1876年、日本人初のビール醸造の地・札幌。札幌のビールの歴史は国営の北海道開拓使麦酒醸造所として始まります。払い下げ後は札幌麦酒となり、その後合併により日本麦酒となり、戦後にサッポロビールの名に戻り、今年で141年目を迎えるサッポロビール株式会社です。
はじめて醸造した商品としてのサッポロビールは、生ビール黒ラベルの登場に際してサッポロラガー(赤星)と名を変更し、今年誕生140年となります。
銀座7丁目のライオンビヤホールなど麦酒産業史に残る資産を保存し、主張しているサッポロビール。全国にあるサッポロ関連の麦酒史跡の中心にあり、ぶれることなく輝く北極星のような存在が、創業の地にあります。
創業の地、と一言でいってもその規模は大きく開拓使麦酒時代の醸造場跡地はサッポロファクトリーとして、マイクロブルワリーを持つ旧醸造場の赤レンガ施設と隣接する商業施設及びサッポログループが運営するホテルとなっています。
醸造における加工等で使用されていた施設跡地はサッポロガーデンパークとして整備され、1890年築・1903年より精麦工場として使用されていた赤レンガ建造物「開拓使館」を中心とした観光施設となっています。
とくに赤レンガ建築の建物は北海道遺産に認定され、国からも重要文化財指定の打診をうけるなど、ビールの歴史において大変貴重な建物が保存されています。
開拓使館はサッポロファンでなくとも必見のビールの歴史を展示・体感、そして試飲ができるサッポロビール博物館となっているほか、ガーデン内は複数のビヤホールからなるサッポロビール園となっており、博物館見学の後は美味しいビールで乾杯を楽しむのが定番コースです。
ビール博物館とビール園の受付は2016年にサッポロビール140年事業の一環でリニューアルされ、開拓使館内総合受付で共通となりました。ここで博物館見学からビール園での乾杯までシームレスに手配ができるように。
取材にあたり、サッポロビール園統括支配人の板野太貴氏にご案内いただきました。
開拓使館内にある「トロンメルホール」は、日本最大級のビヤホール。ビール工場として使用されていた建物だけあって、広く天井も高く開放的です。1890年に建てられた歴史的な建造物の中で飲めるというのも素晴らしい体験になります。タラバガニ・ズワイガニ・鮮魚など、ジンギスカン以外の北海道食材も揃う総合ビヤホールとしての位置づけ。
3階のケッセルホールは、サッポロ黒ラベルのCM「大人エレベーター」のロケ地として使用され、俳優・妻夫木聡さんがジンギスカンをおつまみに黒ラベルを飲むシーンに使われました。
開拓使館の他に「ポプラ館」「ライラック」「ガーデングリル」の3のビヤホールがあり、用途に応じて選びます。
サッポロの歴史や観光で来たならば開拓使館ですが、落ち着いて飲みたいときは2006年オープンの「ライラック」へ。ビール園内でメニューはそれぞれ異なっていて、味付けジンギスカンはここでしか食べられません。
ハイクラスホテルのような佇まいで洗練された空間の「ガーデングリル」。
個室も多く、他の人を気にせずに好きなだけ楽しめます。パークに向いた大きなガラス窓から差し込む光と緑に照らされて飲むビールは最高です。
著名な方のファンも多いそうで、「なゆさんもお忍びでどうぞ。」とのこと。
レトロモダンなつくりポプラ館は1977年築。1992年にリニューアルされ、120席まで利用可能な大型個室を備え団体利用向けのほか、地元の方たちの「普段使い」のビヤホールとしても愛用されています。観光客の多い空間より、のんびり過ごせるのだと札幌在住の友人が話します。
また、2017年は6月23日から9月10日まで、屋外ビヤガーデン「SAPPORO BEER TERRACE」もオープン。とにかく、至る所で恵庭工場直送の鮮度抜群なサッポロビールが楽しめるのです。
観光での利用や、ビール園がはじめての方におすすめは1919年製の仕込み釜(ケッセル)が中央に鎮座する開拓使館内のケッセルホール2階です。赤レンガの三角屋根の下、ステンドグラスを通して差し込む穏やかな日差しの中で楽しむ王道のビヤホールです。
ランチからやっているジンギスカン食べ放題。平日は食べ飲み放題で税込3,240円と割安。通常メニューでも3,900円で食べ飲み放題が用意されていますので、道内最初のビール&ジンギスカンはビール園がおすすめ。札幌駅からやや離れていますが、すすきの・大通りでは感じられないダイナミックな空感での”でっかい宴会”が楽しめます。
ビールは恵庭のサッポロ黒ラベルほか、サッポロビール園限定のサッポロファイブスターやサッポロクラシックなど、ピルスナーだけでも種類豊富なのが特長。さすが聖地のビヤホール。
サッポロビール園の生ビールは伝統のスウィングカラン。注出から2~4秒でジョッキを満たす特殊なヘッド・ビール回路を使用しています。通常のサッポロのセパレサーバーが435ジョッキを満たすのに泡載せまでに10秒ほどかかりますから、そのスピードはかなりのもの。
左手にジョッキ、右手にハンドルを持ち、渦を巻くように注ぐのだそうですが、聞くのと実際にやってみるのは大違い。
スウィングカランの一度注ぎは、ほどよく炭酸量となり、甘さが感じられるふんわりしたビールになるのだそう。
素人はもちろん、スウィングカランを経験したことがなければ、ベテランのカウンターマンでも上手く注ぐのは至難の業だといいます。最低3~4ヶ月の修行で一人立ちという職人の世界です。
スピーディーに出す理由、それは大箱のビヤホールであってもピッチャーでの提供を行わないというポリシーから。一度に大量に、抜群の生を用意するための技です。
サッポロビールは北海道で生産されるすべてのホップを全量買取しています。また、ビール大麦とホップ、ビールの原料をビール会社みずから「育種」し、現在も研究開発を研究機関や北海道内の農家と進めています。
北海道の大地そのものであるビールだからこそ、聖地で飲むビールは美味しくなければならない。そんな想いが、生産者、醸造技術者、そして私たちの口に入る直前の職人・カウンターマンまで意思のあるリレーが繋いでいるのが伝わってくる一杯です。乾杯!
ジンギスカンは味付けの壺入りの味付け、生ラム、トラディショナルジンギスカンまで、ひとことでジンギスカンと言っても種類は様々。
生ラムは肉の旨味をダイレクトに感じられ、黒ラベルとの相性が抜群です。ニュージーランドもしくはオーストラリアの生後1年未満のを醤油ベースの伝統のタレで食べます。
サッポロビール園のジンギスカン鍋は北海道の形。まずは油をよくひいて、よく熱がはいるまで我慢するのが上手く焼き上げるポイント。中途半端な温度だとお肉が鉄板にくっついてしまいます。
周囲に野菜を敷いて、中央にお肉を載せると、お肉の旨味が野菜に流れてより美味しくなります。
はい、完成。味付けラム、トラディショナルラムとありますが、最初はすっきりした生ラムからいきたい。高い天井、美味しいビール、重厚な空間。ラムが引き立て、ビールが美味しい。
サッポロビール園でしか飲めないファイブスターは、サッポロビールが1967年に発売した同社のプレミアムビールのパイオニア。1972年にヱビスビールブランドを復活させ、サッポロのプレミアムラインをヱビスの名とすることになり終売となった歴史を持ちます。
サッポロビール全社的にみればヱビスがプレミアムビールですが、道民のプレミアムはファイブスターということで、ビール園でのみ提供が続いています。
敷地内に併設されている売店では、サッポロビールグループの様々な商品が並びます。工場見学でお馴染みのグラスやTシャツはもちろん、あらゆるものが揃います。サッポロビールのグッズ品揃えでは、おそらく日本一。
広大な石狩平野を感じる広々した土地に歴史を感じる建造物。天井の高い明治築の空間で楽しむビールは格別の美味しさ。賑やかななかでワイワイと会話して大きく笑って、北海道のダイナミックさを食で感じるスポットです。
今年、51年目を迎えたサッポロビール園。聖地のビールで乾杯しませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/サッポロビール株式会社・株式会社新星苑)
サッポロビール園
0120-150-550(サッポロビール園総合予約センター)
札幌市東区北7条東9丁目2-10
11:30~22:00(ラストオーダー21:30・年末年始を除き無休)