大阪・茨木で雰囲気のいい典型的な角打ちがあります。上品な女将さんが切り盛りする『北野商店』です。営業時間は朝10時から。近隣に暮らす常連さんが集うため、日中にも関わらず人が途切れません。清酒は弥栄鶴、ビールは茨木縁のサッポロビールで乾杯しましょう。
かつて関西の星を支えた街

大阪のベッドタウン・茨木。いまでこそマンションが林立する街ですが、かつては工業地帯であり、いまも私達の日常に欠かせない飲料・食品容器を製造する東洋製罐の茨城工場が稼働中です。
製缶工場に並んで、1961年(昭和36年)から2008年(平成20年)までは、サッポロビールの西日本製造拠点であるサッポロビール大阪工場も操業していました。同時期に那須工場の稼働開始などあり、生産効率向上のため閉鎖されました。工場跡地には大学が建設されましたが、敷地内にあるレストランはサッポロ傘下の飲食会社・サッポロライオンが運営しており、いまもビール工場の名残が感じられます。
そうした背景もあり近隣の老舗飲食店もサッポロビールを置く店が多く、今回ご紹介する茨木駅前の角打ち『北野商店(北野酒店)』もそのひとつです。

時刻は11時過ぎ。お酒を飲むには少し早いですが、日中からやっている角打ちは明るい時間にいくのが醍醐味です。駅から5分ほど線路沿いを歩くとお店がみえてきました。道路を挟んだ店の向かい側はJR京都線。行き交う電車が街にリズムを加えています。
外観

JR茨木駅前商店にある『北野商店』。外観は普通の酒屋さんですが、『立呑処』の看板が角打ちであることを表しています。正面左が小売、右が角打ちの入り口です。
内観

穏やかで、ゆっくりとした時間が流れる店内。8人ほど入れるニの字のカウンターに、明るい日差しが注ぎます。先客も、あとからくるお客さんも、皆さん地元の方ばかり。日中は勤め上げたベテランさんばかりで、昨今の事情がなければ80代以上の常連さんも多くいらっしゃるそうです。
いらっしゃい!と、明るく上品な女将さんが迎えてくれました。
角打ちで百年

早い時間は近所の黒帯さんに混ざって夜勤明けの人が通うほか、夜は地元企業の人で賑わっていたそうです。いまはそういう利用も少なく寂しくなったと女将さん。

雑然としているようで、それもまた角打ちの魅力。裏口から卸の人がお酒を運び込んでいるタイミングでした。


お酒好きの心をくすぐるレトロなグッズやポスター、電照看板たちに囲まれ、タイムスリップしたような気分。店の歴史は店内から感じられる以上に長く、大正以前から酒米の卸として操業し、現在の角打ちも1922年から続くもの。まる100年営業しています。現店主は6代目。なお、『角打ち』は九州北部の言葉ですから、同店では『立ち呑み』と呼んでいます。
お酒はほぼ小売価格同然。手頃な値段に感謝。
乾杯はサッポロ生ビール黒ラベル

「工場はなくなっても茨木の人はビール工場があったことを覚えている」、そんな話を聞いたら乾杯のビールはサッポロ黒ラベルを選びたくなります。銘柄は酒販店ですから、ビール各社・各銘柄・各サイズが揃っています。
今回は静岡工場(Y)で製造された、サッポロ生ビール黒ラベルの中瓶で乾杯。
“アテ”の人気はおでんと茶碗蒸し

女将さんお手製の牛すじたっぷりのおでんと茶碗蒸しが人気のおつまみです。茶碗蒸しは一見するとスーパーなどで売られているレンジ加熱用の市販品ですが、実はこれのために近所の市場に仕入れに行っているというこだわりの一品です。

何がスゴイかというと、想像の倍以上に具が多く、そしてどれもかなり大きく食べごたえは十分。はじめて食べた人は皆さん「もしかして、自家製?」と質問するそうです。海老などもたくさん入っており満足できる一品。値段はもちろん角打ち価格です。
角打ちですが、日本酒は弥栄鶴のみ

弥栄鶴は京都府京丹後市弥栄町の竹野酒造がつくるお酒。一升瓶からビアタンへ豪快に注がれます。

角打ちは酒販店なのですからお酒の銘柄も豊富ということがほとんど。ですが、北野商店では清酒はこれ一本。昔から変わらない取り扱いなのだそう。
濃い味で飲みごたえのあるお酒です。

ただ、安くお酒を飲めるという場所ではありません。ここは街のお酒好きが集まるコミュニティの中心です。常連さんも女将さんもとても朗らかでいつまでも飲んでいたくなる素晴らしいひとときでした。
京都・大阪間の移動では茨木は通過しがち。駅に近いですから、お読みになった方はつぎは茨木で途中下車されてみてはいがでしょう。
夜8時には店じまい。早い時間に飲める人のための「居場所」です。ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 北野商店(北野酒店) |
住所 | 大阪府茨木市駅前1-3-8 |
営業時間 | 10:00~20:00(日祝定休) |
開業年 | 1922年 |