いまほど外食にチェーン店がなく、交通の主体も鉄道にあった頃、駅長さんがいるような駅前には一軒や二軒、あたりまえに食堂があったものです。
時代の変化は仕方がないですが、国道沿いのチェーン店で日本全国変わらぬ看板で、地域色のない味を食べるのはなんだか寂しい気がします。今再び、駅前の昭和のありふれた食堂にスポットライトがあたることを願いたいものです。
東日本大震災の津波でホームまで浸水した宮城県の石巻駅。震災以前よりもむしろ交通の便はよくなりました。仙台駅から「仙石東北ライン」という新たな路線が開通し、宮城の中心・仙台駅から最短52分。近くなった石巻へ、鉄道で飲み旅をされてはいかがでしょう。
石巻駅周辺は新しい建物が目立ちますが、寿司屋や割烹、居酒屋などが多数看板を掲げていて飲み歩きには困りません。さらには、お昼から飲むことも可能。駅前の「藤や食堂」はそのひとつ。タクシードライバーや鉄道マンが山盛りの定食を食べていたり、店の隅では地元のご隠居がお昼酒を嗜んでいる姿がある典型的な駅前食堂です。
創業は1945年(昭和20年)と古く、店も震災以前から同じ建物を使っていることもあり、年季の入り具合が実に色っぽい。津波ではテーブルまで海水に浸ったそうですが、震災の年の7月には営業を再開されていて、店の復活は地元のメディアでも取り上げられたほど。
駅前食堂といえば、蕎麦、うどん、ラーメンに丼ぶりとなんでもござれが基本。常連ともなると、親子丼のアタマだけをつまみに、カツ綴じにして日本酒と合わせていたりします。牡蠣そばがあるのが、さすが宮城県。
ビールは瓶だけ、それと日本酒。居酒屋と比べれば物足りなく感じるかもしれませんが、食堂飲みといえば酒と麦酒の2つで十分なのです。
日替わりの魚介類の豊富さと、その顔ぶれに港町の食堂ならではの魅力があります。金華のブランドで有名な金華サバも、ここではありふれた日常食です。
ビールはアサヒビール。スーパードライの瓶、背もたれの低い椅子、昼間のワイドショー。差し込む日差しに包まれて、優しく平和な時間が流れています。乾杯!
牡蠣、海鞘、金華の魚と並ぶ海の幸といえば、さんまでしょう。さんまのシーズンを狙ってくるもよし。旬を考えずにふらりときても、石巻でさんまをつつきながら昼酒ができるという、ただそれだけでも楽しい気分です。
全国でご当地焼きそばが取り上げられた「B級グルメ」ブームのなかで、石巻の焼きそばの名前を耳にしたことがあります。
二度蒸しした茶色い麺が特長で、ソース味というよりは出汁で食べさせるのが特色。地元のスーパーでも二度蒸しで調理前から茶色い焼きそば麺が売られているんですよ、と近くの居酒屋の大将が教えてくれました。
あとがけソースは、ウスターソースのようなさらつとしていて、スパイシーな味。焼きそばの個性は奥が深くおもしろい。
結構ボリュームがあり、酒飲みのつまみというよりは、お昼ごはんにちょいとビールといった感じですが、食堂飲みらしくてそれも素敵です。特製焼きそばは700円。豚肉、ネギ、もやしで炒め、目玉焼きと紅しょうがのトッピング。
料理よし、雰囲気よしの昔懐かしい駅前食堂へ、ちょいと昼酒に立ち寄られてみてはいかがでしょう。
今回は焼きそばで飲みましたが、鯵の塩焼きで冷酒を傾けているご近所のお父さんがとても幸せそうだったので、次回は魚で一献といきたいな。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
藤や食堂
0225-93-4645
宮城県石巻市立町2-6-17
11:00~20:00(不定休)
予算1,800円