静岡「多可能」 変わりゆく街並み、変わらぬ大衆酒場。もうすぐ創業100年

静岡「多可能」 変わりゆく街並み、変わらぬ大衆酒場。もうすぐ創業100年

2017年10月7日

駿河国の国府がおかれ駿府と呼ばれていた静岡。徳川家康が幼少期を過ごした駿府城を中心に東海道の19番目の宿場町として栄え、明治維新後は交通や産業の拠点として急速な工業化、都市化が進みました。

水道や電気、市内交通の路面電車などが次々と整備されていった大正のころ、酒場「多可能」が静岡駅前に産声を上げました。その頃、七間町では映画館がオープンし、好景気に沸く静岡は大変な賑わいだったそうです。

それから一世紀が経過しようとする現在も、「多可能」は店主一家の4代目が変わらぬ暖簾を守り続けています。

静岡は老舗の銘店が今も多数現役で毎夜地元の飲み客で賑わっていますが、その中でも「多可能」の人気は別格です。

このお店で飲みたいがために遠方から旅してくる人もいます。名古屋以西で用事があるときはあえて静岡で途中下車し東海道府中宿で一泊したくなる、そんな魅力を持った銘店です。

黒おでん、桜えび、まぐろにシラスと静岡の飲み屋の定番酒肴が揃う品書き。これに加え、日替わりのおすすめや大皿料理が常連さんを飽きさせません。

お酒は変わらず地元の「萩錦」一筋。安倍川沿いでつくられ、多可能に飲みに来る理由になる銘酒です。

ビールは生樽が併売でアサヒとキリン。キリンはハートランドなのですが、百年酒場にも案外しっくり収まっているように思えます。瓶ビールではアサヒ、キリン、サッポロ、サントリーと4社バランス良く収まります。

500mlサイズ、昔ながらの中ジョッキが素敵な一杯。乾杯!

静岡人のふる里の味、ながらみの煮付け。東京でも市場にはいりますが静岡のながらみ愛は別格だと、カウンター隣の常連さんから教わりました。アサリと同程度の頻度で食べていると聞きますから、それはすごい。

うみつぼも土地の味。鮮やかな模様が美しく、ぴんぴんとしていて楊枝でキモまでくるりんときれいにとれます。醤油やみりんは控えめの味付けと、うみつぼのコクがビールをゴクゴクと進ませます。

桜えびは普段目にするものの3倍はある大きいもの。そのまま生で食べられますが、これを短時間でカリっとかき揚げにするのが素晴らしい味。

衣は極力控えめ。口の中が海老でいっぱいになるような仕上がりです。カリカリに揚がっていますが、海老の芯はまだ柔らかく甘い旨味がかむごとに広がります。

揚げものでも重たさは感じず、海の美味しさが口に残ります。そこへすかさず日本酒を。

チェイサービールでキリンクラシックラガー(CL)。老舗に大びん、これ以上ない安定感。日本の飲み屋街の変わらぬ風景です。

時期によっては静岡限定の一番搾りもあります。土地の味に合わせるために作られた限定ビール。静岡おでんを肴にくいっと一本。

1合350円とリーズナブルな荻錦。近海物の刺身がどれも美味しく魚と相性の良い荻錦は自然と一本、また一本と燗をつけてもらう。気がつけばふらふらではないですか。

葉しょうがの収穫量日本一の静岡。カウンターで並んで飲んでいた年配のお父さんは葉しょうが農家だそうで、自慢の葉しょうがを教えていただきました。たっぷりのもろみ味噌をつけていただきます。

土地の味を、土地の人と、土地のお酒をあわせて楽しめる、飲み歩きの旅はこれだからやめられません。

静岡で飲み歩く際には、多可能は外せない名酒場。駅にも近く利便性抜群、そしてなによりお店の方やお客さんが皆さん素敵な方ばかり。イチゲンでは入りづらくみえるかもしれませんが、カウンター席もありますから一人でもぜひ暖簾をくぐってみては。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

多可能
054-251-0131
静岡県静岡市葵区紺屋町5-4
16:30~23:00(日祝定休)
予算2,800円