溝の口「酒蔵十字屋」 ここは今も高度経済成長時代。昭和酒場の賑わいに癒やされる

溝の口「酒蔵十字屋」 ここは今も高度経済成長時代。昭和酒場の賑わいに癒やされる

再開発が一段落した溝の口。ブランド路線の東急田園都市線、そして放射線状に伸びる通勤路線を縦串で結ぶJR南武線が交わるターミナル駅です。東急沿線の街開発といえば明るく閑静な雰囲気ですが、溝の口は沿線の”特異点”ともいえる街。駅前のロータリーの裏を覗けば、雑多で昭和な町並みが広がっています。

駅からわずかに歩けばそこはノンベエが闊歩する梯子横丁。園都系ベッドタウンにおける貴重な水飲み場として、沿線のお父さんたちは今日も途中下車。

街を代表する大箱といえば北口の「酒蔵十字屋」。南口の老舗スーパー「十字屋商店」の経営で、1971年(昭和46年)に誕生した老舗です。惜しまれつつも、スーパー「十字屋商店」は2017年に70余年の歴史に幕をとじましたが、こちらの酒蔵は今日も絶好調です。

 

駅を降りると動線は東口駅前広場のペデストリアンデッキに向いています。そこをあえて西口へ。すると南武線沿いに昭和のトタンづくりのアーケードがみえてきます。魅惑の立呑が待ち構えている脇を抜け、目指せ十字屋。

 

高度経済成長時代に建てられた大箱20卓の店。二階には個室、3階は100人は入れそうな大広間と驚きのサイズ。それでも1階は毎夜カウンターからテーブルまで満卓の賑わいです。

チェーン店ではこの程度の規模は都心部にあるものの、大変めずらしい。

 

ハイサワーに宝焼酎、アサヒにキリンに、懐かしのポスターが壁を埋めるように貼られています。どこに何が書いてあるのかわからず、品書きにどっと包まれる感覚です。

 

取材日は狙って10日に。実は毎月10日は「十字屋の日」として、生ビールも含めて全般的な”ご奉仕品”となり、100円以上も安くなるものも。

 

普段のお酒メニューを見ての通り、いつでも嬉しい大衆価格。生ビールは480円で、大徳利のあいずほまれは580円。ハイサワーなどは370円です。

 

460円→350円とせっかくのお得な値段。一杯目はたっぷり生ビール(アサヒスーパードライ)で乾杯!突き出しの小鉢(270円)も外さない安定感。

ベッドタウンという立地で、これだけの大箱を半世紀近くも営業されているのですから、日々の努力の積み重ねが間違いのないいいお店にしているに違いありません。

 

本日のご奉仕品。十字屋に来たならば、海鮮を食べなきゃもったいない。盛りの良い刺身3点はもちろん、下の貝類の刺身もおすすめ。席が多くて人気だからこそのバラエティ豊かな顔ぶれでしょう。

 

蝦蛄に目がない筆者。記事としては春を感じる千葉県産の春鰹たたきにするべきでしょうけれど、好きなものは好き。ワサビを醤油に溶かして豪快に。最近みかけない大きいサイズで、味も濃厚です。溝の口の酒場というより、瀬戸内の港町の気分。

 

瓶ビール(530円)はキリンラガー、しかもクラシック。みんながワイワイ賑やかに飲む空間で、大瓶を挟んで注ぎ合う時間。なんかいいですよね。酒場の景色に染まれた感じがして。

 

大衆酒場としての十字屋を話すなら、厚焼玉子と十字屋焼が双璧をなす存在です。

大皿いっぱいに盛られるこれらは大食いチャレンジのよう。二人で飲むときに頼んでしまうと、もうこれだけで梯子酒ができなくなります。

十字屋焼きはキャベツ一個分ほどが使われていて、食べきれば健康そうではあるのですが…。またの機会に。オタフクソースは30円アップと、プレミアムビールみたいでおもしろいでしょ。

 

今日は日々の食べ過ぎもありまして、はい。穏やかにちびりと。

 

100種類近いメニューは魚から揚げもの、炒めもの、中華に鍋までなんでもあり。何を食べたいかではなく、十字屋の壁をみれば食べたいものが決まる。品書きだけで飲めてしまいます。

 

飲み慣れたグループが多いので席数は多くても自然に会話ができ、だからといって静かすぎず酒場の雑踏がよきBGMになっています。

変わりゆく溝の口をずっと見守り、そして毎晩大勢の人の笑いであふれてきた「十字屋」へ、一度足を運んでみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

酒蔵十字屋
044-822-5586
神奈川県川崎市高津区溝口2-6-13
16:00~23:00(日定休)
予算2,000円