千種「サッポロビール名古屋ビール園浩養園」 名水の里と呼ばれた土地に残る近代産業の余韻

千種「サッポロビール名古屋ビール園浩養園」 名水の里と呼ばれた土地に残る近代産業の余韻

名古屋の中心地・栄から地下鉄で2駅の千種は、その昔名水の里「古井村」と呼ばれるほど湧き水が豊富な土地で、現在も古井戸がいたるところに残されています。氏神の高牟神社には名水百選に選ばれる井戸があり、マンションや大学、ショッピングモールが立ち並ぶ現在にあっても水の街の名残を感じられます。

地下水に恵まれた土地ということから、大正15年にサッポロビールが東京以西で初となる工場をつくり、西日本への拡大の布石として重要な役割を担ってきました。1990年代、ここ名古屋工場では豊富な古井の地下水を使用した名古屋名水生ビールなど、全国向け製品の黒ラベルだけでなく、いまでこそ各社が力を入れている地域限定ビールの先駆け的な銘柄を製造していました。

 

ビール工場にはきまってビヤレストランが併設されていますが、サッポロビール名古屋工場にも系列会社のサッポロライオンが運営する「名古屋ビール園 浩養園」が昭和6年より営業をはじめました。

 

浩養園(こうようえん)という聞きなれない名前。実は第11代将軍・家斉公が隅田川畔に浩養園という庭園をつくったことに由来します。明治維新後、北海道開拓使麦酒を経て民間に払い下げられたサッポロビールによって吾妻橋にビール工場を設置する際に、将軍がつくった浩養園は同ビール工場の接待所として引き継がれました。

現在、この吾妻橋の工場後はアサヒビール本社となっていますが、浩養園の名称はサッポロビール社に引き継がれ、名古屋のビール好きに親しまれています。

 

名古屋を代表する立派な庭園だった浩養園ですが、ビール工場の再編や再開発といった時代の流れに伴い、サッポロビール名古屋工場の閉鎖とともに規模を縮小し、いまの姿となりました。

 

それでも、夜になるとライトアップされる園庭を残し、夏になるとビヤガーデンを楽しむ人で賑わいます。ビール工場は2000年に閉鎖されショッピングモールに姿を変えましたが、浩養園にはビール工場併設レストランの面影が残る立派で余裕のあるつくりです。

 

送迎バスもあり、飲んだ後の帰りの足も心配いりません。とはいえ、最寄り駅も徒歩10分程度なので、酔いざましがてら歩くのも良いでしょう。

 

ビヤレストランとジンギスカンのふたつがあり、シーズンになるとレストランとは別にビヤガーデンも開かれ、名古屋中心地に近くビール会社系列の大規模ビヤガーデンということで、この界隈の夏の風物詩ともなっています。

 

天井が高く大変立派な作り。ただのレストランという枠に収まらない、ビールのテーマパークのような雰囲気。それもそう、なんと敷地内ではクラフトビールブーム以前から浩養園地ビールを製造しています。聞けば、マイクロブルワリーとはいえ、ちゃんとサッポロビール本体の醸造施設なのだそう。

とはいえ、乾杯はいつものビール、サッポロ黒ラベルが落ち着きます。静岡工場直送の黒ラベルは、ビール会社系列のサッポロライオンの名に恥じない美味しい一杯です。では乾杯!

 

浩養園は銀座ライオンを運営と同じ系列ですが、フード類にオリジナリティを感じます。名古屋メシが充実していますが、観光客向けではなく地元の人の定番として食べられているのも興味深い。

 

味噌串かつがビヤホールにある不思議さ。もちろん八丁味噌の甘さとコクが効いた濃い目の味付けはビールの吸い込みを一層高めてくれます。

 

無濾過・樽生ビール「プレミアムホワイト 白穂乃香」は首都圏の一部地域で、しかも品質管理を基準を満たした特別なお店でしか飲めない大手ビールらしからぬ幻の銘柄でしたが、今年に入って輸送体系の整備から首都圏以外で初となる愛知県での取扱いがスタート。那須工場のみで造られ無濾過ゆえに味が変化しやすい鮮度第一のビールだけに、地味だけどスゴイこと。浩養園はもちろん取り扱い。状態もばっちり。

 

ビールの醸造設備を真横に眺めながら、解放感ある広く高い天井の空間で、お昼間からのんびり乾杯はいかがでしょう。昼酒どころが少ない名古屋で、貴重な老舗レストランの一軒です。

 

余談ですが、浩養園で学生アルバイトをしていた熱心なビール好きの青年は、そのまま就職してサッポロライオンで支配人などビヤホール運営の道を歩み、現在は取締役 常務執行役員。カウンターマンから営業のトップまで多くの方を取材してきましたが、日本最古のビヤホール会社サッポロライオンは、麦とホップの力で人の心を満たすことが好きでたまらない人たちばかりです。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

サッポロビール 名古屋ビール園 浩養園
052-741-0211
愛知県名古屋市千種区千種2-24-10
11:30~22:00(無休)
予算3,000円