライ。燗付けした日本酒は普通酒ながら関東煮との相性のよさから人気です。
西の酒場はクラシックラガーが似合う。ガツンとくる苦さをスジと合わせるべく、乾杯!
おでんと関東煮の違いはこのスジの存在が大きい。おでんは玉子など一部を除き魚の練り物ですが、関東煮は牛すじが基本。どて焼きや肉吸いと融合し、おでんの出汁に加えてこの牛肉の脂が味の差に大きく出ています。
煮込みのような、おでんのような。スジの脂をすったネタは濃厚でうまみたっぷり。濃い口しょうゆを使わずあっさりとした塩味のなかで、この旨味が味の決め手です。
30種類ほどのおでん種で、120円から130円とお財布に優しい。もちろんお通しもなく、昼からダイビンとカントヴキを数品で千円ちょとが標準の飲み方。名物の梅やきは梅干しなどではなく、梅の花をかたどった可愛い練り物です。
たっぷりと脂をすって、これが絶品。
シューマイもタコも美味しいのですが、関東煮はしっかり美味しくお腹にたまります。今日はこれくらいで。
わちゃわちゃしたムードをリズミカルに仕切るお店の皆さんが好きで、昼酒の常連さんの「生きがいだ!」とう表情も大好き。美味しいアテでビールが進む素敵なお店です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
関東煮きくや
06-6976-9629
大阪府大阪市東成区東小橋1-1-17 西本ビル 1F
11:30~22:00(土日祝)