住みたい街ランキングで上位になったことで話題の「武蔵小杉」。古くから工業地帯で、南武線の前身、国有化前は南武鉄道という私鉄だったころから、多摩川と南武線の間は大規模な工業地帯でした。
東急電鉄が開業した時点では武蔵小杉という駅名はなく、現在から少し横浜方に「工業都市」という駅がこの街の渋谷・横浜との玄関だったそうです。
そんな武蔵小杉は、アクセスのよさもあって工場移転で生まれた空白地帯は、あっという間に再開発されてマンションやショッピングモールが立ち並ぶ。いまや、東横線を代表するベッドタウンに生まれ変わりました。
そんな街の変化を見続けてきた酒場があります。半世紀にわたりこの街で愛され続ける名店「文福」です。
もとは工場地帯に隣接する労働者のための庶民派大衆酒場。現在は人気住宅街で感度の高い人も通う都市型酒場。客層はがらりと変われど、その味は代々親から子へと受け継がれてきています。
武蔵小杉はそんな歴史もあって労働者向け酒場が多い街ですが、その中でもひときわ文福は賑わいを見せています。
昔は比較的ふらりと入れたのですが、いまや巨大ベッドタウンの人気店。金曜日や週末は予約しないと入れないほどです。
北口、多摩川よりに歴史を感じる本店があり、東急武蔵小杉駅前、センターロード小杉の入口にある店舗が支店「武蔵小杉店」です。もとは別の支店もありましたが、南西エリアの再開発に伴い閉店し、現在の2店舗体制です。
武蔵小杉店は駅から近くて梯子酒にも便利な場所、東横線・南武線ユーザーは覚えておいて損はありません。
ビールは昔からサッポロビール。しかも極上のクオリティ。パーフェクト黒ラベルの専用POPの通り、鮮度から提供品質までこだわりの一杯が飲めるのです。武蔵小杉のレジェンドは、黒ラベルで乾杯。
パーフェクトな生ビールは、飲んだ数だけ泡のレースがジョッキに残ります。筆者は冗談で「飲み手が試される生」と呼んでいます。
黒ラベルのほかに地域・特定店舗限定発売の白穂乃香もあります。ご当地・ナギサビールや、珍しいところでは樽詰めの”生ホッピー”白・黒の存在。生はちょっぴり高級ですが、通常のセットは390円と良心価格です。
時代とともに少し値上がりはありましたが、変わらず顔ぶれの品書き。文福サラダは栄養満点の健康料理。焼鳥屋のピザなど、現在の代(女性)になって増えた料理も気になるものばかり。
日本酒は「金ちゃん」が定番酒で小徳利で350円。こだわりの地酒も様々揃っています。
焼鳥・焼とんができるまで、冬場はむし豆腐を、夏場はキムチもやしが定番です。むし豆腐は、味付き湯豆腐のようなもので、茶碗蒸し風の具材とゆずの風味を楽しむ一品。寒い夜、これをつついてのむお酒が美味しいのです。
そして、なにより文福の名物といえば「カレー煮込」です。創業当時からの看板料理で、居酒屋の定番の煮込みをカレー味にしたもの。いまでこそ、カレー煮込みを扱う居酒屋は多いですが、文福はその先駆け的な存在。
シロなどのモツとスジを合わせてトロトロに煮込み、一日寝かせてから豆腐と合わせるという手間のかかった一品で、長年愛される理由がわかる美味しさです。
カレー煮込には生ホッピーもよく合います。樽詰めならではのキメの細かな泡がおいしさのポイント。
通常、手羽先は高めの値段設定が多いですが、文福は1本120円で若鶏などとかわらない設定。大山鶏を使用しています。表面はぱりっと、中から肉汁がじゅんわり。
串焼き5本とカレー煮込がついたセット(1,100円)で始めるのが文福流。腕自慢のつくねは、甘辛のタレで重ね焼をして素敵な照り具合。焼いても違いがわかる鮮度のよさ、文福の鳥・豚もつは美味しい。
イタリア焼きや玉三郎など気になる名前を見つけたら、話のネタで頼んでみましょう。カウンターで一人酒ならばお店の人との会話になりますし、グループで飲むときも何が来るかと盛り上がるかも。
ポッカサッポロのパンチレモンサワーや、お店オリジナルのものなど、文福はレモンサワーのバリエーションが多い。340円と手頃な値段です。焼鳥・焼とんの脂に負けない酸っぱく美味しいレモンサワーをリピートするのが筆者のいつものパターンです。
武蔵小杉の景色はここ10年で様変わりしましたが、街の名店は変わりません。洗練されたショッピングモールだけでなく、こういう老舗の存在が武蔵小杉という街に厚みを持たせているのも人気になった理由ではないでしょうか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
串焼 文福 武蔵小杉店
044-722-8828
神奈川県川崎市中原区小杉町3-430
17:00~23:00(無休)
予算2,600円